39、鏡の魔剣スぺクルム
「ウオォォォォー」
12本の魔剣の攻撃が私に向かってきた。
「お返しよ!」
私は自分の目の前に分身した十二本の魔剣スペクルムを円形にして、それぞれの魔剣の攻撃をアーサーに向けて跳ね返した。
そして、魔剣の攻撃を跳ね返したと同時に私が握っている魔剣スペクルムの本体に12本の魔剣の情報が伝わってきた。
これは私のスキル【共感覚】の効果だ。
このスキルのおかげで12本の魔剣の正体がわかった。
氷の魔剣グラキエス 雷の魔剣トニトルス 風の魔剣ウェントゥス
闇の魔剣オプスクリタス 石の魔剣ラピス 光の魔剣ルクス 毒の魔剣ウェネーヌム
夢の魔剣ソムニウム 言霊の魔剣ウェルバ 灰の魔剣キニス 音の魔剣ソヌス
水銀の魔剣アルゲンウィトゥムの12本だった。
なかなか面白い能力を持っている魔剣があるわね………
興味深いわ!
「チッ!そういやお前の魔剣は分身する上になんでも反射するんだったなっ!はぁっ!」
アーサーはそう言って12本の魔剣の斬撃をを聖剣エクスカリバーの光の斬撃で軌道を変えてなぎ払った。
すると、アーサーがなぎ払った魔剣の斬撃が街のあちこちの家に直撃して半壊した。
「っ!斬撃の軌道を変えられた!?くっそう簡単にはいかないようね………」
魔剣の斬撃が直撃したところは、それぞれの剣の影響を受けて断面が凍結していたり、焦げていたり、灰になって消滅したりしていた。
街中の家が………
みんなごめんなさい………
アーサー!!街の人たちだけじゃなくその人達が暮らす大切な家までもめちゃくちゃにするなんて絶対に許さない!
「ウオォォォォー」
「っ!く………」
息つく暇もなく街の住人達や冒険者達が私を取り囲んで切り掛かってきた。
っ!!次から次へとキリがないわね………
この人たちはただ操られているだけで切るわけにはいかない………
でも、この状況をなんとかして収めないと………
そんなことを考えているうちに四方八方からあらゆる魔剣の斬撃が飛んでくる。
でも、どうすれば………
「アリスお姉ちゃん!!」
「えっ!!」
突然空からローダちゃんの叫ぶ声が聞こえた。
空を見上げると大きな水の膜が浮かんでいて、ゆっくりとこの街に向かってきていた。
水の膜の中にはセレナさんを先頭に、ローダちゃんを含めた攫われた街中の子供達の姿があった。
「あん?なんだあのデケェ水のたまは」
アーサーもローダちゃんの声に気づいて空を見上げていた。
「アリスお姉ちゃんをいじめるなっー!!」
ローダちゃんはそう言いながら水の膜を飛び出して地上に向かって飛び降りてきた。
そして、飛び降りてくる途中でローダちゃんの体がどんどん巨大化していく。
地上に着く寸前で元の何十倍もの大きさまで巨大化して、街の家をはるかに上回る大きさになった。
「ろ、ローダちゃん!?………」
私はローダちゃんのあまりの変わりように固まってしまった。
「ニャャャャーン」
ローダちゃんは地上へ着くと大きく口を開けてものすごい衝撃波を発生させる咆哮を放った。
「うぅ………すごい衝撃波ね!!」
ローダちゃんの放った咆哮によって私を取り囲んでいた人たちが遠くへ投げ飛ばされた。
「な、なんだ………化け猫!?」
アーサーもローダちゃんを見て驚いていた。
「ウゥゥゥゥゥゥ………」
そして、ローダちゃんは咆哮を放った後アーサを獲物を狙うように見つめていた。
「あん?なんだよっ!俺お睨みやがって!!気にくわねぇな!クソ化け猫がっ俺の聖剣で退治してやるぜ!!」
そう言ってアーサーは聖剣エクスカリバーに手を添える。
「ウゥゥゥゥゥゥ………ニャン!!」
「なっ!がはっ!!」
アーサが聖剣を構えるより早く、ローダちゃんが巨大な爪でアーサーを一瞬にして一撃で吹き飛ばした。
そのスピードは体の大きさに対してはあまりにも早すぎた。
「ローダちゃん!アリスさんわたくしは一体どうすれば」
空からセレナさんが話しかけてきた。
「セレナさん!ここにいる人たちもお願いできるかしら?」
「ええ、それはできます」
「なら街の人たちをお願いするわ!ローダちゃんは私に任せて!あとは少し街から離れたところで避難していて」
「はいっ」
セレナさんはもう一つの水の膜を作り出して12人の街の人たちを上空へ避難させた。
私はこの間に地面に転がった12本の魔剣を全て回収して、いつも剣を締まっている異空間へ送った。
「ふぅ」
「アリスオネエチャンダイジョウブ?」
私が一息つくと巨大な猫の姿になったローダちゃんが横から声をかけてきた。
「ええ、大丈夫よ。助かったわ!」
「ヨカッタ!」
ローダちゃんこの状態でも普通に喋れるのねよかったわ………
まぁ、ちょっと怖いけど今は黙っておきましょう。
そんなことより………
「………たくっ痛ぇじゃねーかクソ化け猫!」
吹き飛ばされていたアーサーがゆっくりと立ち上がった。
「それにちょっと寝てる間に俺の大事な即席の騎士団もいなくなっちまった」
アーサーはフラフラしながらそう言った。
私は状況がひと段落したところでアーサーに問いかけた。
「アーサー一つ聞いてもいいかしら?」
「あん?一体何をだよ」
「あなたが人間を恨む理由について」
「なんだそのことか。いいぜ」
アーサーは乾いた声であっさりと私の問いかけに答えた。
そして、自分の過去を話し始めた。
アーサーはとある小国の王子として生まれた。
だが、その国は普通の国ではなかった。
魔王軍に占領された国だった。
母親は人間で、当時その国の王女であり【勇者の加護】を持っていた。
父親は魔王軍幹部七魔将の一人であり、強欲の魔剣アウァリティアの使い手ガイツだった。
アーサーはその国が魔王軍の手に落ちた証として生まれた。
国民達からは忌子として酷い扱いを受けていた。
15歳になった年に生家の宮殿を飛び出し、とある男に声をかけられて今の組織に入ったのだという。
「これが俺のいままでの全てだ。どうだ納得したか?」
アーサーは過去を一通り話し終えると、一言そう締めくくった。
「あなたが魔王軍幹部の息子!?」
私はアーサーの過去を聞いて驚いた。
自分の身内の名前が出てくると思わなかったからだ。
そして同時に、前にギルドの地下でターリアさんが言っていた「妾だけではないぞ。ここにいる殆どの者はかつて魔王軍に占領された国の王族なのだぞ」という言葉を思い出した。
「ええ、話してくれてありがとう。そのことは個人的に謝罪するわ。ごめんなさい」
「あぁ?どうしてそこでお前が謝るんだよ。意味わかんねーな」
「ええ、そうよね。まぁ頭の片隅に入れておいてくれると嬉しいわ。でも………」
でも、どんな理由があろうと………
「今日この街の人たちを傷つけたことは絶対に許さない!」
私はそう言い放って再び鏡の魔剣スペクルムを12本に分身させる。
「おぉ!やる気か!いいぜ!最後の決着をつけようじゃねーか!だが、もう分身は見飽きたぜ!」
アーサーが聖剣エクスカリバーと炎の魔剣プラーミアを構える。
「これはただの分身じゃないわよ!見せてあげる鏡の魔剣の奥の手をね!」
次の瞬間12本の鏡の魔剣が先程回収したそれぞれの魔剣の姿に変わった。
「なっなんだそりゃ!!」
「ローダちゃんアーサーの聖剣に噛みついて!」
「ウン!」
ローダちゃんはさっきと同じスピードでアーサーに向かっていき聖剣エクスカリバーに噛み付いた。
「なっ何しやがる!化け猫!」
12本の魔剣がそれぞれ光出す。
「この一撃はこの街みんなの痛みよ!食らえっーーーー!!」
私は叫びながら12本の魔剣の総攻撃をアーサーに向けて放った。
「ぐあぁぁぁぁー」
アーサーは魔剣の総攻撃を受けて街の外まで勢いよく飛んで行った。
ご覧いただきありがとうございます。
次回更新までしばらくお待ちください。




