【癒し】彼氏に髪の手入れをしてもらう話。
金曜の夜。
帰宅して夕食の準備をしていると、彼が帰ってきた。
「おかえり。お疲れ様。」
「ただいま。そっちもお疲れ。」
部屋着に着替えた彼が寝室から出てきて、今日の出来事をお互い話しながら一緒に夕食の準備をする。共働きのため家事は分担が基本だ。
付き合って3年、同棲を始めて半年。
夕食の準備という何気ない時間にも、大切な人と時間を共有していることが嬉しい。
夕食のキーマカレーとサラダを食べ終え、一通りの片付けを終わらせた後はお風呂の時間だ。
今週は忙しかった。2つ年下の後輩ができ、教育係を任されたのだ。初めての後輩で嬉しい反面、慣れない指導と自分の業務の両立に苦戦した。あーあの部分はこうやって教えたら分かりやすかったかな、と反省が頭をもたげつつ、ラベンダーの香りの入浴剤をいれて湯船に浸かって疲れをとった。
幾分スッキリしてリビングに戻ると、先にお風呂を終えてソファで文庫本を読んでいた彼がふと顔を上げた。普段はワックスで整えてるゆるく天然パーマがかかった髪が下されて、少し幼い印象になる。
「おかえり、随分長風呂だったね」と苦笑されてしまった。
「考え事してたら長くなっちゃった」と笑いながら彼の隣に座ろうと歩み寄ると、彼が足の間をポンポンと叩いた。
「髪の毛、やってあげる」
その言葉を聞いてわかりやすく嬉しい表情になったようで、また笑われてしまった。
私の髪は背中の真ん中くらいまであり、結構長い。乾かすのに20分はかかってしまう。ちゃんと乾かさないと髪が痛む原因になってしまうとは分かりつつ、疲れている時は結構めんどくさい。
いつだったか、彼が私がドライヤーで髪の毛を乾かす様子を見て「大変そう」と物珍しそうにしていた。結構大変なんだよ、と顔をしかめていると「自分もやってみたい」と。それ以来、彼にお願いすることが増えた。
ドライヤーと粗めと細かい櫛、洗い流さないトリートメントを持ってきて、彼の足に挟まれるような形でソファの下に座った。ここからは癒しの時間だ。
まずはタオルドライ。髪の毛を摩擦で痛めないように1束ずつポンポンとタオルで挟んで余分な水分を吸収していく。完了すると手のひらに洗い流さないトリートメントを3プッシュして手のひらに伸ばし、毛先から揉み込んでくれた。数種類持ってる中から今日選んだのはイランイランの香りのものだ。甘美、という言葉がしっくりくるような異国感漂う香りに包まれる。もみ込んだ後、彼は粗目のコームを取り出した。それで私の髪を毛先から中間、根元の順番に梳かしていく。毛先の時は絡まっている部分を解きほぐすように1束ずつ丁寧に。ブラッシングされると頭皮にピリピリとわずかな電流が流れるような感覚が伝わり、快感に変わる。髪には神経が通っていないはずなのになんでこんなに気持ちいいのだろう。
その後タオルを頭を包むように巻かれると、頭皮を掴むような形でギュッギュッと指圧される。彼の指は男性にしてはすらりとしているが、やはり自分のそれと比べると太くて力も強い。指圧されたところから鈍い痛みとともにじんわりと気持ちよさが広がって、滞っていた血流が流されていく。
「頭皮結構硬いよ。疲れただろ、今週」
そう言いながら頭を撫でてくれた。くすぐったい気持ちになるが、安心感に包まれる。
「少しほぐすよ」
そう言うと首の筋を肩に向かって親指で流すように指圧される。頭皮の時に比べて力は軽いが、凝り固まっている筋がほぐれていくのを感じる。特に硬い部分はあまり力はかけないように気遣いつつくにくにと揉まれる。デスクワークでずっと下を向いていたので、すごく効く。
そのまま肩にむかって手のひらでさすってくれた。彼は手がとても温かい。さすられているだけなのに、血がザザァっと流れていくのを感じた。その後ゆっくり、じんわりと親指で指圧。電流がピリッと走るような快感が肩の筋肉の奥深くまで到達する。呆けた顔をしていたようで、「気持ちいいです、て顔だな」と優しく笑われた。
「よし、そろそろ乾かすよ」
そう言ってタオルを丁寧に頭から外し、ドライヤーをセットしてくれた。ゴオーだと言う音と共に温風が頭皮にあたる。熱くならないように距離をとって細かく動かしながら、けれども乾かし残しがないように。温風で頭皮がじんわり暖かくなって眠気を誘う。
その後は粗いブラシで髪を丁寧に梳かしながら、水分を毛先に集めていく。毛先は直接温風を当てなくても自然と乾いていく。水分を毛先に集めることで、髪に余計なダメージを与えることなく、艶を残しながら乾かすことができるらしい。ドライヤーとブラッシングを何度か繰り返し、ドライヤーの暖かさと労られている心地よさで瞼がだんだん重くなってきた。瞼を上げることが出来なくなり、そのまま意識が途絶えた。
深い眠りのように感じたが、数分程度で目が覚めたらしい。目を開けると冷風を当てながら綺麗な内巻きに整えられている。仕上げにもう一度、ヘアオイルを髪に塗布されて完了だ。
「すごいサラサラになった。」満足そうな彼の呟きに思わず笑みがこぼれ、幸福感が心を満たした。今度は私が肩揉んであげよう、癒してくれた分お返ししよう。