51、氷の階層
私たちは階段を登り次の第3層へとやってきた。
そこは、階層全体が氷に覆われていた。
「今度は氷の階層なのね。さっきの炎の階層とは真逆ね」
「それは迷宮に入る前からわかっていましたね」
私がそう言うと、後ろからセレナさんが駆け寄ってきて返事をしてくれた。
「そうね………さぁ、みんな行くわよっ!」
私が腰に両手を当てながら、大きな声でみんなに呼びかける。
「はいっ!」
「………」
けれど、セレナさん以外の声がしなかった。
気になって後ろを振り向くと、氷の地面にイーディス、ローダ、アリババの3人が死んだように倒れていた。
「さ、さむい………」
「うぅ………」
「凍え死ぬ〜」
3人は小さな声でブツブツと何かを言っていた。
「みんな大丈夫?」
私が3人に問いかけるとイーディスが震えながらゆっくりと起き上がった。
「アリス………この状況を見て私たちが大丈夫なように見えますか?」
「………見えないわね」
少しの間を置いてからイーディスにそう返えした。
「アリスお前はいいよなっ!環境に左右されずにどこでも普通に動けるんだからよ!動けるんだったら見てるだけじゃなくてなんとかしてくれよ………」
「ハァ〜しょうがないわね」
今度はアリババが泣きながら訴えかけてきた。
私は深いため息をついてから、熱魔法で3人に温度を一定に保つ薄い膜を纏わせる。
「おぉ、すげー一気に体があったかくなったぞ」
私が熱魔法で膜を纏わせると、アリババはすぐに元気になった。
「熱魔法で体全体に膜を張っただけよ。これでこの階層でも自由に動けるでしょ」
「そうなのか、ありがとなアリス。それと、アリスはともかくセレナはよくこの寒さ平気だな」
アリババは私にお礼を言うと話をセレナさんへ移した。
「あぁ、そのことですか。わたくしが住んでいた海底はとても暗い場所で冷たい海水ばかりだったので、このくらいはなんともありません」
「なるほどな〜生まれた場所の違いでここまで差がつくものなのなんだな」
「アリババそれ私が前に言ったことですよ!真似しないでください」
「そうだったか?まぁいいや。それで、これからどうするよ?」
アリババはイーディスの言葉を軽く流しつつ私に聞いてきた。
「とりあえず先に進みましょ」
「そうだな」
私たちは氷の大地を進み始めた。
しばらく歩いていると、目の前にゆらゆら左右に揺れている雪だるまやペンギンに似たモンスターが現れた。
私はその見た目からモンスターに一瞬で心を奪われた。
「か、かわいい〜」
「何喜んでんだよアリス!あいつらはあんな見た目をしてはいるが、あれは魔物だぞ!?気をつけろっ!」
「えっそうなの?あんなかわいい見た目をしてるのに?」
「騙されないでくださいアリス。迷宮内のモンスターの中には見た目で相手を油断んさせて、その隙を狙ういやらしい性格をしているのも存在するのです。うかつに近づかないでくだ………あっ!」
私はアリババとイーディスの言葉を無視して、雪だるまのモンスターに近づいて握手をしていた。
「そんなわけないわよね〜こんなかわいい見た目をしてるんだから〜私、かわいい見た目をしてるものに悪いものはないって信じてるんだから〜」
「ユキユキ〜」
雪だるまのモンスターは高い声で私に反応してくれた。
「ユキユキ〜………ギィィィー!!」
次の瞬間雪だるまの目つきが変わり、愛くるしい瞳から鋭い目つきへと変わった。
そして、丸い頭部から何千ものツララを私に向けて放ってきた。
「うわっ!」
私はとっさに【破壊の魔眼】でツララと雪だるまのモンスターを消して、後ろへ後退して身構える。
「くっ!危なかったわね………」
「だから気をつけろって言っただろうがっ!人の話を聞けよ!」
「うぅ………だ、だって〜かわいい見た目をしてるものに悪いのは〜」
「そんなわけないでしょう。ここは迷宮の中なのですよ。現れる生物はどんな見た目であっても気を許してはいけませんよ」
「わ、わかったわよ〜」
私は目に涙を浮かべながら二人の忠告を受け入れた。
そして今日、人やものは見た目で判断してはいけないのだということを知った。
「ギィィィー!!」
私が【破壊の魔眼】で雪だるまのモンスターを倒したことで周りにいた他のモンスターが全て凶暴化した。
「これはまずい状況ですね」
「さっきアリスが一体倒したことで他のモンスターが警戒し始めたな。お前らやるぞ!」
「もちろんよ!」
「仕方ないですね。やりましょうか」
私たちがそう言うと凶暴化したモンスターたちが一斉に襲いかかってくる。
雪だるまのようなモンスターは全身にツララを生やして丸い体を高速回転しながら迫ってきたり、ペンギンのようなモンスターは両腕から氷の斬撃を放ってきた。
「セレナさん、ローダちゃん私の後ろに下がって!」
「は、はいっ!」
「うん………」
二人を後ろに隠して私は鏡の魔剣を雷の魔剣に変身させて、円をえがくように雷の斬撃を放って辺り一帯を一撃でなぎ払った。
周りのモンスターたちは粉々に砕け散った。
「片付いたわね」
「改めて思ったんだがよ。アリスの持ってる鏡の魔剣って一本で複数の魔剣の能力を使えるんだよな。改めて考えてみるとスゲーことだよな」
「おまけに私の時間の魔剣クロノスの能力も使えますからね。ほんと酷い魔剣泥棒ですよ」
「ちょっとイーディス酷い〜ほら、余計なこと言ってないでさっさとこの階層を突破して次の階層に行きましょ」
「そうですね」
「だな!」
こうして私たちはこの階層のさらに奥へと進んでいった。
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