分からない
「いつまで呆けてる、さっさと飯を食え。」
気がつけばもう日は落ちていた。
あれからどのくらい時間経ち、どこまで森を進んだのだろうか。
レイの目の前には鉄製の器に盛られたスープがあった。
焚き火をして起こした火で作った物と見てとれた。
近くには川が流れており、そこで獲れたものであろう三匹の魚が串刺しにして焼いてあった。
「お前の食糧も少しばかり拝借した。」
レイの右隣に座りスープをすすりながら行商人は一言添えた。
「うん・・・用意してくれてありがとう、いただきます。」
「ああ。」
しばらくは二人は黙って夕食を食べ進めたが、明らかに落ち込むレイの様子がどうにも気になって仕方ない行商人は場の雰囲気を変えようと口を開いた。
「この肉うまいな、何の肉だよ?」
「ウィンドホーンだよ。父さんと獲った奴を干し肉したものだよ。」
「なんだと!」
「えっ何?」
実はこのウィンドホーンは捕獲困難な魔獣の一種で闇市場に限らず高値で取り引きされる食材だった。
レイにとっては当たり前のような食材だったが行商人にとっては貴重な商品になり得るものだ。
「いくらだ?」
「何が!?」
「お前は知らんだろうが、この肉はかなり価値のある食材だ。買い取るから売れ!」
「そうなんだ。欲しいならあげるよ、ここまで運んでもらったし。」
無垢なレイに呆れるが、それでは納得のいかない彼は断った。
「・・・ガキに施しは受けん。運んだのは仕事だ。これは取り引きだ。」
正直なところレイは今、物の価値がどうとかはどうでもよかった。
案内状のある一文で頭がいっぱいのレイはこの話題を終わらせたかった。
「じゃあ、名前教えてよ。まだ聞いてなかったから。ぼくはレイ。」
「わかった、クソガキ。返せて言われてももう遅いからな。」
「うん、いいよ。あと、名前教えよ。それから名前で呼んでよ。」
行商人はそそくさとレイのカバンから肉を取り出し荷台に積んである小さな木箱に移し替え、そして名乗った。
「ブッチだ、クソガキ。家名までは言わん。」
「ありがとう、ブッチさん。」
「・・・」
ブッチはレイの“ありがとう”と言う言葉が気に入らなかった。
子どもに気を遣われていることに加え、終始虚ろな目をしていることに。
二人はまた黙って食事を続けた。
スープの器が空になった頃、レイは案内状のことについて尋ねた。
「一つ教えて欲しいことがあるんだけどいい?」
「唐突だな。」
「うん・・・。」
「なんだ?」
「闇の能力の保持者を匿うとダメなの?」
「まぁ、犯罪になるな。一応、常識の範囲だ。知らなかったのか?」
「うん・・・。何で犯罪になるのかも知らない。」
「そうか・・・。」
ブッチはこの時に気付いた。
レイを育てた者は、ある程度の世情は知っていて意図的に教えてこなかった事に。
ブッチはレイにあることを聞いた。
「お前、属性はなんだ?」
レイは何か諦めたように静かに返答した。
「・・・闇だよ。」
予想はしていたが、本当に闇属性の保持者が存在していたことには内心かなりの驚きがあった。
ブッチの思考は一時的に停止してまい、以降の言葉が出てこなかった。
以外にもレイは静かなままで相変わらず目は虚ろなものだった。
「闇ってなんなの?」
ハッと我に帰ったブッチはレイの顔に目向けた。
虚ろな目は真っ直ぐこちらを見ていた。
渇いたその瞳は答えを求めたいるようにブッチは感じた。
「・・・闇がなんなのかはオレにも分からない。ただ、闇の能力を持って生まれた子は判定がわかった時点で殺処分となる。つまり・・・生まれて来てはダメなんだ。」
「・・・どうして?」
「その昔・・・ある一族に闇属性の者がいて、そいつが大罪を犯したことが始まりらしい。それが今は法律としてそうなっている。」
レイはうつむき、涙をこぼした。
「そう・・・なんだ、ぼくは・・・生まれて来てはダメなんだ・・・。なんで・・・何も・・・話してぐれなかったんだよ。」