64、ヨハンとマルガレーテ
目の前には驚いた表情を浮かべているドレスを着た女性と男の子と女の子の子供がいる。
ドレスを着た女性は右手に杖を持っていた。
その様子を見るに彼女は魔法使いのようだ。
「お断りね。私たちは遊びに来たんじゃなくて、この森にいるっていう人間と妖精族の混血の人を捜しに来たのよ」
「なっ!」
私がマルガレーテの質問に答えると、それに反応したのはドレスを着て杖を持った女性だった。
彼女は驚いた表情を浮かべた後に私を睨みつけながら杖を構えた。
「ぷはっ!貴様らもそこのガキ共の仲間か!………ティタニア様お逃げください!ここは私が命に代えて時間を稼ぎます。ティタニア様はあのお方と陛下をお守りください」
そして、それと同時に倒れていた妖精の兵士の一人が自力で飴を口から引き抜いて、剣を地面に突き刺しながら杖のようにしてフラフラとゆっくりと立ち上がり、杖を持ちドレスを着ている女性に向けてそう言った。
「何言ってるの!あなたこそ、そんなボロボロの体で戦えるわけないでしょ!今は休んでなさい」
「しかし………」
「あれ~おじさんまだ生きてたの~?おじさん達とはさっきいっぱい遊んだからもういいよ。おじさんまだ元気そうだからおかわりあげるね~」
ティタニアと呼ばれる女性と妖精の兵士が会話していると、マルガレーテが妖精の兵士の方へと振り向きながらそう言った。
その後、マルガレーテの右手がまるでスライムのようにドロドロになり、指先が一本の飴に変化した。
「召し上がれ~」
そして、出来た飴をすぐに指先から切り離して妖精の兵士へと勢い良よく投げた。
けれど、その飴は妖精の兵士に届くことなく、途中で粉々に砕け散った。
「間に合った」
私がその声に気づいて左斜め後ろに振り向くとロビンが弓を構えていた。
「ロビンありがとう」
「ああ」
ロビンは一言そう言うと弓を下した。
「アハハハ~ねぇお兄ちゃん今の見た?すご~い」
「ハァ~笑ってる場合じゃないよマルガレーテ。今ので彼女たちが僕たちの敵だってことが分かったんだから」
「は~い。ごめんなさ~い」
マルガレーテはロビンの放った矢を見て指をさしながら再び高笑いをする。
それに対して隣にいる兄である男の子はため息をついた。
「なぜ私を………くっ」
妖精の兵士は自分に向けられた飴を打ち抜いたロビンに驚くと力尽きて倒れた。
そして、ティタニアという女性が私たちに問いかけてきた。
「あなた達はその子供たちの仲間ではないの?」
「違うわよ。私たちとその子たちの目的は一緒だけど別よ」
「えっ!あっそうなのね………」
「申し遅れました。僕はヨハン。隣にいるのが妹のマルガレーテです。お姉さんたち強そうですね。実は僕たちもこの森に住んでいるという人間と妖精族の混血の人を捜しにここへ来たんです。だけど、この森に入ってすぐに大勢の妖精さん達に襲われていたんです。お願いです僕たちを助けてくれませんか?」
私とティタニアさんが話していると急に男の子が話に入って来た。
あの男の子は急に何を言い出すの?
助けるって誰の事よ!
こんなの状況を見れば一目瞭然じゃないの!
まったく嘘が下手ね。
まぁ、子供だから仕方ないかもしれないけれど………
「ヨハンって言ったかしら?あなた嘘をつくならもっと良く考えた方がいいわよ。その場で思いついたものは矛盾だらけだから。それに、最初私たちが来た時あなたの妹がずいぶんと楽しんでいたような発言をしてたわよね?」
「チッ、お前が余計な事を言うから………」
私がそう言うとヨハンは苦笑いを浮かべて舌打ちをしてから、隣にいる妹のマルガレーテを何か小言を言っているようだった。
すぐにその場で思いついた嘘では私たちを騙せないと思ったのだろう。
まぁ、あんな穴だらけの嘘に騙される人なんていないと思うけど。
「あの~僕たちが名乗ったのでお姉さん達の名前も教えてもらえませんか?」
「私はアリスよ」
「アリス………っ!金髪に赤眼と青眼のオッドアイ。まさか!」
ヨハンに名前を尋ねられて答えると、彼は驚きの表情を浮かべてブルブルと震えだした。
そしてヨハンは続けて私に質問をしてくる。
「ジャックとアンナという名前を知っていますか?」
「ええ、知っているわよ。あの二人は私たちが倒したもの」
私はジャックとアンナという名前を聞いて目の前のヨハンとマルガレーテがマグスのメンバーであることを確信した。
「そうか。あなた達がボスやアンナが言っていた人達か………」
ヨハンとマルガレーテもようやく私たちのことを理解したようで、二人の目つきはさっきと打って変わってより鋭いものになった。
ご覧いただきありがとうございます!
次回更新までまたしばらくお待ちください。




