告白
レイが出発する時がいよいよ来た。
「そろそろここを出た方がいいな。」
ジルが出発を促した。
「そうだな・・その方いいかもな・・・。」
ガラムもそれに賛同するように言ったが、実際は少し違った。
時間に余裕がなかったわけではない。
これ以上レイとのそばにいると余計なことを言ってしまうのではないか、引き留めてしまうのではないかなど色々なこと考えしまった結果のことだった。
ガイルはレイの持つカバンから案内状を取り出し、再度生き方の説明を始めた。
「いいか?ここに行くんだぞ。」
「知ってるよ!」
往生際悪く、レイの出発が出発する流れを止めようとし始めた。
気持ちは解らない訳ではないが、ここは感情を堪えて欲しいものだった。
「じゃあ行ってくるよ。」
「あぁ・・。レイ・・・。」
悲しげな表情をするガイルに胸が締め付けられる思いになる大人たち。
そんなことは知る良しもないレイはガイルが別れの惜しさに思わず名前を言ったのを自分が名前を呼ばれたのと勘違いした。
「ん?何だよ父さん?」
「えっ!?あぁ・・えっと・・・。」
「何だよ?」
急に問われて困惑するガイルだが、すぐに切返した。
「そ、そうだレイ。案内状を商人や運び屋に見せると運が良ければ乗せて行ってくれかもしれんぞ。」
「そうなんだ。そういうことはもっと早く言ってくれよ。」
「ハハハ、そうだな。すまん、すまん。」
荷物を肩に掛けて、今度こそ出発しようと歩き始めたレイ。
数歩進んだところでガイルが呼び止めた。
「レイ!」
レイは鬱陶しく感じ、歩きは止めたが今度は振り返らなかった。
それでもガイルは言葉投げかけた。
「愛しているぞ!!」
レイは気恥ずかしさから何も言うことなくそのまま歩き始めた。
ただ、すごく嬉しかった・・・。
レイは王都方面に出るため南西の方角に歩き始めた。
レイを送り出した大人たちは悲しさと後悔の念に押し潰されそうになるのを堪えていた。
「本当に行かせてよかったのでしようか。」
カルベルがそう静かに呟いた。
「・・・今更、そんなこと思ったても仕方ないことよ。私たちにできることはもうないのだから。」
セシルが優しく答えを出すと、沈黙するほかなかった。
後は、明日の我が身を案ずることで精一杯だった。
そんな中一人だけそうではなかった。
「待って!違うのレイくん!!」
突然叫び出したサラを皆は目を向けた。
今の今まで別れの時を堪えて静観していたのだと思っていた一同。
それが今の発言で違うのだと分かると、サラの性格を考えるとレイを追いかけていくのではないのかと心配になってきた。
「あれ?レイくは?本当にもう行っちゃった・・・?」
辺りをキョロキョロと見渡しレイを探すサラ。
その様子にカルベルがサラが今までどういう状況だったか勘づいた。
「サラ、もしかしてあなた今まで気絶していたのですか?」
「?」
サラ自身全く気付いていないが、レイに嫌いだと言われた直後にかなりのショックで今まで立った状態で気絶をしていた。
「・・・そんなことよりもレイくんは、本当に行ってしまったの?」
「えぇ・・まぁそうですね。」
サラはカルベルに詰めより問い詰めた。
「どこに?どの方角に向かった?出て何分経った?」
「えぇっと・・・それはたしか・・・。」
珍しくサラに圧倒されるカルベルの姿にその他の面々は
心の中で可哀想にと思った。
カルベルからの返答が曖昧なもので当てにならないのでサラは自力で考えた結果王都方面に出ると思いつき南西方面に飛び出した。
炎の魔力噴射の勢いで飛び、炎を体に纏わせて勢いを維持しなが飛行する火属性の者なら大概はできる芸当だ。
その際の火は文字通りカルベルに飛び火した。
「っうあっつ!」
サラはそんなことはお構い無しにレイを追いかけた。
サラがその場から去った後、カルベルにベリアが声をかけた。
「大丈夫か?」
「・・そう思うなら、もっと早く声をかけてくだい!」
イラつきながらベリアに答える。
「ハハハッいや悪いな。オレもあぁなったサラは怖くてな。」
「まったく、あの人は本当にレイのことになると周りが見えなくなる。」
「まぁな、ただ今回ばかりはサラも余計なこと言ったりはしないと思うがな。」
「えぇ、それはそうだと思い・・・。」
ベリアの言葉に共感したように思えたが、急に黙り出すカルベル。
「・・・おい、黙るなよカルベル。」
「・・・うーん。何もないといいのですけどね。」
サラの性格を考えると、二人には一抹の不安が過った。
レイに案内状の本当の意味や闇ことなど今になって伝えるじゃないか・・・。
本当ならそうすることが正しく、レイを本当の意味で守ってあげられるのことだとは皆が知っていることだ。
だけど、自分たちが生きていくには・・・。
カルベルは飛んで行ったサラを見つめ呟いた。
「サラ、頼みますよ。」
レイを追いかけ、滑空しているサラは全く別の思考を巡
らせていた。
レイくんに嫌われちゃった・・・。
イヤだ、せめてわたしの気持ちを伝えてからじゃないと納得できない!
必死の形相でレイを探すサラ。
レイはまだ遠くは行っておらずすぐに見つけられた。
レイを視界に捉えた瞬間、レイの前に着地したサラ。
「うわぁ、びっくりした!どうした、サラ姉さん?」
突然、降ってきたサラに驚きを隠せないレイ。
「レイくん・・・。あのね・・・。」
「なに?」
レイを前に思考が回らなくなったサラ。
何を伝えるのか、何を言いたかったのかが頭に出て来なくなった。
レイは不思議そうにサラの顔を見つめた。
「本当にどうしたの?何か渡す物とか持って来てくれたの?」
サラは耳と頬を赤くして答えた。
「あのね、レイくん。私はずっと・・・。」
「ん?うん。」
サラは意を決してずっと心に秘めていた気持ちを話した。
レイを力強く抱きしめながら耳元で伝えた。
「レイくんのことが好きだったの!ずっとずっと前から好きなの!」
一方のレイはサラの乙女心を知ってか知らずか、サラを優しく抱きしめ答えた。
「ありがとう、サラ姉さん。ぼくも大好きだよ。」
レイとサラの言葉は噛み合っていたが、気持ちは微妙にすれ違っていた。
だが、互いを思い合っていることには変わりはなく、この一時は二人にとって大切なものになった。