4、魔力測定とスキル鑑定
しばらくすると、クレアさんが奥の部屋から透明な水晶と、一枚の石板を手に持って戻ってきた。
「お待たせいたしました。これから魔力測定とスキル鑑定をを始めます………あの何かありましたか?」
クレアさんは戻ってくるなり、壁にあいた大きな穴を見て、私たちに問いかけてきた。
「いいえ〜何でもありません!えへへっ」
「そうですか………わかりました。とりあえずその件は後にします」
「ハァ〜」
私が一息つくと、クレアさんが魔力測定とスキル鑑定についての説明を始めた。
まずは魔力測定について。
魔力を測る水晶は、対象者の保有する魔力量に応じて色が変化する。
色の種類は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、そして最後に虹色の全部で8種類だ。
虹色は世界でも指で数えられる程しかいないという。
代表的なのは勇者なのだとか。
クレアさんからその話を聞いた時、言うまでもなく私の魔力量の予想がついた。
おそらく私も虹色だ。
なぜなら私は勇者の娘なのだから。
「まずはこの水晶に手をかざしてください。今は透明ですが、保有する魔力量に応じて水晶の色が変わります」
「わかりました」
クレアさんに言われた通り水晶に手をかざすと、色が透明から虹色に変化した直後に、水晶がピキッと鈍い音を立てながら、ひび割れて砕け散ってしまった。
「へっ?なにこれ!今、私何かした?」
水晶は私の予想通り虹色に変化した。
だが、予想外なことに水晶が砕け散ってしまった。
私は水晶に手をかざしただけで、その他には特に何もしていない。
「ま、魔力が強すぎて水晶が割れた………!?」
クレアさんも驚きを隠せないようだ。
「わーっ」
私はなにが起こったか分からずに困惑していると、後ろの食席から大歓声が上がった。
「おいおい冗談だろ!これは勇者様が破壊して以来じゃねーか?」
「そうだな。だが、今の嬢ちゃんが破壊した水晶は、確か勇者様が破壊した時の水晶より硬く造られた物のはずだぜ!!?」
「ってことはあの子の魔力量は勇者様以上ってことか?」
「信じられねー、新しい水晶はあの伝説の勇者様でさえヒビ一つ入らなかったってのに!」
「タダ者のじゃねーなあの子!!」
「一体何者なんだ?あの嬢ちゃん………」
どうやら水晶は私の保有する魔力が多過ぎて割れてしまったらしい………
先ほどまで私を馬鹿にしていたおじさん冒険者達が、あっけに取られている。
私はたった今、新たな偉業を打ち立ててしまったらしい。
「あ…あの、えっと……これってそんなにすごいことなんですか?」
「え?えぇ、まぁ……そうですね。滅多に無いことですね……アハハハ………」
「はぁ………そうなんですね」
心なしか、クレアさんに距離を置かれているような気がした。
少し残念だ。
「で、では、続いてスキル鑑定に移ります………」
クレアさんは動揺したまま、スキル鑑定の説明を始めた。
言葉が途切れ途切れになって聞き取りずらかった。
スキル鑑定は、自身の生まれながらに持っているスキルを調べるものだ。
スキルは基本的に、どんな人間でも魔族でも、必ず一人ひとつ以上は持っているのだという。
中には複数持っている者も存在するが、こちらも世界で指で数える程度しかいないそうだ。
そして、高い魔力を持つ者は複数のスキルを持っていることが多いらしい。
「こ、今度はこちらの石板に手を置いてください………」
クレアさんは説明が終わっても、いまだに動揺が収まっていなかった。
私は言われた通りに目の前に置かれた石板に手を置くと、石板に文字が刻まれた。
手を離して石板を見ると、そこにはいくつもの文字が書かれていた。
【魔王覇気】【勇者の加護】【破壊の魔眼】【勇者の慧眼】【状態異常無効】【超感覚】【思念伝達】
など、その他にも様々なスキルが書いてあった。
「ありがとうございます。では確認いたしますね」
「はい。お願いします」
クレアさんは私からスキルが書かれた石板を受け取ると、目をパチパチと何度もまばたきしながら言った。
「ま、魔王覇気!ゆ、勇者の加護!?………」
「なんだって!!」
クレアさんがスキルの書かれた石板を読み上げた途端に、再び他の冒険者達から歓声が上がった。
みんな何を驚いているのだろうか………と私は頭の上に疑問符を浮かべる。
スキルなら誰でも持っているものだし、今更驚くことでもないだろうと思った。
「今、受付嬢の姉ちゃんなんつった?」
「魔王覇気とか勇者の加護とかって言ってたぞ!」
「おいおい!どういうことだ?」
「マジで何者なんだよ!あの嬢ちゃん!」
クレアさんの言葉をきっかけに、再び場が騒然とする。
周りの冒険者たちが騒ぎ始めた。
これ以上続けるのは何かまずい気がしたので大声で叫んだ。
「あぁ〜クレアさんそれ以上はやめて!ストーップ!!」
「むぐっ〜〜〜」
そして私は慌ててクレアさんの口を手で塞いだ。
あまりに勢いをつけすぎたのか、私は大きな音をたててカウンターの裏まで一回転しながら滑り込んでしまった。
「〜〜〜っ」
クレアさんは足をばたつかせながらもがいている。
すぐに口から手を離して、後ろの冒険者達に聞こえないぐらいの声量で会話をする。
「プハッ!さっきのスキルといい、あの魔力量といい、あ、あなたは一体何者ですか?魔王………それとも勇者………?」
「さっきのは見なかったことにしてください………ね?」
「し、しかし………」
「うーん、そっか〜」
私は一言そう言い終わると、胸の前で腕を組みながら少しの間考え込む。
「あ、そうだ!」
ふと思いついて、カウンターのそばに置いていた巾着袋を手に取り、クレアさんの目の前に持ってくる。
そして袋の中に手を入れ、中から金貨十枚を取り出してクレアさんの手に握らせる。
そう、お金で黙らせる作戦だ。
「これは口止め料です。さっき見たスキルのことはすべて忘れてくださいね。これは女と女の約束、私とあなただけの秘密ですよ?」
「それはどういう意味ですか………?」
「ひ・み・つ・で・す〜」
私はそう言って、真っ直ぐ彼女を見つめながら、ニコッと笑顔を作る。
すると彼女の体の動きが一瞬止まった。
これが【魔王覇気】のスキルなのだろうか………
私がクレアさんから目線を外すと、彼女が再び動き出した。
そして、クレアさんは無言のまま、何度も首を縦に小さく振りながら頷いている。
私はそれを見届けてカウンターの表に戻った。
クレアさんも何事もなかったように、ここに居る全ての冒険者へ向けて最高の笑顔で対応する。
「で、では、アリスさんは当ギルドの基準を満たしましたので、晴れて新たな冒険者の仲間入りです。おめでとうございます」
「ふふっやったわ〜!!」
私は思わずガッツポーズを決めたり、飛び跳ねたりしてしまった。
「うおっー」
他の冒険者からも、たくさんの歓声が上がった。
「何だかよくわかんねぇーけどスゲェーぜ嬢ちゃん!」
「よっニュービー」
「スーパールーキーの誕生だぜ!!」
「うおっー」
ここにいる全員がジョッキを掲げて大声をあげた。
こうして、私アリス・ハイト・ルークは冒険者としての第一歩を踏み出したのだった。
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