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6、瞬速のアリス

住み込みで冒険者を初めて一週間あまりが経過した。

私は窓から差し込む日差しを体に感じて目を覚ました。


「ふわーっ」


あくびをしながら背伸びをして、ベッドから起き上がる。

そして、部屋の隅っこにある鏡の前で軽く身だしなみを整える。

最後にお母様譲りの腰まで伸びた金髪を黒いリボンで結んでポニーテールにする。


「ん〜っ、今日もいい天気ね。よし!今日も1日頑張りますか!」


朝の身支度を終えて階段を降りて行き一階へと向かう。


「クレアさん。おはようございます!」

「おはようございます。アリスさん、今日も元気ですね!」

「はい!」


毎朝一番にクレアさんと挨拶を交わす。

最近はこれが私の新しい日課となっている。

ギルドで朝食をとろうと、鼻歌を歌いながら席を探して歩いていると、他の冒険者に声をかけられた。


「おっアリス嬢ちゃん今日も元気だね!今から朝食かい?」

「えぇ、そうです」

「たっぷり食べるんだぞ!ガハハハッ」

「おい、道をあけろ。瞬速(しゅんそく)のアリス様がお通りだぞ〜」


「速く道を開けないと、みんなも瞬速(しゅんそく)のアリス様に瞬殺されるぞ〜なーんつって!ギャハハハッ」


「アハハッどうも〜」


瞬速(しゅんそく)のアリス。

ここ一週間で私につけられた通り名だ。

通り名の由来は、受注するクエストを一瞬もしくは数分で完了することから、周りの冒険者たちが勝手に呼び始た。

もちろん私は公認してはいないのだけれど。


っていうか、さっきの親父ギャグみたいなの全然笑えないんですけど………


そんなことを思いながら、空いている席に座った。

今日のメニューはサンドウィッチとコーンスープだ。

席に着いてサンドウィッチとコーンスープが乗ったトレイをテーブルに置くと、私は真っ先にため息をこぼした。


「はぁーっ」


私は、一週間経ってもまだ初級冒険者のまま、相変わらず雑用まがいなクエストを一日あたり百件ほどこなす日々を送っている。

正直なところ、もう飽き飽きしている。

ここ最近で冒険者らしい事と言えば、ちょうど三日前のこと。

夜間に農家の畑に現れるクマに似た低級の魔物の群れを討伐したくらいだ。

まぁ………その魔物の群れも【破壊の魔眼】で瞬殺したんだけどね。

【破滅の魔眼】は視認したあらゆるものを任意で破壊することができる魔眼だ。

そのせいでまったくと言っていいほど退屈だった。

もっと骨のある敵と戦ってみたいものだ。

ちなみに、その魔物のお肉は人々の食卓で大変好まれているらしく、報酬も低級な魔物の討伐なのにも関わらず、金貨一枚という非常においしいクエストだった。

昨日の晩御飯にも振舞われたが、やはり魔王城で出された食事の方が美味しいと感じてしまった。

しばらくして朝食を食べ終わり、いつものようにクエストボードを眺めていた。


「ゴブリン退治に、魔獣の群れの討伐、薬草採取か〜」


今日もボードに貼られたクエストの依頼書はどれも目を引くものではなかった。


「もっと強い敵と戦いたいな〜」


より高難易度のクエストを受けるには、経験を積んで冒険者ランクを上げる必要がある。

私はここ最近百件近いクエストを毎日こなしているが、一向にランクが上がる気配がない。

クレアさんの話だと、達成したクエストの数よりも、冒険者を続けている期間が長いことが評価の対象になるらしい。

正直に言って評価基準がクソだと思う。

もちろんその評価基準にも例外がある。

例えば、自分より高ランクの冒険者に決闘で三連勝すること。

クエストの対象になっていない上級モンスターの討伐。

単独で魔王軍幹部の捕獲または討伐。

他にもあるが、だいたいこんなところだ。

まぁ、最後に挙げた魔王軍幹部の話は正直に言って耳が痛い。

もしかすると、私が魔王の娘であることをみんなに打ち明けたら、いったいどうなってしまうのだろうか。

公開処刑とかにされてしまうのではないだろうか。


「ん?………」


ふと、そんなことを考えていると、ギルドの入り口の方で冒険者たちがなにやら騒いでいることに気づいた。


「みんな入口で集まって何してるのかな?」


私が視線をそちらに移したところで、入口近くにいた冒険者が大声で叫んだ。


「魔王軍の残党が攻めてきたぞ!みんな急いで装備を整えろ。全員で迎え撃つぞ!」

「魔王軍の残党………どういうこと?」


私は気になって冒険者達が集まっている入り口に向かった。


「誰かギルマスを呼んできてくれ!」


「ダメだ!今日ギルマスは隣町への出張でいないぞ!」

「チッこんな時にかぎっていないのかよ………」


どうやら、ギルドマスターさんは出張に出ていて居なかったらしい。

私がギルドの入り口に着くと、そこには飛龍に乗った一人の魔剣使いの男と、その魔剣使いの男によく似た一人の少年の姿があった。


あ!もしかして私の場所がバレた!?


「下等な人間どもよ聞け。我の名は魔王軍幹部、七魔将(しちましょう)の一人。暴食のグラだ」

「そして私は次期七魔将の名を継ぐ者。ベクターだ!」

「本当ならば、今すぐにでもここにいるお前たちを皆殺しにしたいところだが、あいにくと今日は貴様らと遊んでやる時間はない。我らはこれからとある山のほうへ調査を………ん?」

「げっ………」


グラが得意げにしゃべっている途中で私と視線が合ってしまった。


し、しまった………目があっちゃった!!


「プイッ」


私は即座に目を逸らして知らない人のフリをする。


「誰かと思えばアリスお嬢様じゃないですか!!この一週間あまりいったいどこに行っておられたのですか!!他の者達も、お嬢様が行方不明になったと聞いて心配しておりますよ。さあ我らと一緒に魔王城へ戻りましょう!!」


ベクターが私に視線を固定したまま、ここにいる全員に聞こえるほどの大声で話しかけてきた。

ちょっと!ベクターなに言っちゃってくれてんの!?

アンタ馬鹿じゃないの!?

何なのよ………コイツ空気読みなさいよ!もうっ!


「アリス?アリスって言ったら………」

「アリスといえば………」

「アリスって………」



動揺している間に他の冒険者達の視線が私に集中する。

と、とにかく今は誤魔化さなきゃ………


「コホンッ魔王軍幹部グラ。とその他一名。どうやらあなた達は私を誰かと勘違いしています。

私はアリス。ただのアリスです。私はこの街出身の娘で見ての通りただの初級冒険者です」


「そ、その他………わ、私が?………」

「またまた〜相変わらず冗談がお上手ですね、アリス様。ささっ早く魔王城に帰りましょう!!」


七魔将のグラが両手をスリスリしながらそう言ってきた。

コイツも空気読めねぇーな………

だから違うって言ってんだろ!

まぁ、違わないけど………

これは親子揃ってダメだね………

私はしびれを切らして【思念伝達】を使って二人に話しかけた。


(私が必死で誤魔化しているのに気づきなさいよ!このバカ!ボケ!カス!ってか何しにきたのよ!!)

(今日は別の任務でたまたまこの近くを通りかかりまして………アリス様こそ、どうして人間どものギルドにおられるのですか?)

(魔王城を追放されたからよ!)

(追放?どうしてそんなことに?)

(いろいろあったのよ!)

(そうなのですね。では一度、私たちと共に魔王城へ戻りましょう!そして、ゆっくり魔王様ともう一度話し合いましょう。ちゃんと話せば魔王様もわかってくださいますよ!)

(嫌よ!もう二度とアイツの口なんてききたくない!すでに私は魔王城を追放された身だもの)

(しかし、アリスお嬢様がここにいるとわかった以上、このまま放置するわけには行きません。魔王様になんと言われるか………)

(知らないわよそんなこと!いいから早く帰りなさいよ)

(いや、そういうわけには………)


う〜ん。どうしよう………ぜんぜん帰ろうとしない………困ったわね〜

私は二人を追い返すために思考をフル回転させる。

あ、そうだ!

その結果、私はあることを思いついた。

それは………


(帰る理由があれば良いんでしょ!今から私の言うことを聞きなさい!)

(いや、しかし………)

(いいから聞けって言ってんだろうが!!)

(………はい、かしこまりました)

ここで私は【思念伝達】を解除した。


「あなたたちの狙いは私なんですよね?だったら私と一対一で勝負しなさい。

私が勝ったら、すみやかにここを立ち去りなさい。そしてあなたたちが勝ったら私をどこへでも連れて行くがいいわ!」

「………」

「………」


二人からの反応がない。

私は再び【思念伝達】を使い二人に指示を出す。


(ほら、何してるのよ!続きを言いなさいよ!)

(え?あ、あの………アリスお嬢様………これはいったい?)

(見ればわかるでしょ!決闘よ!決闘!)

(はぁ………わかりました。では、コホンッ)


ここで再び【思念伝達】を解除した。


「い、いいだろう娘。その申し出を受けてやろう」

「だ、だれに口をき、聞いたか、お、思い知らせてやるぅ」


最初のセリフが七魔将のグラで次のが息子のベクターのセリフだ。

ってか、ベクターあんた演技下手か!


こうして私アリス VS  七魔将グラ&ベクターの決闘が急遽行われることとなった。

ご覧いただきありがとうございます!

次回更新までまたしばらくお待ちください。

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