7、アリス VS 魔王軍幹部グラ
私はグラとベクターに決闘の宣言をした。
なぜ、私が二人に決闘を提案したのかと言うと理由は二つある。
一つ目は、二人に早くこの場から帰ってもらうこと。
二つ目は、冒険者ランクを特例の方法を使って上げることだ。
特例項目の一つ、単独で魔王軍幹部の捕獲もしくは討伐だ。
こんなチャンス滅多にないんだから大事にしないと………
二人には悪いけど、私の冒険者ランクを上げるための糧になってもらう。
そして私が宣言すると、周りにいる他の冒険者たちが騒ぎ始めた。
「だめだ!アリス嬢ちゃん!いくらアンタでも死んじまうぞ!」
「相手は腐っても魔王軍幹部だ!嬢ちゃん早まるんじゃねぇ!」
「魔王軍幹部と戦うなんて無茶にも程があるぜ!やめとけって!」
そんなに心配しなくても大丈夫だって!………
みんなは心配性だな〜もう!………
私がこの二人に負けるわけがないじゃない!
このままだと、他の冒険者たちも参加してきそうだったので、私は飛行魔法を使って空中で戦うことにした。
私は召喚魔法で聖剣ミステリオを取り出して構える。
聖剣ミステリオは柄から刀身まで虹色の外見をしている。
この聖剣はあらゆる事象をを断ち切ることができる。
私が聖剣ミステリオを握ると、ポニーテールが解けて、長い金髪が腰のあたりまで降りてロングヘアになった。
これが私の戦闘モードだ。
髪を結んでいた黒いリボンは魔力を制御するための魔道具だ。
つまり、私が剣を握るということは本気の証なのだ。
相手のグラは魔剣グルマンディーズを構えて、それに続くようにベクターも剣を構えた。
七魔将グラの持つ「暴食」の魔剣グルマンディーズは、斬りつけた相手から魔力を喰らい尽くして持ち主に還元する能力を持っている。
魔王軍幹部七魔将の持つ魔剣はどれも強力だが、その中でも魔剣グルマンディーズは非常に危険で強力な魔剣だ。
私がここで魔剣スペクルムではなく、聖剣ミステリオを選んだのは、その魔剣グルマンディーズの能力を無効化するためだ。
それと、ベクターの持っている剣は………うん、普通ね。
特に何の能力も持っていない普通の剣だった。
七魔将の息子なのだから、せめて魔剣ぐらい持ちなさいよ………
「アリスお嬢様!最初の相手はこの、私ベクターが務めさせていただきます!」
「ええ、いいわよ。どこからでもかかってきなさい!」
「はい!では、参ります。アリスお嬢様!」
ベクターはそう言って、私の方へ一直線に向かってきた。
「はぁっー」
「ふふっ」
私はベクターの剣を素手で止めた。
「なっ!」
そして、剣の刀身を強く握りしめてへし折った。
「え!?剣が折れた!!」
バキッと鈍い音を立てながら、剣は粉々になり地面へ落ちていった。
そしてベクターが動揺した隙をついて、腹に思いっきり拳を叩き込んだ。
「ふんっ!」
「がはっ!」
ベクターは一撃で乗っていた飛龍ごと真っ逆さまに地面に落ちていった。
「父上申し訳ございません!〜」
「ベクター!」
この親子の掛け合いはまるで三流芝居のようだった。
役者の卵でも、もう少しマシな演技するわよ………
「では、私も最初から全力で行きますよ。アリス様!全てを喰らい尽くせグルマンティーズ」
グラの掛け声と共に、魔力でできた大きな口が現れて、私に一直線に向かってくる。
私はそれをミステリオで一刀両断して、魔力の塊を消し去った。
「な、私のとっておきの技が一瞬で消えた!」
「残念だったわね。次はこっちの番よ」
私は移動魔法を使って一瞬でグラとの距離をつめて、隙を与えることなく即座に斬撃を与える。
「なにっぐはっ!!」
今の攻撃でグラは飛竜から落ちてしまった。
次に空中をただよっている魔剣グルマンディーズに剣先を向けて、魔剣グルマンディーズの柄と刀身の間を切り落とした。
魔剣グルマンディーズはガキンッと鈍い音を立てながら、二つに分かれて地面に突き刺さった。
最後にグラに剣先を向けて、もう一度斬撃を与えてグラを地面に斬り伏せた。
「これでトドメよ!」
「うわぁっ………」
そしてグラと同時に飛竜も落下してきて、周囲が大量の砂煙に覆われた。
しばらくして煙が晴れると、大歓声が上がった。
「うおーっ」
「アリス嬢ちゃんが勝ったぞ!」
「マジかよ!魔王軍幹部をたった一人で倒しやがった!」
「ほんとに何者なんだよ!あの子!」
「新たな英雄の誕生だー!今日は宴だな!」
一方、勝負に負けたグラ達はフラつきながら立ち上がり、飛竜に乗るとすぐさま飛び去って帰っていった。
♦︎
ギルドに戻るとすぐに宴会の準備がされた。
テーブルに様々な料理が並べられた。
そういえば、グラとベクターは山にいったい何を調査しに行くつもりだったんだろう………
聞きそびれちゃったわね………
ま、いっか!今の私には関係ないことだし、どうでもいいや………
「おーい、アリス嬢ちゃん!こっちこいよ!主役がボーッとしてちゃつまらないぜ〜?」
「宴だー!」
「そうだ〜そうだ〜もっと騒げ〜騒げ〜」
「飲め〜飲め〜」
「歌え!歌え!」
「踊れ!踊れ!」
気がつくと周りはすっかり出来上がっていた。
「は〜い」
この後、私はおじさんたちと食べて、歌って、踊って、飲んで、夜遅くまで大騒ぎをした。
そしてこの日。初級冒険者が魔王軍幹部を撃退したという知らせが各地のギルドに広まることとなった。
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