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ヤミノクニ  作者: 瓜坊
14/28

旅路

 町に到着したレイは入り口の門をくぐり町へと足を踏み入れた。

 視線のまっすぐ先には見慣れない光景が広がっていた。

 露店が並び、行商人があちこちにいた。

 買うことはしないが、物見見物はしたかったレイは足早に前に進もうとしたその時門の脇に立っていた男に呼び止められた。

「おい、そこの少年!ちょっといいか?」

 一瞬、体が硬直しドキッとしたレイ。

 ゆっくり振り向いて男の方へ歩いていった。

 中年くらいのその男は首に笛をぶら下げ、腰には左に剣と右に銃を携えていた。

「な、何か?」

「いや、ここらであんまりみない顔だと思ってな。どこから来た?」

「ええ・・っと、それは・・・。」

 いきなり答えにくい質問に対し口ごもるレイ。

 さすがに森中から来たなんて言っても通用しないことはわかっていた。

 だか、闇市場から脱走者達と生活を細かく説明する訳にも行くまい。

 旅の始まりはいきなり終わりを迎えることになる。

 黙ったままのレイにしびれを切らした男はこの質問は諦めた。

「まぁいい、それよりカバンの中を改めさせろ。」

「わっ、わかった。」

 震えた腕でカバンを渡した。

 何もありませんように・・・。

 いや、あるな!

 短剣ってまずいんじゃないか?!

「あっちょっ、待って!」

「なんだ?」

 男は目を細くし、レイを睨み付けた。

 今までにない威圧感にレイの震えは止まらなかった。

「なんでもありません・・・。」

 男は黙ったままカバンの中を確認し始めた。

「短剣にそれから食糧と、火打石に鋼まであるな。これはいいとしても、手紙の中をみていいか?」

「えっ?短剣っていいの?スルーなの?」

「ああ?オレも持ってるだろお前より立派なのが。」

「そうだけど・・・。」

「だいたいこんな剣、能力持ってるやつなら誰でも創れる。しかもなんだこれ?見たところ自然石で造ってあるな。歪すぎて警戒も何もない。」

「そうなんだ。」

「それより手紙の中は読んでいいか?」

「いいよ、別に問題はないはずだよ。」

 呆れた顔をしながらレイを見下しながら男は手紙を読み始めた。

 先に読み始めたのはレイ宛てに毎年送られてくる手紙だった。

 男はその短い文を読むと、涙目になりながらレイを見た。

「お前、愛されてるな!」

「あっはぁ・・どうも。」

 なんなんだ、この人?

 男は優しい顔で頷きながら次に問題の育成所からの案内状に目を通した。

 柔らかい表情が一気に強張り、冷や汗を流し始めた。

「えっ?」

 あからさまに変わる男の様子にレイもなぜかうろたえ出した。

「えっ、何?どうしたのおっさん。」

「お前、この手紙誰から受け取った?」

「父さんから・・・。」

「父親は誰から受け取った?」

「そんなこと知らん!」

「そうか、じゃあ父親は何してる?」

「えっと・・・人間かな?」

「・・・真面目に答えろ。」

 質問攻めに困惑するレイはごまかしに出たが、見事に失敗した。

 この時点で男は、案内状が本物であることに確信を持った。

 レイのあからさまなに自身と身内を隠そうとする態度に加え、何処か世情には疎い面が多々あったことからだ

 男の中でどうやってこの町から早く追い出すかが問題になった。

 面倒事は御免だということで頭がいっぱいになっていた。

 この時、運悪く門を通過した行商の馬車が目の前を横切った。

 この機を逃すまいと馬車へと駆け寄った。

「おい、そこの行商人!ちょっといいか!」

 行商人の男は荷馬車を停めた。

「何か用か、ジャック?」

 低い声で静かに返答した行商人の男は門番の男と顔見知りだった。

猛ダッシュで駆けるジャックは必死そのものだった。

「はぁはぁ、お前だったのか。ちょうどいい、ちょっと頼まれてくれないか?」

「なんだ?」

 息を切らしながら、まずジャックは案内状の紙を差し出した。

 紙を見た行商人の男は無言のまま馬車の発進させた。

「うわぁーまてまてまて!まだ何も言ってないだろ!」

「さようなら。」

 馬車にしがみつき必死で食らいつくジャックを見向きせず、行商人は馬車を動かした。

「待てって!頼むから!ただでとは言わん、謝礼も出すから!」

 この条件に馬車を停め話を聞き始めた。

「はぁはぁ・・・まったくなんて現金なやつだ!」

「こっちも商売だからな。知ってるだろ?」

 ジャックも内心それはわかっていたが、ただで済むに超したことはないとも思っていた。

「それで、謝礼はいくらだ?」

「まず金の話かよ!内容どんなのかによるだろ!」

「だいたい分かる。あのガキを育成所まで運べばいいのだろ?」

「そこまで分かるだったら善意でオレを助けろよ!」

「嫌だ。」

「そんなあっさり言わんでくれ、哀しくなる・・・。」

「うん。で、謝礼はいくらだ?」

「・・・本当に情が無いんだな。」

 喜怒哀楽がはっきりしているジャックとは反対に行商人はほとんど表情を変えない。

「まぁいい、謝礼なんだが金貨五枚でどうだ?」

「五十枚だ。」

 ジャックは呆気にとられた。

「は?いやいや、お前ふざるなよ!そんなに出せる訳ないだろ?オレの給料いくらだと思ってる!」

 怒りをあらわにするジャックに顔色ひとつ変えずに行商人は交渉した。

「そんなもん知らん。いくら積まれてもこんな仕事引き受けるやついないのが普通だ。嫌なら他をあたれ。」

「ぐっ・・・くそ!なら二十枚でどうだ?」

「駄目だ。」

「にっ二十五枚だ!」

 行商人は黙って横に首を振った。

「三十だ!」

「それならいいのだろう。」

「よし!契約成立だ!待ってろ金を持ってくる!」

 ジャックはその場を後にし、走り去った。

 こんなやり取りがあるとは知らないレイはあわただしくする門番の男ジャックを遠目に呆然と見ていた。

 あの人忙しいだなぁ、なにしてんだろ?

 己のことでとは思わないレイの下へ行商人はゆっくりと荷馬車を引き連れて近付いた。

「お前だな。育成所まで行くやつは?」

「そうだけど、おじさんも行くの?」

「オレは違う。お前を運ぶよう頼まれただけだ。」

「そうなんだよろしくね。あと、お金ないけどいいの?」

「門番の男が払う。」

「いい人だね。」

「・・・そうだな。」

 自分の置かれている立場がわかっていないところをみるとやはりコイツは・・・。

 行商人の男は表情には出さなかったが、ある程度の危機感を持っていた。

 しばらくするとジャックが門の場所で待つ二人の下へと戻ってきた。

「待たせたな、約束の金だ。」

 麻袋に入った金貨を行商人に手渡し、その中身を無言のまま勘定し始めた。

「・・・ちょうどだな。何枚か多くあってもよかったんだがな。」

「ばっバカなこというな!」

「冗談だ。」

「当たり前だ!お前の冗談は分かりにくいだよ!」

「・・・そうか?」

「そうだ!笑顔で冗談は言うもんだ!お前には笑顔がない!」

 下らない言い合いを始める二人の様子をレイは蚊帳の外から見ていた。

 この二人仲良しだな。

「二人は友達なのか?」

 レイの問いに二人は同時に返した。

『違う!』

「仲良しに見えるけど・・・。」

『ただの腐れ縁だ。』

「息ぴったりだね。仲良しじゃん。」

 レイの指摘に二人は恥ずかしさとイライラが出てきた。

「お前が変にオレの真似するから勘違いされだろ!」

 八つ当たりするジャックに呆れた顔で追い返した。

「はぁ・・・ったくうるさい奴だ。ガキの言うこといちいち真に受けるな。本当に面倒くさいガキどもだ。」

「ガキども?オレガキじゃないぞ!」

「デケェガキには違いない。」

「なんだと!お前の方がガキだ!報酬は先に渡したんだからさっさと行け!」

 行商人は耳くそをほじりながら馬車に乗り込んだ。

「へいへい、行きますよ。おいガキ、荷台に乗ってろ。」

 面倒くさそうに返事をし、仕事にようやくとりかかる行商人。

 レイは促されるままに布で覆われている荷台に乗り込もうとした。

「うん。て言うかすごい荷物だね。どこに乗るの?」

「オレのすぐ後ろに少しスペースがある。後、荷物はほとんど商品だから傷付けるよ。傷付けたら買取りだからな。」

「え!?マジで!」

 レイの顔が一気に青ざめた。

 その様子にジャックが見兼ねて割って入った。

「大丈夫、コイツの冗談だ。」

「そうなの?」

 行商人に目を向けると、ニヤリと笑っていた。

「ああ、冗談だ。馬車を出すぞ。」

「う、うん。」

 行商人はレイが隠れような形で布を被せた。

 荷馬車は動きだし、町の中へと進んで行った。

「二人とも気を付けて行けー!」

 後ろからジャックの声が聞こえた。

「ありがとー!」

 レイは返事を返したが行商人は振り返らず前を見ていた。

 



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