5、初めてのクエスト
無事に冒険者登録が終わったので、さっそくクエストを受けるために、クエストボードを眺めていた。
「薬草採取、野菜の収穫、ペット探しか………」
けれど、どの依頼もピンっと来るものが無かった。
「あ〜違う!私がやりたいのはこういうものじゃない〜」
私はそう叫んで深呼吸をしてから、クレアさんにいいクエストがないか聞いてみることにした。
「あの、さっそくクエストを受けたいんですけど、何かいいのありますか?」
「そうですね。最初のクエストですと、猫探しとかはいかがでしょうか?」
「え〜だから〜そういうのじゃなくて、もっとこう………強い敵と戦えるヤツがいいです。!ドラゴンの討伐とか!」
「あるには………ありますけど………それは、上級冒険者で構成されたパーティーか、勇者様と同等の特級冒険者の方のみの限定クエストになります」
「そこをなんとかなりませんかね〜ほら、私って勇者様と並ぶ逸材じゃないですか〜」
私は両手を合わせて上目遣いでお願いしてみる。
これぞ私の奥の手の一つ、「おねだり」だ。
「なりません!どんなに強い冒険者の方でも、まずは初級クエストから受けていただく決まりになっておりますので」
「え〜つまんない〜」
え!?嘘っ!ま、まさか………私の奥の手が通用しないなんて!この人強い!………
お父様だったら、今のでイチコロだったのに………
悔しい!………
私はクレアさんの返答を聞いて肩をガクッと落とした。
「ハァ………」
「冒険者ランクを上げれば高ランクのクエストを受注できるようになりますから……」
どうやら、そう簡単には行かないらしい………
現実はそんなにあまくないのね………残念。
「はぁ〜わかりました。じゃあ、その猫探しでいいです………」
私は渋々猫探しのクエストを了承して大きなため息を吐いた。
「かしこまりました!」
しばらくして、クレアさんがクエスト用紙を持ってきたので、さっそく内容に目を通すことにした。
「貴族の飼っている白い子猫の捜索ですか……」
パールという名前の全身白色の生後三ヶ月ほどの子猫で、首に丸い銀色の鈴をつけているというものだった。
「これはどういうことですか?」
私はクエストの依頼書を最後まで読み終わって、一つ疑問に思うことがあった。
それは、依頼書の下の方に三日以内に見つけ出さなければ、ギルドへの寄付金を打ち切るという文章が書いてあったのだ。
「あぁ、それは、依頼主の貴族の方は当ギルドに寄付という形で、多額の資金を出資されているので、なるべく早く見つけなければならなくて………」
「それで依頼書の下の方にこんなことが書いてあるのね………」
「ごめんなさいね。依頼主は貴族の方でも内容が猫の捜索ですから、高ランクの冒険者はやりたがらないし、新人さんは初仕事で失敗して経歴に傷をつけたくないって方が多くて………」
「わかりました。これってもう探し初めていいんですよね?」
「えぇ、もちろんよ」
「ふふっ」
私は軽く微笑んでから、両目を限界まで見開いて、【勇者の慧眼】と【超感覚】のスキルを発動した。
私の眼は左が青い瞳で、右が赤い瞳のオッドアイだ。
そして、左の青い瞳に【勇者の慧眼】が宿っていて、右の赤い瞳に【破壊の魔眼】が宿っている。
【勇者の慧眼】は相手の弱点を突き止めたり、あらゆるものを見通す透視の能力を併せ持つ。
【超感覚】は様々な動物と話すことができる。
私は【勇者の慧眼】でじっとこの街全体を見つめながら、【超感覚】で他の猫達と会話をして、パールという猫の場所を突き止めた。
パールは、このギルドの場所から四キロほど離れた路地裏にいることがわかった。
「猫ちゃん見つけたので捕まえてきます!」
「えっ!見つけたって!こ、こんなに早く?」
「はい!行ってきます〜」
私はその場で転移魔法を使って子猫のいる場所に向かった。
♦︎
目的の場所に着くと、子猫は路地の高い壁をカリカリと爪を研ぎながら、ニャーニャーと鳴いていた。
「おーいたいた〜首に銀色の鈴をつけた白い子猫ちゃん発見!………ってちょっと待って………」
目的の子猫は発見したのだが、私が驚いたのはその子猫の大きさだ。
子猫の体長が五十センチほどはあるのが確認できる。
明らかに同時期の子猫と比べて平均を遥かに上回っている。
生後三ヶ月と聞いていたからもっと小さいと思っていた。
「いや、めっちゃデカイじゃん!………」
暴れまわる子猫(?)を抱き抱えてすぐに転移魔法でギルドまで戻った。
♦︎
「ただいま〜」
「お、お帰りなさい。早かったですね………」
「この猫で間違いないですか?」
捕まえた猫をギルドのカウンターにいるクレアさんに差し出す。
「えぇこの猫で間違いありません。お疲れ様でした」
そして捕まえてきた猫は、すぐ奥の部屋に連れて行かれた。
「おいおい、今の見てたかよ!猫探しをほんの数分で終わらせやがったぞ!あの嬢ちゃん」
「上級冒険者でも、数時間から、丸一日かかるってのによ!」
私はヤジを飛ばしてくる冒険者たちの方へ振り向いて、最高の笑顔を見せる。
「ふふっあっどうも〜どうも〜」
「うぉー最高だぜ!嬢ちゃん!」
「よっスーパールーキー」
なんだかんだで、盛り上がってしまった。
しばらくして、クレアさんから今回のクエストの報酬が払われた。
「今回のクエスト報酬金貨五枚です。どうぞお受け取りください」
「えっこんなに?」
「依頼者の方が、この金額を設定されたので」
「そうですか。ありがとうございます」
そしてこの後は、近くの村にある農家の作物の収穫を手伝ったり、回復ポーションを作るための薬草を採取したり、
村に現れたイノシシを討伐したり、とにかくあちこち飛び回った一日だった。
♦︎
気がつくと、時が流れて夜になっていた。
晩御飯を食べていると、私の前にクレアさんと黒い顎髭が特徴的な中年のおじさんがやってきた。
「あの、アリスさん今お時間いただいてもよろしいですか?」
「はい。大丈夫ですけど、何か用ですか?」
「ありがとうございます。実は当ギルドのギルドマスターが、アリスさんに用事があるそうです」
そう言ってクレアさんは隣にいるおじさんに手を振った。
「初めまして、アリス君。私はこの冒険者ギルドのギルドマスターをしているヘンリーだ。よろしく」
「あ、はい。どうも………よろしくお願いします」
いったい私に何の用事なのだろうか………
何か大変んなことでもやらかしただろうか?
そんなことを考えてしまった。
あ!もしかして今日の朝、壁に大穴を開けてしまったことかな?………
もしそうだとしたらゴメンナサイ。
私は心の中で謝罪した。
「それでは私はこれで失礼致します」
ギルドマスターの自己紹介が終わると、クレアさんは軽く挨拶をして受付カウンターへ戻って行き、ギルドマスターのヘンリーさんは私と向かい合う形でテーブルに座った。
すると、さっそく話しかけてきた。
「今日は一日ご苦労様。特に最初の猫探しのクエストを引き受けてくれてありがとう。
あのクエストは我がギルドを運営していくのにとても重要なものだったんだ。
これで例の貴族からの寄付を引き続き受けられる。何かお礼をさせて欲しい。
冒険者ランクを上げること以外で私にできることならなんでも言ってくれたまえ!」
「なんでもいいんですか?じゃぁ、ここの二階に住まわせてください。わけあって実家を追放されたので………」
「なんだ、そんなことか。それならお安い御用だよ。いつまでもここに住んでくれて構わないよ」
「ありがとうございます」
「アリス君、これからの活躍に期待しているよ。それでは、良き冒険者ライフを!」
「はい!頑張ります!」
こうして私の冒険者としての初日は、最終的に寝床を確保するという大成功で幕を閉じた。
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