73、勇者と魔王のサラブレッド
ギルドの外に出るとすぐにイーディスに会った。
「おや、3人とも朝食は済んだのですか?」
「ええ、そうよ。これから地下に行くところなの」
「そうですか。では、私もご一緒します」
「ええ、そうしてもらえると助かるわ。これから皆んなに大事なことを話すのよ。もちろんイーディスにも関係することだから」
「わかりました」
♦︎
私はイーディス、ローダ、ロリーナの3人を連れてギルドの地下にやってきた。
「あら、アリス。こんなに早くからここに来るなんて珍しいわね。それにイーディス達も……いったいどうしたの?」
「カーミラおはよう。今日は皆に話したいことがあって来たの」
地下についてすぐにカーミラが話しかけてきた。
私が真剣な顔で言うと皆がこちらに視線を向けて首を傾げた。
「………そうか」
アリババは少し時間が経ってから一言呟いて、ターリアさんを始めとする寝ているメンバーを起こしに行ってくれた。
しばらくして全員が円をかくように私の周りに集まってくれた。
「皆、急に集まってくれてありがとう。今日は皆に私の事を話そうと思うの。まずは、なんで話そうと思ったかのきっかけから話すわね」
ここから、妖精の森で妖精王オベイロンから私の混血の人達に対する差別を無くすための考えの甘さを指摘されたこと。
今まで自分は混血の人を保護して、この地下で暮らして貰えればいつかは差別が無くなると思っていた事。
けれど、それでは目の前の人は救えたとしても、混血に対する差別そのものを無くすことはできないことに気づかされた事。
そして、混血の差別を無くすために私が王になることを決めたことを話した。
「王になることを決めた流れはわかったけれど、そんなことできるの?」
王になる経緯を話し終わるとカーミラが不思議そうな顔をして質問をしてきた。
「ええ、私ならできるわ。………むしろ、これは立場上私にしかできないことなのよ」
「立場上……どういうこと?」
カーミラは再び首を傾げた。
それだけでなく、周りにいるアリババ以外の全員が不思議そうな表情を浮かべる。
「本当はここからが大事な事なの………うぅ」
自分の出自を言い出そうと思うと体に緊張が走るのを感じる。
手足の指先がブルブルと震えている。
やっぱり怖いな………
皆に何て言われるかな………
自分が他の人に知られたくないことを話すのはこんなに怖いものなのね………
でも、言わなきゃ!
私は皆を、世界にいる全ての混血の人達が安心して暮らせるようにするために王になるんだから………
「いきなりもじもじしだしてどうしたのよアリス。手も震えてるけど………もしかしてこれから告白でもするつもり?」
私が言うのをためらっていると、カーミラがいたずらを仕掛けてくる時の表情をしながら言う。
きっと私が緊張しているのを感じ取って和らげようとしてくれたのだと思う。
「告白……ふふっそう言われればそうね」
「私たちはアリスの味方ですよ」
「アリス、ゆっくりでいいぞ」
「アリス、シャキっとしなさいなっ!」
カーミラに続いてイーディス、アリババ、ロリーナが声をかけてくれた。
皆優しいな………
そう思えた瞬間に緊張が解けて体の余計な力が抜けるのを感じた。
「ありがとう。もう大丈夫よ」
声を掛けてくれた3人にお礼を言って一度深く深呼吸をする。
「私は勇者アリシア・ハイトと魔王デスト・ルークの娘なの」
「っ!!」
私がそう告げると、アリババ以外のこの場にいる全員が予想通り驚きの表情を浮かべた。
「えっ!アリスが勇者と魔王の娘!」
「勇者様の娘だとは聞いていましたが、まさか魔王の娘でもあったのですね………」
「えっ母親の事だけじゃないの?魔王の娘?え?え?」
最初に声を上げたのがカーミラでその次にイーディス、最後がロリーナだ。
それを皮切りに場が騒然とし始めた。
「貴様が魔王の娘………貴様がーっ!!」
「っ!!」
突然、横からターリアが怒りを露わにしていばらの棘を私に向けて放ってきた。
「待てターリア!」
ターリアのいばらの棘をアリババが叫びながら止めてくれた。
「アリババなぜ邪魔をする!そやつは童の国を滅ぼした魔王の血族なのだぞ!今こそ母の仇を!」
「落ち着けターリア。お前の国を滅ぼしたのは魔王軍だろ!アリスじゃない!復讐する相手を間違えるな!それにアリスは俺たちと同じ混血だ!」
「アリババ貴様、さっきアリスが魔王の娘と打ち明けた時表情一つ変えていなかったな。もしやこのことを知っていたのではあるまいな?」
「ハァ~そうだよ。俺が言わなかったのはこうなることが目に見えていたからだ。もう、本人が言っちまった後だから言うけどな」
「裏切者め!」
「俺の事は何とでも言えよ。それより今はアリスの話だ。続きを聞こうぜ」
「ふんっ!」
アリババがターリアさんを抑えてくれたことで騒然としていた場の空気が静寂を取り戻した。
「最初に言っておくけど、実は私自身も敵同士であるはずの勇者と魔王が結婚したのか理由がわかっていないの。だからその辺に関しては私も答えられないわ。それ以外で私に答えられることは答えるわ」
「そうなのね。一番聞きたかった事なのに残念ね。それじゃぁ、アリスはどんな王になるつもりなのかしら?」
「私は人間と魔族の平和の象徴の王になろうと思っているわ。今混血は「魔王軍に敗北した証」という印象が強いからそれを払拭したいのよ。今回みたいに世界に私が勇者と魔王の娘であることを打ち明ければできると思うの」
「ふふっそれは確かに勇者と魔王のサラブレッドであるアリスにしかできない事ね!」
カーミラはそう言って優しく微笑んだ。
「サラブレッド?えっ馬?」
「違うわよ!私が言ったサラブレッドの意味は「優れた血統」の比喩よ!」
「へーそうなのね………」
この後は、世間的には倒されていることになっている魔王がまだ生きていて、今も魔王城で暮らしていることや、私が父と喧嘩してここに来たことを話した。
それらを一通り話し終わると、皆から色々質問された。
兄妹が居るのか、どんなスキルを持っているのか、などなど。
中でも皆に一番驚かれたのは「今までどこに住んでいたのか?」と聞かれて「魔王城」と答えるとアリババに「実家が魔王城ってすごいパワーワードだな」とドン引きされた。
気づけば一時間くらい過ぎていた。
「他に質問は無いかしら?無ければ私はここで一旦地上に戻ろうと思うわ」
「では、童から最後に一つ。ペレーサという男を知っているか?」
最後にターリアから質問された。
その声はとても冷たいものだった。
私はその名前の男を知っていた。
「ええ、知っているわ。魔王軍幹部七魔将の一人で「怠惰」の魔剣アッチェーディアの使い手ね」
「やはりそうか。ペレーサは我が国を滅ぼした張本人にして童の父だ。奴はまだ生きているのか?」
「生きてるわよ。魔王と同じで今も魔王城にいるわ」
「………そうか」
これ以降は何も質問が出なかったので、私はギルドの地下を後にした。
♦
地上に戻るとある違和感を感じた。
えっ!
お母様の魔力を感じない!?
どういうことかしら………
今お母様はギルドマスターのヘンリーさんとお話中のはず………
とにかく急がなきゃ!
私は一刻でも早くお母様のところに急ぐために転移魔法を使ってギルドの応接室に向かった。
「………」
「やぁ、遅かったねアリス君」
「………お母様!?」
転移魔法でギルドの応接室に着くと、私の目に飛び込んできたのは血が付いた剣を持ったヘンリーさんと、血を流しながら床に倒れているお母様の姿だった。
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