学舎
レイたちが捕縛されてから一夜が経ち、二人は横並びに吊るされていた。
一人につき一本の木が昨夜と同じように枝でぐるぐる巻きにされていた。
ルークは人足先に目を覚ましなにやらイライラしていた。
「てめぇら何観てんだ!ぶっ飛ばすぞ!」
レイとルークの他にもこの場にいた。
笑い声やルークをなだめる声がレイの耳に微かに届きそれでレイも目を覚ました。
「…はぁ、なんだ?うるさいな、もう。」
レイの目覚めと同時に全員の意識が集中した。
「お前、やっと起きたか。」
声をかけてきたのは桃を赤く色付けたような髪をした少女だった。
キレイな顔立ちだが観るからに血の気が多そうな活発な顔つきしていた。
目付き切れ長に眉が少し吊り上げていた。
肩まで伸びた髪は少し傷んでいた。
「ん?アンタ誰?」
「私?フレア・ラ・バースだ。ところでお前隣のヤツと逃げ出そうとしたんだよな?けっこうやるな!」
フレアは無邪気な笑顔でレスの頭撫でた。
「うるせぇ、触んな!てか、ここ何処だよ!魔導何とかって所には行きたくねぇ!」
吊るされながらもがくレイにまた別の少女が声をかけた。
「何言ってるのよ、ここが育成所よ。」
「え?マジかよ?」
フレアの後ろから小柄なキレイな深紅の長い髪の少女がレイの前に出てきた。
「マジよ。周りよく観なさい。」
レイが周りを見渡すと森ではなく、木造を基本とした建物の中だった。
五列に長い机と椅子、窓ガラス越しに見える森。
そして教壇と黒板はまるで学校だった。
窓際には教師らしき白髪の女性が魔法で造り出したであろう葉の大きな植物の葉に腰掛けていた。
分厚い本を読み、一瞬レイの様子を伺うとまた本に目を落とした。
「しつけぇ!寄るんじゃねぇよ!」
「いいだろ別に仲良くしようぜ、俺たちははぐれ者なんだからよぉ。」
吊るされたルークは同年代くらいの男達に囲まれていた。
その中の金髪の少年にしつこく絡まれていた。
「お前名前は?何処から来たんだよ?属性なんだよ?一つくらい教えろよな。」
無駄に明るく元気、それでいて人の感情を逆撫でしそうな鬱陶しさがどことなくルークと初めてあった時の自分に似ていた。
あぁ…ルーク、オレとあった時の顔あんなんだったな。
なんか、ごめんな…。
「うるせぇな!お前に話すことなんかない!」
「いいじゃん、いい加減このやり取り飽きた。早く教えてくれ。」
「なめてんのか!飽々してんのはこっちだ!バカは一人で十分なんだよ!」
「おう!んで名前は?」
「……こんのやろぉ!」
大変だなルーク…ん?
今オレもバカにされなかったか!
何か言ってやる!
「まぁ落ち着けよ。」
レイが口を開こうとした時、金髪の少年の背後から声がした。
左の腰に刀を差した黒髪の少年が現れた。
鋭い目付きに真っ直ぐな瞳はどこか強者のような気配があった。
着ている服は紋付袴に加え見慣れない顔立ちと体格をしていた。
何か変なのが居るな…にしても髪長いな、肩くらいまでありそう。
長い髪を頭頂部辺りで括る姿はレイにとっては女性のように感じた。
「人にものを尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀だろう。俺の名は渡辺堅一だ。よろしくな、みのむし君。」
吊るされたルークに対し挨拶をかました。
「ってぇめえ、人をみのむし呼ばわりして何が礼儀だ!海渡りの変人どもが!」
「そう言われてもな、俺はお前の名前知らないから仕方ないぞみのむし君。」
怒れるルークに飄々とした態度で返す堅一にルークも諦めた。
「…ルークだ。」
「ん、なんだ?小声でよく聞こえなかった。」
諦めて名乗ったルークを堅一は煽りだした。
「…っち、ルーク・サンダースだ!!」
「おう、よろしくなルーク。んで金髪の方は何て名前だ?」
ルークにしつこく絡んでいた金髪の少年に堅一は目線を向けた。
「お?オレはアイク・ディオットだ。よろしくな!そうかこうやって聞けばよかったのか。」
「ああ、そうだ。まず自分名乗れば相手も名乗るはずだ。それが礼儀だ。」
「おお!」
満足気な二人をルークは呆れた顔で見つめていた。
「…バカかコイツら。」
ルークから名前を引き出したことに盛り上がりをみせている堅一とアイクの次の矛先はやはりレイだった。
二人はレイに詰め寄ってきた。
「それでお前の名前なんだ?俺たちの名前は聞いたよな?」
聞いただけでなんでこっちも教えなきゃならいんだよ。
「オレはアイクだ、よろしくな!何処の出身なんだ?」
なんなんだコイツら、圧がすごいな…。
出身地なんて言えないな…ルーク助けてくれぇ…。
横目でルークを見るとにやけながらレイを見ていた。
矛先がレイに移った直後にもう関係ないと言わんばかりにレイを見放した。
くそ、こいつまたかよ!
ルークがレイに聞こえるくらいの声で呟いた。
「せいぜい頑張れよ。」
この野郎…。
「名前くらい教えてくれよな。」
「そうだ!礼儀というものは大事にしないとな!」
アイクと堅一が更に詰め寄ってきた。
「…オレはー。」
意を決して口を開いた直後に遮るように芯のあるような女性の声がした。
「はい、皆揃ったわね。」
その声の主は先ほどまで大きな葉の植物に腰掛けていた教師らしき人物。
「みんな席につくように。授業前の自己紹介をしていただきます。」
「どこでもいいのか?」
「構いません。」
アイクのどうでもいいような質問だがそれにならって各々は着席した。
大体は知った者同士の隣だった。
中には興味がある者の近くに寄ったり、チラチラと遠目から観たりしていた。
その中でもレイとルークはみのむし状態で吊るされ、注目の的になっていた。
好奇の眼差しに晒されルークは更にイラつき始めた。
「おい!何でオレ達だけ吊るされたままなんだよ!白髪ババア!」
この発言により教室が一気に静まり返った。
ルークの目の前に教師らしき女性は静かにゆっくりと立った。
「なっなんだよ?」
うろたえるルークを無言の圧が襲った。
教師らしき女性はルークを吊るしている木に手を当て、魔力を込めた。
「いででででっ!骨がっおででゅう!」
この木はもちろんこの女性が魔法で造り出した物で昨晩二人を捕獲した同一の木。
自在に操りることは当たり前だった。
「てめぇぇ…なにすんだよぉぉ…!ババアァが!」
「ババア?それがこの状況で口にすることですか?ルーク・サンダース。」
ゆっくりと圧力をかけてルークのもがきに言葉を返した。
「ルーク・サンダース。あなたには言葉遣いから教えないといけないのですか?」
「で…したら…なんと…およびずれば?…おなまえは…なんでずが?」
ルークは胸部が圧迫され、かろうじて聞き取れる丁寧語を話し始めた。
苦し紛れの台詞たが、この女性にはすんなり受け入れた。
木に込めた魔力を戻した。
「っだは!あぁー死ぬかと思っだー!こんのば―」
「はい?なんです?」
「―いっいえ、何でもありません!」
「まぁいいでしょう。それと名乗るのが遅れましたが、私の名前はユリシア・フリーガーデンです。私のことはババアではなく、先生と呼びなさい。」
半分脅迫のようになっているがルークの性格上これくらいがちょうどよかった。
「…はぁ、分かりました先生…え?名前何言った?」
「はい?ユリシア・フリーガーデンです。それと口利き方には注意しなさい。」
ルーク以外にも何名かがこの名前に反応し、ざわつき始めた。
「そんな事より、ばっ…先生は四大魔導士なのかよ?」
「そんなことではありません!私は先生です!ちゃんと敬語を使いなさい!そっちの方がどうでもいいです。」
「やっぱりそうなのか!マジかよ!」
「話を聞きなさい!」
ユリシアの注意より名前に引っ張られるルーク。
ユリシアも感情的になりだした時、机の最前列に座る金髪の美少年が口を開いた。
「ユリシア先生はギュアの国の英雄、四大魔導士の一人で間違いないのですか?」
身なりこそ普通だか、整えた髪に姿勢や話し方は同年代とは思えないくらいの教養があった。
そして、イケメン。
ユリシアは彼の方へ振り向き、眉間にはシワを寄せてかなり高圧的に答えた。
「過去にそんな呼ばれ方もしましたが、ここではそんな扱いはやめなさい。分かりましたか?」
「はい…失礼しました、先生。」
「よろしい。」
ユリシアの顔はやわらぎ、自己紹介からこの学舎の授業は始まった。




