75、来訪者
翌日、私はいつものようにギルドの地下を訪れていた。
皆を心配させないようにヘンリーがお母様を連れ去ったことは誰にも伝えていない。
それに、話したら確実に誰かついてきそうだと思ったからだ。
今はカーミラとお茶を飲みながらお話をしている。
「おはようアリス、昨日は勇者様………あぁ、お母さんとは話せたの?」
「えっ!あぁ、も、もちろん話せたわよ~」
「へーどんな話をしたの?」
「えっ!えっと………あっそうだわ!お母様と小さい頃の昔話をしてたのよ~懐かしいな~って」
「なーんだ、そんなことなのね。私はてっきり両親の馴れ初めを聞いてたかと思ったのに~」
「あっ!あぁ………そういえば聞き忘れちゃったわーオホホホ~」
こんな感じで誤魔化すのに必死だった。
「今日のアリス何か変よ?」
「えっ!そ、そう?私はいつも通り元気よ~」
まずいわね………
感づかれる前に逃げないと………
カーミラに疑いの眼差しを向けられたところで、適当に忘れ物をしたことにして地下を後にして地上に戻った。
「危なかったわね。あのままあそこに居たら確実にバレてたわね………っ!この魔力は!」
地上に戻って一息ついていると、街の外れにある門のあたりにこの街の人の魔力ではない、けれどその魔力にはどこか覚えがあった。
気になってすぐに街の門に向かった。
♦
街の門に着くとそこには見覚えのある金髪のオールバックに黄金の剣を腰に下げた男が立っていて、門番と何やら言い争いをしているようだった。
アーサーだ。
彼もこちらに気づいたようで、私を見つけると鋭い視線を向けてきた。
「よう、クソ女」
「生きてたのね。今日は何しに来たの?もし、またこの街を襲うつもりなら容赦しないわよ」
「ちげーよ。今回はお前に用があるんだよ」
「私に?」
どうしてアーサーがここに?
「あの、アリスさん。この男と知り合いですか?」
考え事をしていると、さっきまでアーサーと言い争っていた門番が私に話しかけてきた。
「ええ、ちょっと二人だけで話したいから外してもらえるかしら?」
「わかりました」
門番は短く返事をして私に礼をするとどこかへ行ってしまった。
「それで、私に用って何かしら?」
「俺たちのボスからお前を連れてくるように言われてるんだよ。お前の住んでる場所を知ってるのは俺だけだしな」
アーサーたちのボスが私を?
それって前のアーサーの話だと確か男の人だったっけ?
ヘンリーがお母様を連れ去ったこのタイミングで?
っ!まさか………
………いえ、たとえそうだとしても、この目で確かめるまでは決めつけちゃいけないわね………
「いいわよ。さっさと案内しなさい!」
「ふぅ~」
私は吐き捨てるように言うと、アーサーは深くため息をついて言葉を続けた。
「いいぜ。ただしその前に俺と勝負しろ。俺が勝ったら連れてってやる」
「そう、じゃぁ私が勝ったらあなたを弟分にして一生私の言う事を聞いてもらうわよ」
「なんだそりゃ、まぁ俺は戦えれば何でもいいぜ」
こうして急遽私とアーサーは決闘することになり、ルールはお互い持っている剣を手から落とした方の負けということになった。
アーサーが聖剣エクスカリバーを構えたので、私も聖剣ミステリオを構える。
聖剣同士はお互いが反発しあって決着が着かないからちょうどいいルールだ。
「そのルールだと出会った頃に決闘で負けた私はアリスの義妹ということになりますね」
私とアーサーが聖剣を構えたタイミングでイーディスの声がした。
「イーディス!どうしてここに?」
「アリスの様子が普段と違ったので後を付けさせてもらいました。死人が出てはいけませんので私が審判を務めさせていただきます」
バレてた………
もう嘘は通せそうにないわね………
「そう………じゃあお願いするわね」
こうしてイーディスが立ち合いのもと決闘が行われたのだった。
「始め!」
「はぁっ」
「やぁっ」
気合の入った声と共に一筋の光の一閃が私とアーサーの間に走る。
次の瞬間、アーサーの足元に重い金属音が鳴り響いた。
振り返ると、アーサーの手から聖剣エクスカリバーが地面に落ちていた。
「勝者、アリス!」
決闘の勝敗は一瞬にして決まり、私の勝利で幕を下ろした。
「私の勝ちね!というわけでアーサー、あなたは今日から私の義弟なんだから何でも言う事をききなさい!」
「やっぱりあの敗北はまぐれじゃなかったのか………クソッわかったよ。何でも言えよ」
「さっさと案内しなさいよ」
「案内?アリスこれからどこへ行くのですか?」
改めてアーサーにそう告げると、イーディスが割って話に入って来た。
「あっ!そういえば、イーディスも私と決闘して負けたから義妹なのよね〜義妹には秘密だわ〜」
「いや、さっきのは冗談ですよ。それに仮にアリスが姉だったとしたら、こんなお転婆な姉はお断りですね」
「え~」
「ところで、話を逸らさないでください。どこへ行くのですか?」
「………マグスのボスに呼ばれているのよ」
「なっ!では、私も行きます」
やっぱりそうなるわよね………
「それはダメなの。この男と二人で来るように言われてるから」
「なるほど、その様子だと何かあるのですね。わかりました。アリスなら大丈夫だと思いますが、気を付けてください」
「ええ、ありがとう」
イーディスにそう告げて私はアーサーに連れられてマグスのアジトへ向かった。
♦
アーサーの転移魔法を使って山のふもとにやってきた。
「ここだ。ついて来い」
アーサーに連れられて山の中を進んでいく。
しばらくすると、山を削って造ったような建物が現れて、アーサーがその中央の大きな扉の前で足を止め、コンコンと2回ノックをした。
「ボス、アリスを連れてきました」
「入りたまえ」
扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
私はその声を聞いてとっさに聖剣ミステリオと鏡の魔剣スぺクルムを構え、【勇者の慧眼】を発動する。
扉の中には大きな円卓があり、その周りを見覚えのある黒い顎鬚の男を始めとして、数名の男女が席を囲んでいた。
アーサーがノックをした瞬間に黒い顎髭の男を除いた全員が一斉に立ち上がり、武器を構えて戦闘態勢に入っていた。
「失礼します」
ドーン!!
アーサーが扉を開けると同時に爆発のような騒音が響き渡った。
「ようこそアリス君、我々マグスのアジトへ」
しばらくして砂埃が晴れると、私から見て真正面の円卓の席に座っている黒い顎髭が特徴的なヘンリーの姿があった。
彼は腕を組みながら含みのある笑みを浮かべていた。
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