82、イーディス VS 「暴食」の魔剣使いグラ
イーディス視点になります。
私は手筈通りに魔王城の1階に一人残った。
今は七魔将の一人、「暴食」の魔剣使いグラがいるという部屋の大きな扉の前にいる。
他の皆さんはアリスの案内で魔王城の隠し通路を通って上の階に向かいました。
一呼吸おき、右手に握っている未来を司る赤い魔剣に魔力を込めて自分の時間を少し早め、すかさず扉を開ける。
「っ!?」
3センチほど扉を開けたところで、魔力を纏った斬撃が私の顔をギリギリでかすめた。
「ほう、この速度の剣を避けるか。ただのネズミではないようだな」
そう言って、緑色の目と髪が特徴の大柄の男が紫色の魔剣を持ってこちらを向いていた。
凄まじい速度でしたね………
未来を司る魔剣で自分の速度を上げていなければ斬られていましたね………
というか魔剣で速度を上げた私に追いつく斬撃ですか………
さすがは魔王軍幹部七魔将といったところでしょうか………
そう思って、先程よりも多くの魔力を魔剣に込めて速度を上げる。
グラは1秒後と、3秒後に再び斬撃を放ってくるようだ。
それを見てを未来を司る魔剣で斬って無かったことにする。
「なっ斬撃が消えた!いったいどうなっている?」
グラは自分の放った斬撃が消滅すると驚きのあまり動きが一瞬止まった。
今です!
「はぁっ!」
私はその隙をついていっきに最高速度でグラの懐に飛び込んで勢いよく剣を振るう。
貰いました!
心の中で確信すると同時に、二本の魔剣の剣先がグラの首筋を捉える。
ガチンッ
次の瞬間、2本の魔剣の剣先に強い衝撃を感じると共に、鈍い金属音が鳴った。
グラが魔剣で私の魔剣を当てて防いでいた。
「なっ!」
まさかこの速度も目で追えるのですか!
「ほう、貴様よく動くな。まるでウサギのようだ。危うく首を斬られるところだったぞ。だが、こうして捕まえてしまえばたやすいこと。次はこちらの番だ!」
グラはそう言うと、彼の持っている暴食の魔剣が紫色のオーラに包まれる。
すると、私は急激な眠気に襲われると同時に、自分の魔力が吸い取られる感覚があった。
「こ、これは………」
「我の「暴食」の魔剣グルマンティーズは斬った傷口や刀身に触れたものから魔力を食らいつくす能力を持つ。つまり、お前の負けだ」
「くっ!」
魔力を全て取られる前に時間の魔剣の能力を使って、部屋の端まで急いで移動する。
「今ので貴様の魔力を殆ど食らい尽くした。終わりだ。せめてもの褒美としてこの暴食の魔剣グルマンティーズで葬ってやろう!」
私が息を切らしながら、部屋の隅で座り込んでいると、グラが勝ち誇った顔をしながら一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
「さらばだ!」
グラは吐き捨てるように睨みつけながらそう言うと、暴食の魔剣グルマンティーズを振り上げる。
「はぁっ!」
ここで、残り少ない魔力を全て使い、過去を司る青い魔剣の斬撃を薙ぎ払うように横方向に放つ。
「っ!」
グラは驚いた表情を浮かべつつも軽々と斬撃を避けた。
そして、「ふん、無駄なあがきを」と鼻で笑った。
グラは気を取り直し再び私の頭上に魔剣を振りかざす。
「斬撃を避けて頂いてありがとうございます」
暴食の魔剣が振り下ろされる直前にグラに向けて言い放つ。
グラは再び驚いた表情を浮かべつつも、すでに斬撃を放った後で止めることはできなかった。
「なっ!」
次の瞬間にグラは私の時間の魔剣クロノスを受け止めた位置に戻っており、さっき放ったはずの斬撃は消えていた。
「なんだこれは瞬間移動か?バカなっ!我は確かにあの者を切り伏せたはず……なぜここにいるのだ?それに、先程奪った魔力が無くなっているだと……貴様!何をした!?」
「過去を斬りました」
「過去を斬っただと!………」
「はい。先程あなたに斬られる直前に放った青い斬撃で魔力を奪われた時の過去を斬りました。あの場面では必ず避けてくれると思っていましたよ。私が狙っていたのは数秒前の私たちのいた場所です。時間とは過去の積み重ねですから、その一コマが無くなればその先の未来は存在できない。だからあなたは瞬間移動したように感じたんです」
私がそう言うと、グラは怒りの表情を浮かべて全身に高密度の魔力を纏うと同時に暴食の魔剣に魔力を込め始めた。
「舐めるなっ!我は七魔将が一人暴食のグラだぞ!」
「あなたこそ他人を見下しすぎです!」
グラはそう言いながら暴食の魔剣を地面に突き刺す。
すると、部屋の床全体に膨大な魔力で出来た大きな口のような形の魔法陣が広がる。
「どうだ?これではどれだけ早かろうと逃げ場はないぞ!その尽き欠けの魔力ではどうすることもできまい!」
なるほど、この魔力の口に飲み込まれれば魔力を全て食い尽くされるというわけですか………
確かに逃げ場はありませんね。では………
そう思いながら時間の魔剣クロノスを胸の前で交差させる。
「な、何を………」
「ロック!」
グラが動揺している間に、時間の魔剣クロノスの奥の手である時間停止を発動する。
グラは気づいていないようだが、さっき魔力を奪われた時の過去を斬ったことでその事実が無くなり、私の魔力はほぼ完全な状態に戻っていた。
時間を止めてしまえば、床に魔力を奪う魔法陣があっても関係ない。
「さて、時間を止めて暴食の魔剣の魔力を奪う能力には対処しましたが、この後はどうしましょうか?」
普通ならここでただグラを切り伏せればいいのだが、今はグラが部屋の床全体に大きな口の形をした魔法陣を仕掛ける際に自身を高密度の魔力で覆っていたために、私の残りの魔力を全て使っても斬れなかった。
「でしたらアレを使うしかありませんね。ちょうど時間も止まっていますし、誰も見ていないのと一緒ですよね」
そう言いながらしばらく考えて、ジャッカロープに変身することにした。
ジャッカロープに変身すれば今より魔力量が上がるため、その状態なら高密度の魔力を纏ったグラも斬ることができる。
「これでチェックメイトです」
ジャッカロープに変身して2本の魔剣を振るってグラを切り伏せた。
そして、時間の魔剣クロノスの時間停止を解除する。
グラが倒れると部屋一面に広がっていた暴食の魔剣グルマンティーズの口の形をした魔法陣は消失した。
「終わりましたね。では、他の方の加勢に行きましょうか」
こうして、七魔将「暴食」の魔剣使いグラとの戦いは私の勝利で幕を閉じた。
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