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ヤミノクニ  作者: 瓜坊
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第2話 家族

 狩りを再開してからしばらくすると、魔獣を発見した。

 ウィンドホーンと呼ばれる翼のような美しい角を持った鹿の魔獣だった。

 その角は頭から背中にかけて覆いつくすようにはえていて、後ろから見ると翼が本当に生えているかのようだ。。

 逃げ足の速さが異常で気付かれ瞬間に風のように視界から消えてしまうほどの素早さだ。

 魔獣との距離は大体10メートルほどあり後ろ姿が見える。

「レイ。いつも通りいくぞ。」

「わかった。」

 息を殺しながら手に込めた闇の魔力をウィンドホーンへと放った。

 黒煙のような闇の魔力のかたまりがウィンドホーンの体を直撃した。

 その瞬間約20秒ほど魔獣の動きは止まる。

 体内にある魔力が削り取られてしまうからだ。

 自然界では滅多に起こらないことゆえにそういう行動をとることが多いのだ。

 このタイミングで父さんの能力が発動した。

 父さんの魔法は≪地属性 タイプ石≫だ。

 ウィンドホーンの頭上に人の頭くらいの大きさの石を作り出しそのまま角ごと頭を潰した。

 ちなみにウィンドホーンの弱点は真上からの攻撃である。

 大きな角が邪魔して死角ができるため真上からのくる物を避けることはほとんどなく、移動速度を上げるため筋肉や骨がそれほど頑丈でないため防御力が極端に低い。

 少しぶつけただけで気絶するほどらしい。

 獲物を仕留め終え、ウィンドホーンの砕け散った角を拾い集めた。

 砕けた角を見ていつもぼくは納得がいかなかった。

 なぜもっと角の原型を留めておかないんだと。

 あんなにかっこよくて綺麗なのに。

「ん?どうした、そんなに不機嫌そうな顔して。」

 ガイルはナイフの形をした石を創り出しウィンドホーンの首を器用に切外しながら尋ねた。

「なんでいつも角まで粉々にしちゃうのかなって。だってかっこいいし綺麗だしもったいないだろ?」

 ガイルは呆れたように返した。

「何を言うかと思えばそんなことか。どうせこれ以上に細かくして薬の材料にするんだ。それになレイ、綺麗だろうと何だろうと中身にこそ魅力や価値があるものなんだぞ。つまらないこ言ってないでお前も手伝え。」

「わかったよ。」

 叱られつつもぼくは腰に携えていた短剣を抜き解体を手伝い始めた。

 ぼくの使っているこの短剣は魔法を一切使われずに出来ている。

 魔法で生み出されたものを使用すると5分と持たず消滅させてしまうため、父さんが自然のもので作ってくれた代物だ。

 多少歪な形をしているが慣れてくればどうということはなかった。

 父さんが今言った言葉の意味がこの短剣を使おうとしたときに何となく理解ができた。

 ただその反面自分の能力がいかに不便なものか改めて痛感することにもなった。

 解体を終え、頭と内臓を地中に埋め手を合わし一礼して狩りを終えた。

  その後捕獲した獲物の脚を1本の木の棒に縛り2人で担いで帰路につくことにした。

 森を出てみんなのいる村の手前辺りに1人の男が立っていた。

 前を歩く父さん越しに見えるその男は霧を発動させているソトさんだった。

 ぼくたちのことを待っていたのだろう。

 その理由も大体予想はつくけれどぼくは声をかけたくはなかった。

 父さんはぼくの顔チラッと見た後ソトさんに話しかけた。

「どうしたソト、こんな時間にここまで出て来るなんて何かあったのか?」

 このオヤジ本当に白々しいな、声のトーンからでも顔がニヤついているのが分かるんだよ。

「いやな、レイが霧から反応が消えて心配で様子を見に来たがその様子だと問題なさそうだな。」

 霧を生み出している本人には状況が筒抜けだった事は分かってはいたけど、いざ直接言われるとさすがに恥ずかしい。

 この状況を面白がっていたのは父さんだけだった。

「ブハハハッこいつまだ霧の範囲分からずに外に出てっちまってびっくりしたよ。ガキの頃から全然成長してねぇな。」

「笑いごとではないんだがな・・・。」

 本来ぼくたちにとってあってはならない事なのだけれど、昔からぼくは外に出てしまうことがあったから父さんにとっては慣れていることでもあった。

 一人笑う父さんとは正反対に未だに不安そうな顔をしているソトさんが少し気になるがそれ以上にバカにされていることに腹が立つ。

「いつまで笑ってんだよ!だいたいそんなでかい声で言わなくていいだろ!早く獲物運んじまおう。」

「いやーすまんすまん、レイの間抜けな部分が久々に見れたもんでなフハハッ。」

「うるさいな!もういいから早く前に進んでよ!こんなところで長話してたらアナ姉さんになんかあったと思われるだろ。」

 血の繋がりはないけれど子どものころから口うるさく怒ってくる二歳年上の姉がいた。

「フハハハハッ確かにアナに知られたらどやされるだろうな。フフフッ。」

「分かってるんだったら早く前に行ってくれよ。」

「まぁそう焦るな。だいたいアナだってなお前のことが嫌いで怒ったりしてるわけじゃないんだぞ。なぁアナ。」

 父さんはそう言って目線をぼくの後ろのあたりに向けた。

 え?

 まさかもう既に後ろに立っている、奴がすでに?

 恐る恐る後ろを振り返ると人影本当にあった。

「うわっ!!本当にいた!ヤバッ!こわっ!普通に怖い!」

 ぼくの驚きぶりを見て父さんはまた一人で笑い始めた。

 そんなことよりも眼前にいるこの面倒くさい女のことで頭がいっぱいだった。

「いつから後ろ立っていたんだよ。普通に出て来いよ。」

「ソトさんと接触するところからよ。ソトさんが森の方に行くなんてあんたが何かやらかしたときくらいだからね。どうせあんた普通に出てきて何かあったか聞いても適当にごまかすだけでしょ?だから内容把握するまで後ろで黙って聞いていたのよ。私の魔法で気付かれないようにね。」

「いや怖っ!ヤバッ!」

「なにようるさいわね!そもそもあんたが悪いんでしょうが!!」

 確かにアナ姉さんは雷属性だから電光石火の移動ができるからぼくが視界にさえ映れば可能な芸当だ。

 ただ、それにしてもやり方が怖すぎる。

「いつまで経ってもバカが治らないから周りが手を焼くのよ。」

 この余計な一言にはさすがにイラっとする。

「お前もバカだろうが!!簡単な料理すら覚えられないし、自分だって外に出てたじゃねえか!」

「料理は関係ないでしょが!!それに少しずつでも出来るようになってるし!だいたい外に出てたのは子どもの頃の話でしょ!十五歳にもなってそんな間抜けなことしてるのあんただけよこのバカ!!」

「バカバカうるさいな。そういうのを馬鹿の一つ覚えっていうんだよ。」

 頭にきて言い返してみたは良いものの今回のことはぼくに非があるので勝ち目は薄い。

 なんとかして話題を変えて逆転しなければ、そう思い視線を逸らしながら口を開いた。

「それに少しずって一品完成させるの何十年後だよ。完成するころにはもうぼく死んじゃってるよ。」

 これは効果あっただろうと思いアナ姉さんの顔をみた。

 悪魔みたいな顔になっていた。

 逆転どころか逆鱗に触れ、むしろ自分の首を絞めていた。

「アナ姉さん・・・?ちょっ・・あの・・・怖いんだけど・・・。」

 アナ姉さんは、ぼくの左胸を鷲掴みにして殺気を混じらせて話し始めた。

「あんたの心臓ぉ・・・直火で焼いたら一品完成よねぇ・・・。安心しなさいよ・・・ちゃんと地獄まで届けてあげるからぁぁぁ!!!」

「すいませんでした!!」

 担いでいた棒を落とし90度に頭を下げ、全力で謝罪した。

 ヤバいヤバい、コッッワァッ!!

 殺されるうえに地獄行き確定?

 普通にイヤだよっていうかなんで父さんずっと笑って見てんだよ!

「ウハハハッお前らの喧嘩はいつ見てもおもしろいなぁ。てか荷物落とすなよレイ。」

 笑うガイルとは真逆で少し不安そうな表情を浮かべるソトに、この時誰も気に留めなかった。

 本人さえそれを隠そうとしながら話していた。 

「まあ・・・無事で何よりだった。私の魔法は完全なものではないからな。それにこの魔法霧の監獄って名前だろ。監獄には脱獄がつきものだと思わないか?」

『そういう問題じゃない!!』

 ガイルとアナにツッコまれ、失笑の笑みを浮かべた。

「まあ確かにそうだな。私も魔力を高める練習でもしようか。」

 そう言ってソトは、レイが落とした後ろ側の棒を担いだ。

「レイ、あとは私が変わろう。ちょうどガイルと話したいこともあったしな。」

「ん?そうかじゃあ行くかソト。アナ、レイを叱るのもほどほどに頼むわ。後から泣きべそ掻かれても困るからな。」

 本当に心外だ。

「こんなことで泣かねえよ!そんなことよりは早くっ・・・ん?誰かこっちに来てないか?」

 ものすごい勢いでこちらに向かって来る人影が視界に入ってきた。

 ガイルが目を凝らしこちらに向かってくる者の正体を言った。

「んん?あれはサラか。何やってんだぁアイツは?火炎魔法なんか出して武装までしてよぉ。」

 こちらに猛スピードで近づいてきた者の正体はサラ姉さんだった。

 五歳年上の彼女は、ぼくのことを本当の弟のように可愛がってくれている。

「サラ姉さんどうしたの?そんな格好までして何かあったの?」

「はぁはぁ・・へぇ?はぁ・・・レイ君・・無事なの?生きてる?ケガはない?」

 息を切らしながらサラはレイに問いかけた。

「うん、なんともないよ。生きてるしケガもない。」

 何なのだろうかこの質疑応答は?

 そう答えると、サラ姉さんは気が抜けたのか火炎魔法で身を包んでいた炎を消し右手に握りしめていた剣を地面に落とした。

「よかったぁ~無事だったんだね。」

 少し涙目になりながらサラ姉さんはぼくを抱きしめた。

 ぼくよりも身長の高いサラ姉さんに抱きしめられると柔らかい胸がちょうど顔に当たりサラサラの黒髪が頬にかかった。

 気恥ずかしいうえ、大袈裟な気もするけれどこれはこれで嬉しいものだ。

 この様子をガイルとソトはニヤつきながら見ていたが、アナだけは不機嫌そうに眉をひそめていた。

「サラ姉さん落ち着いて、さわぎすぎだよ・・・。」

 抱きつくサラを引き離し、なんとかなだめようとしたレイに尖った口調でアナが突っかかった。

「何デレデレしてんのよ気持ち悪い。大体サラ姉は、こいつに甘いのよ。一回死ねばいいのよこんな奴!」

 先ほどまでの怒気に加えて、冷ややかな眼つきで話すアナ。

「アナちゃん言い過ぎよ。アナちゃんだって心配で様子を見に来たんだよね。」

「ちがっ・・わたしは別にこいつがみんなに迷惑かけてないか監視しているだけよ。」

「だとしても死ねばいいはダメよ。」

「・・・・・フンッ。」

「アナちゃん!!」

「分かったわよ!!もうっ!!」

 これでこの件は終了したかに思えたが、そうはいかなかった。

「これは、何の騒ぎですか?先ほどサラが武器庫から剣と鎧を持ち出したようでしたけど。」

 声のする方へ、目を向けると村にいる全員が集まっていた。

 声の主は、カルベル兄さんだった。

 自分に厳しく人にはもっと厳しい人である。

≪植物属性 タイプ花≫の能力持っている。

 この展開は、非常にマズいものだった。

 騒ぎの原因をこれ以上ほかの人間に知られるのは本当にマズい。

 特に、カルベル兄さん知られると本当にから何とかして事実を隠蔽しなければならない。

「いやぁ・・・そのぉ・・・実は荷物の」

「こいつが未だに霧の外に出るようなへまするからこんな騒ぎになってんのよ。」

 アナ姉さんがぼくの話を遮り、本当のことを言いやがった。

 ニヤついた表情をしているのがまた腹が立つ。

「ほう・・それは、とても面白そうな話ですね。」

 いや、顔がわらってないんですけど・・・。

「プフッフハハハハ!マジかよレイ?お前、いつまで経ってもバカのまんまだな。なぁ、べリア。」

 冷めた顔をするカルベルの後ろで高笑いしてはなすこの男は、ガイルの弟のガラムだった。

≪水属性 タイプ熱湯≫の能力の持ち主で、昔からレイの面倒を見ている彼にとってはさすがに兄弟なだけあって笑いのツボは同じなようだ。

 ガラムの隣居る青年べリアもそのひとりで、若年層の中で一番年上の彼も顔をニヤつかせていた。

≪風属性 タイプなし≫の能力を持ち、面倒見が良くレイ・アナ・サラ・カルベルの4名の兄貴分的な存在だ。

「ハハッ本当っすね。まったくしょうがね奴だな。なぁジルのおっさん。」

 さらにそこから、べリアの少し後方に腕組みをした仏頂面の無精ひげを生やしたいかにも堅物そうな男に会話のバトンが渡った。

「ふんっ!まったくどうしようもないバカモンだな!来て損をした。ワシは帰る!」

 本当にそのままスタスタと帰ってしまった。

 気難しい彼の存在は、レイにとって少し怖いものでしかなかった。

 実際、名前で呼ばれることよりバカモンと呼ばれることの方が圧倒的に多かった。

 魔法の能力は、≪植物属性 タイプ大木≫である。

「ジルさん、そんな言い方しなくても・・・。あら、行っちゃったわ。大丈夫よレイ君。ジルさんもあなたのこと嫌いで言ってるわけじゃないから。無事でよかったわ。」

 柔らかい口調でレイに話すのは、村で母親的な存在のセシルだった。

≪氷属性 タイプ氷塊≫の能力を持ち、唯一ジルに意見ができる女性だ。

「ありがとう、セシルおばさん。」

「ええ、大丈夫よ。」

 レイの頭をそっと撫でながらセシルはそう答えた。

 セシルの甘い対応にカルベルだけは納得していなかった。

「セシルさんは甘すぎます。こういうことはもっと厳しく言っておかないとぼくたちまで危険な目に遭うのです。」

「あら、そうかしら。私は、もういいと思うのだけれどねぇ。」

 カルベルの人に厳しい面は全員が知っていることで、ここから先の話が長いことも予想がついていた。

「おー今回も始まったな。長くなるぞ、こりゃあ。」

「そうっすね。日も傾いてきたし、せっかく獲った食材がダメになる前に村に戻りますか?」

「そうだな。よし、全員帰るぞ。」

 ガラムとべリアのこの会話で帰る流れになった。

 正直全員これ以上この話に付き合うのは、疲れるので半ば強引に終わらせた。

 レイもこの流れに便乗して説教を回避しようと、そそくさとカルベルの前を横切ろうとした。

 だが、そうはいかなかった。

 特にレイだけは逃がすまいとカルベルはレイの肩を力いっぱい握り、引き留めた。

「いでででででっ、なにすんだよっ!!」

「何処へいくのですか?レイ君。きみだけは、ぼくの話を最後まで聞いてもらいますよ。」

「イヤだよ!!カルベル兄さんの説教は長いし、疲れるし!!」

「きみが説教されるようなことをするからでしょう。」

「ぐぅ・・・それは、たしかに ・・。」

 そんな正論を言われると、もう何も言えない。

 すでにかなり離れたところまでほかのみんなは移動しており、その中の一人のべリアが大声で話しかけてきた。

「おーーい、カルベルゥーーー。ほどほどにしてやれよぉーーー。夕食の支度してるから出来上がるまでには戻ってこいよぉーー。」

「わかったーー。」

 カルベルの元に一人残されたレイは、内心かなり面倒くさがっていた。

 もう十分反省したし、これ以上何の為に話を聞かなければいけないのだと思っていた。

「何ですかその顔は?もう十分反省したし、これ以上何の為に話を聞かなければいけないのだと思っているようですが。」

 心読むんじゃねぇよ。

「大体君は昔からひとの話をよく聞きもせずに行動するから周りに迷惑をかけるのです。それに」

 そこから先が本当に長い話だった。

 日が落ち、べリア兄さんがぼくたちを呼びに来た。

「なんだまだ説教していたのかよ。そんくらいにして、飯にするぞ。今日は、ウィンドホーンのシチュー

 だ。」

「おや、もうそんな時間ですか。たしかに日が落ちていますし、今日はこれで良しとしておきますか。」

 ああ・・・やっと終わった・・・。

「今後、このような事がないよう気をしっかりもって狩りに挑んでください。いいですね?」

「はい、すみませんでした。」

「よろしい。」

 説教が終わると、カルベル兄さんは穏やかな表情になった。

「ふぅ・・・あまり心配させないでください。本当に無事で良かった。さあ、食事にしますよ。」

 カルベル兄さんは、そう言って村へと歩き始めた。

 みんな本当に、ぼくのことを思ってくれている暖かい家族だ。


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