72、手紙
ギルドの入り口の扉が開いてそこからお母様である勇者アリシアが入ってきた。
お母様は私の方を向いて笑顔で手を振っている。
「あっいた!良かったわ探す手間が省けたわね。アリス元気だった?」
「えっお母様どうしてここに?」
「あぁ、突然来てびっくりしたわよね。私の昔の知り合いからアリスがこのギルドに居るって聞いたから来てみたのよ」
お母様はそう言いながら一枚の紙を取り出した。
それは手紙だった。
「手紙?差出人は………シャルロッテさん!?」
「ええ、そうよ。その様子だとここに書かれている通りシャルロッテに会ったみたいね」
「ええ………ねぇ、お母様ちょっとその手紙見せて」
「いいわよ~」
お母様から手紙を受け取り目を通す。
アリシアへ
貴方と別れて随分経つわね。
元気にしてるかしら?
2日かほど前に妖精の森に貴方の娘だというアリスっていう子が来たわ!
貴方に似て美人さんね。
今は私たちが昔所属してたギルドに居るみたいよ。
そこで混血の人を助ける活動をしてるみたい。
私のところにもその目的で来たみたいね。
貴方と同じでお人好しで優しい子ね。
アリスちゃんには私の二人の娘を預けたから、一度ギルドに顔を出してもらえると嬉しいわ!
特に上の娘が貴方の大ファンできっと大喜びすると思うから。
あと、娘のアリスちゃんでも知らなかったからここに書き留めるけど、ずっと探してた人は見つかった?
お返事ちょうだい。
シャルロッテより。
と書いてあった。
砕けた文面からお母様とシャルロッテさんの仲のの良さが垣間見える。
読んでいて自然と心温まる手紙だ。
それにしても通信魔道具があるのにわざわざ手紙なのね………
そんなことを思いながら手紙をお母様に返す。
「えーっ!」
「きゃーっ!!」
ちょうどその時、ギルドの食堂全体から大きな歓声が上がった。
一つは野太い複数の男性冒険者達のもので、もう一つはロリーナだ。
「あれは勇者アリシア様じゃねぇーか!」
「今の聞いたかよ!アリス嬢ちゃんがアリシア様のことをお母様って………」
「ふんっ!やっぱりな。俺様はわかってたぜ!アリス嬢ちゃんのあの強さはきっと勇者様の子供にちげーねぇーってな!」
「いや、お前まったく知らねぇーだろ!!」
「ほ、本物のアリシア様ですわ〜」
どうやらさっきの会話で私が勇者アリシアの娘だということがバレてしまったらしい。
今思えば【思念伝達】でも使っておけば良かったと思う。
まぁ、遅かれ早かれ出自を明かすつもりだったから別にいいか。
勇者の血縁と知られても損はしないのだし。
周りの冒険者達はコントのような会話をして盛り上がっていた。
一方のロリーナは目を輝かせながらお母様を見つめて興奮しているようだった。
「あなたがシャルロッテの娘さん?」
「はい!お初にお目にかかります。勇者様。シャルロッテの娘ロリーナと申しますわ!」
「あら、丁寧な挨拶をありがとう。でも、あなたのお母さんとは友人だからそんなにかしこまらなくて大丈夫よ」
「は、はいっ!」
ロリーナはお母様に声を掛けられると、スカートの両端を掴んで深く丁寧なお辞儀をした。
まるで、どこかのお姫様のように。
ん?
ちょっと待って!
あのロリーナがちゃんとした挨拶をしてる!?
私と初めて会った時はぞんざいな態度だったのに!
この差は何なのよ!
ムカつくわわね!
「ロリーナもしっかり挨拶できたのね………私の時は雑だったのに!」
「なっ!アリスあなたなんて失礼なことを!」
私とロリーナはそう言いながら顔を突き合わせる。
「二人ともやめなさい。アリス、人を馬鹿にしてはダメよ。仲良くしなさい」
「は〜い」
喧嘩になりそうになったところでお母様が割って入って止めてくれた。
一息ついて落ち着いたところでロリーナがお母様に詰め寄って質問をし始めた。
「あの、アリシア様。母と冒険していた時の話を聞かせていただけませんか?」
「ええ、もちろんいいわよ〜」
「お母様、話したいこと、聞きたいことがたくさんあるの」
「わかったわアリス。後でゆっくり話しましょ」
「ええ、約束よ!」
私も負けじとお母様に詰め寄る。
すると、お母様は苦笑いを浮かべた。
「二人とも近いわよ………」
「っ!私としたことがなんてはしたない真似を!申し訳ございません!」
「あっこめんなさい………」
お母様にそう言われて私たちは急いで距離を取る。
周りを見渡すとここにいるほぼ全ての人の視線が集まっていた。
そのことを自覚したら急に恥ずかしくなった。
気がつくと、数秒間の沈黙の時が流れる。
「なんだ今日はずいぶんと静かだね。ん?君はアリシア君か久しぶりだね。どうしてここに?」
しばらくして、ギルドの入り口が開き、ギルドマスターのヘンリーさんが出張から帰ってきた。
そして、すぐにお母様に気がついたようで、視線を移して声をかけた。
「ヘンリーさん。娘がお世話になっていたようでありがとうございます」
「お世話なんてとんでもない。むしろ助けられているのは私の方だよ。こんなところで立ち話も申し訳ない。応接室へどうぞ」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
「うむ。クレア君、紅茶を淹れてくれ!」
「はい!」
お母様がヘンリーさんの提案を了承すると、カウンターにいたクレアさんが急いで紅茶の準備を始めた。
「というわけだからアリス。少しの間どこかで時間を潰してくれないかしら?」
「ええ、大丈夫よ。私もちょうど用事があったから」
「そう、ありがとう」
お母様は笑顔で私にお礼を言ってヘンリーさんと一緒に応接室に向かった。
私もこの間に地下で暮らす皆んなに話そうかしらね………
「ロリーナ、ローダちゃん、私も話さなきゃね。皆んなのところに行くわよ!」
「ようやく話す気になったのね!あと、私のことはお姉様と呼びなさい!」
「おー」
こうして私は一旦お母様と別れてギルドの地下に向かうのだった。
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