それぞれの夜
「なんで気づかれたんだろうな・・・。」
部屋に残った大人達は、静かに語りあっていた。
呟くように話すガラムにジルが慰めた。
「仕方ないことだ。お前が悪いわけじゃない。あいつらもワシらが思っていた以上に成長してたってことだ。」
「珍しいな、ジルが慰めてくれるなんてよ。気味が悪いくらいだ・・・。」
「ん?そうか、ワシはいつも皆のことを気にかけているんだがな。」
「そうか、初めて知ったぜ。ったくなんでバレたんだろうな・・・計画のこともレイのことも・・・。」
しんみりとした口調で後悔するガラムに兄のガイルは短い言葉で終わらせた。
「全部、運命なのかもしれないな。」
「フッ運命?そんな言葉で片付ける気かよ。らしくないぞ兄貴。」
兄の意外な言葉に驚き、今まで聞けなかったことを尋ねはじめた。
「今更だが兄貴、レイに手紙を毎年よこす奴って信用できるのかよ?そいつがそもそも国に密告したんじゃないのか?みんな兄貴のこと信じてたから今まで何も聞かなかったが内心疑っている。そいつことは兄貴以外誰も知らないからな。」
ガラムの言っていることは、レイとガイルを除く全員が思っていたこと。
本当に今更だとも思っている。
「おれはあの人が密告したとは思えない。そう信じたい。」
「確証はあるのか?」
「あの人はレイの能力のこともおれ達の素性も知っていた。その上でレイとおれ達を見守っていると言った。」
「レイはともかくおれらのこともか?意味がわかんねえ。」
投げやりな態度をとるガラムだが、その後すぐに何か考え込むよな気だるそうな表情になった。
「でもなぁ今までこの暮らしができたのはもしかするとそいつのおかげなのかもな。」
ガラムのちょっとした一言にこれまでずっと黙っていたことをソトが話し始めた。
「実はな、私達以外にもここを出入りしている者がいるのは霧の反応でわかっていた。確かめようと反応のある場所に行ってみるとその人はレイをずっと見ていた。」
本当に今更だがこれまでずっと溜めていたことを話したソトの少し安堵した表情に誰も咎めたりしなかった。
「ずっと見ていたってどんな感じだ?」
「文字通り見守っているという感じだったな。その目は暖かく、優しかった。」
「そいつってもしかして・・・。」
一同は同じことを考えた。
レイの肉親、あるいは出生に関わりのある者ではないかとそう思った。
全員が無言のガイルの顔に視線を向け、様子を伺った。
ガイルは口を閉ざしたままだった。
もしそうであるならばいくらかの希望は持てるが、そうでない場合は現状何も変わらない。
ガイル自身もレイの出生に関しては全てを把握しているわけではないからこそ余計なことを口にするわけにもいかなかった。
「まぁでも、私達以外にもレイくんのことを知って見守ってきたことに変わりはないわ。例えそれが何かの監視だったとしてもあの子が生きて来られたことは事実よ。後のことはその方に勝手だけど託してみるしかないわね。」
沈黙の中、静かにそう言ったのはセシルだった。
彼女の言葉に皆は安堵し、大人達の夜は静かに過ぎて行った。
時間は少し戻り、話し合いの部屋を出て行ったアナが真っ先に向かった場所はレイとガイルの家だった。
静かにゆっくりと扉を開け、物音は最小限にして中へと入った。
レイの眠る寝室へと続く木造の階段をゆっくり登った。
ギシギシときしむ音を抑えながら寝室の方へと向かった。
扉が半開きになっているところを見るとガラムが焦っていたのが目に浮かぶ。
ベッドには深い眠りにつくレイの姿があった。
寝相が悪いレイは掛けてあったシーツから半分以上はみ出した状態で寝ていた。
「まったく・・あんたは能天気でいられていいわよね。」
くしゃくしゃになっていたシーツを伸ばし、レイの体を覆うように被せた。
安心して眠るレイの姿をしばらく見つめた。
頬つついたり、手を握ってみたりしているうちにアナの中で何かがこみ上げてきた。
今夜がレイといられる最後の時間だと、そう思うとレイと過ごしてきたことを思い出して胸が苦しくなった。
そして、後悔もあった。
レイに対してずっと言えずにいたことがあった。
「ごめんね・・・守ってあげられなくて・・こんなお姉さんでごめんね。あたしずっとレイのこと・・・。」
深く眠りにつくレイ傍で涙を流しながら思いの丈を話すアナ。
「大丈夫よ、アナちゃん。自分を責めないでみんな同じ気持ちだからあなただけが気に病むことではないわ。」
「サラちゃん・・・。」
サラがアナの肩を抱き寄せながら言った。
気休めでもアナには心暖まる言葉だった。
だが、それ以前に引っかかることがあった。
「なんでここにいるの?」
「なんでってアナちゃんが入って行くのが見えたら来たのよ。」
「何処から入ったの?えっ、なんの音もしなかったけど?」
サラが小窓を指さして微笑みながら言った。
「あそこのから入ったわ。」
「普通に入ってきてよ!」
小窓の近くにはベリアとカルベルもいた。
「あんた達いつの間にいたのよ?」
二人は少し気まずそうに答えた。
「いやぁ・・お前が入った直後にオレ達も窓から入ってたんだけどな。」
「ええ、アナがレイに夢中だったので声をかけるのを躊躇っていたところです。」
この数分間の間自分がしたことを思い出し振り返るとかなり恥ずかしいことに気が付いた上カルベルのレイに夢中だったという台詞にはかなり焦りを感じた。
「ちっ違うわよ!別にこんな奴に夢中になってた訳じゃないわよ!だいたい普通に入って来なさいよ、このバカ共!!」
アナの焦りっぷりにも特に動じることのないカルベルとベリア。
今更という感じだった。
「まぁ別にいいじゃねぇか落ち着けよ。そんな騒いだらレイが目を覚ましちまうぞ。」
「大丈夫ですよ。ブルーリリーの効果はこの程度では切れません。」
「そうなのか。しかし、カルベルの入りかたは怖すぎだろ。」
「そうですか?あれが一番効率がいいのですが。」
「オレの靴に花粉くっつけて入った途端花咲かせて花から転移してくるんだからよ。びっくりして声が出そうになったぜ。」
「花の能力を持つなら当然の手法です。見たことあるはあるはずですよ。」
「あれだけは慣れないだよなぁ。」
こんな下らないやり取りを聞いている内にアナはだんだんと苛立ってきた。
「どうでもいいわよ!ってか本当に普通に入って来なさいよ!それで、みんな何しに来たのよ?」
ベリアは足下に置いてあった布袋をアナに見せた。
「なにそれ?」
「レイに持たせる荷物だ。食糧とか服とかな。これを持ってくるついでにレイの顔でも見とこうと思ってな。安心しろアナみたいに手を握ったりはしないぜ。」
「うるさい、別にそんなこと疑ってない!」
「あぁわかったわかった。」
「ちっ!で、カルベルは?」
適当な態度のベリアに腹立ちながらカルベルを睨み付けるアナ。
「なんでぼくを睨むのですか?ぼくはレイに渡しておきたいものがあったので来たんですよ。」
「渡してたいものってなによ?」
カルベルが魔法で手のひらにクローバーを作り出した。
そのクローバーは葉が二枚しかないものだった。
「クローバー?」
「ええ、幸運のクローバーと言います。元々は葉が四枚あったのですが、二枚は別の方達にあげました。」
「誰にあげたの?」
「ぼくの大切な人達にです。」
今までになく優しい顔をして答えるカルベル。
大切な人達というのはおそらく本当の家族のことだろう。
それ以上のことは誰も詳しく聞かなかったが、そう思う他なかった。
「それでその一枚の葉をレイにあげるのよね。」
「いいえ、これごとレイ渡します。」
カルベルはクローバーをレイの胸元に植え付けるようにそっと置いた。
クローバーはレイの体の中に入るように消えた。
植物の能力は多種多様に存在するので能力を持たないものにとっては少し異様な光景に見えた。
「ね、ねぇ・・カルベル、これ大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫もなにも幸運のクローバーは持つ者を危機から救う魔法です。」
「そうなんだ・・ならいいけど。」
「今までともに生きてきた家族に変な魔法使うはずないでしょう。」
「そうよね!大丈夫よね!」
「当たり前です。何をそんなに焦っているのです?」
冷や汗を額から流しはじめるアナとベリア。
原因は予想出来ていた。
カルベルはサラの方へと目を向けるといつの間にかサラがレイの使っている短剣を持っていた。
「そんな物を持ってどうしたのですかサラ?」
平然とした態度でサラに問いかけるカルベル。
「カルベルがレイくんを殺そうとしてると思って・・・。」
「話を聞いていましたか?なんでそんな解釈になるのか分かりません。まぁいいでしょう、それよりサラは何しにここへ来たのですか?」
サラの猟奇的な行動も驚きだが、平然と受け流すカルベルにもかなり引いた様子のアナとベリアだった。
二人を尻目にサラはカルベルの質問で自分の目的を思い出した。
「そうだった!わたしもレイくんにあげる物があったんだ!」
サラはレイの短剣を元に戻し、ベッドのんきに寝るレイの上に股がり頬を赤らめボタンの上二つを外した。
「レイくんと別れる前に・・わたしの初めてを・・。」
レイにキスしようとする寸前に待ったをかけたのはアナだった。
「ちょっと!何してんのよサラ!そんなことダメに決まっているでしょ!」
「なんで?」
「なんで?っじゃない!今まで子どもを増やさないようにしてきた理由くらい知っているでしょ!」
「知っているけど。でもどうせ皆命狙われているだから別れるなら最後に思い出くらい欲しいじゃない。」
「ぐぅ!変な核心の突き方やがって・・。でも、ダメなものはダメ!」
「いいじゃない少しくらい。何、アナちゃんも混ざりたい?」
「わたしは一対一が・・・ってそうじゃない!!とにかくダメ!」
アナとサラが小競り合いをしている中、蚊帳の外の二人は小窓から見える月を眺めていた。
「もうしばらくこんな暮らしができると思っていたんだかな。なぁカルベル。」
「ええ、レイにもっと笑っていて欲しかったです。レイにしっかり自身の能力について教えていればもっと違った未来があったかもしれないです。」
「あぁ、そうかもな。なんでだろうな、あいつ見てると能力とか闇とかどうでもよくなって今のままでいいと思っちまう。いいわけなかったのによ・・・。」
「ただひとつ言えるのは、今のぼくたちは紛い物の家族かもしれない。」
「嫌な言い方するな、カルベルはよ。オレはそうは思いたくはないがな。」
「ぼくもです。」
レイの追放が決定し、長い夜は何もなく過ぎて行った。




