30、セレナの旅立ち
この話で2章完結です!
女王様の予言が終わった直後にハンスさんが話し始めた。
「それにしても、この国が侵攻を受けたのは私がアリシア様の勇者パーティーに所属していた頃以来だな」
「そうなんですか?」
「ああ、あの時は魔王軍幹部七魔将の一人「色欲」の魔剣ルグジュールの使い手ルクスリアがこの魚人族の王国を魔王軍の領地にするために暴れていたんだ」
「えっ!?」
ルクスリアは魔王軍幹部七魔将の一人で「色欲」の魔剣ルグジュールの使い手の女性だ。
私は小さい頃からあの人が苦手だった。
会うたびに私に服装に関してマウントをとってきたからだ。
彼女に対してはあまり良い思い出は持っていなかった。
正直お母様に敗北していることを知って安心した。
今思えば、ルクスリアのあの態度は勇者アリシアの娘である私への復讐だったのかもしれない。
「そして、私はルクスリアとの戦いが終わった後にメアにプロポーズをしてこの海底神殿に一人残ったんだ」
「えへへ、そうなんですね〜」
私はハンスさんの昔話を適当に相槌を打ちながら、作り笑いを浮かべて聞き流した。
しばらくして、昔話が終わるとハンスさんの雰囲気が一変して真面目な表情になった。
「さて、雑談はこのくらいにしようか。アリス君、これから大事な愛娘のセレナを預けるにあたり、改めて君の実力を見せてもらおうと思う。いいかな?」
「ええ、もちろんいいわよ!」
「うむ、ありがとう。では、表でに出ようか」
「ええ!」
えっ!?ちょっと待って!
今なりゆきで返事をしてしまったけど、これってもしかして娘が欲しければ俺を倒していけ!ということかしら?
もしそうだとしたら、それは普通男性にかける言葉の気がするのだけれど………
まぁ、セレナさんを預かることに変わりはないのだから当然?なのかしらね………
私は疑問を抱きながらも、ハンスさんに言われた通り海底神殿の外へ向かった。
♦︎
私は海底神殿の入り口の前にやってきた。
この場には私とハンスさんの他に、イーディスさんとローダちゃんや女王様とセレナさんも来ていた。
私はハンスさんに向かい合うように立って聖剣ミステリオと鏡の魔剣スペクルムを構える。
私が剣を構えると同時にハンスさんもグングニルの槍を構えた。
お互いに武器を構えると沈黙の時が流れる。
周りではセレナさんが真剣な表情で腕を組み、お祈りのポーズをしている。
きっと、この決闘が何事もなく無事に終わることを願っているのかしらね。
私はそんなことを思いながら、呼吸を整えて剣先をハンスさんへと向ける。
しばらくの間沈黙の時間が流れる。
私たちは同時に動き出した。
「はっ!!」
「ふっ!!」
二本の剣と一本の槍が交差する。
一筋の光が私とハンスさんの間を突き抜けた。
ガランッ
そして、数秒経った後ハンスさんのグングニルの槍が手から落ちて鈍い金属音が響き渡った。
勝負は一瞬で決着がついた。
「ハハハッいやーっこれは参った!さすがアリシア様の娘だねアリス君!さっきの戦いでのことはまぐれではなかったと知れて満足だよ。あの時は本気だったのでね」
「え!っもしかして今のって最初に会ったときに戦った時の確認だったんですか?私てっきりセレナさんを連れて行くのに腕試しをしていたのかなと思ってました………」
「ああ、それも含んでいたよ。両方の意味があったんだよ」
「アハハそうだったんですね。それで結果は?」
「そんなもの改めて言う必要はないだろうが、もちろん合格だ。アリス君うちのセレナをよろしく頼む」
「ええ、もちろんよ」
こうして、急遽始まったハンスさんの決闘は私の完全勝利で幕を閉じた。
「そうだ言い忘れていたことがあった」
「なんですか?」
「出発は明日にして今日は泊まって行きなさい」
「あなた、それは妾が言おうとしていたのに!」
ハンスさんの言葉に女王様が悔しそうに言った。
「お言葉に甘えさせていただきます。私も戦闘の後で疲れましたので………」
「ええ、そうね。さすがに私も疲れたわ〜」
「わ〜い!お泊まりだ〜」
私は背伸びをしながらイーディスさんに賛同して、ローダちゃんは笑顔で手を振りながら喜んでいる。
ローダちゃんの喜ぶ姿を見て嬉しくなってクスクスと笑った。
「アリスさん。勇者様のことたくさん聞かせてください」
私がローダちゃんを見て笑っていると、後ろからセレナさんが声をかけてきた。
「ええ、もちろんいいわよ!」
「よろしくお願いします」
この後セレナさんにお母様の「勇者物語」などの話をした。
♦︎
翌日。
海底神殿前。
私たちは海底神殿の入り口に立っていた。
今は女王様とハンスさんがセレナさんの旅立ちのお見送りをしているところだ。
「セレナ、準備は大丈夫なの?」
「はい、お母様!」
「そうか。体に気をつけてな」
「はい!お父様!お二人もお元気で!」
「ああ」
「ええ」
ハンスさんはどこか寂しそうな表情だ。
きっと、ハンスさんは娘が心配でたまらないのだろう。
私の父とはやはり大違いだった。
両親から愛されているのが見ているだけでも伝わってくる。
「セレナよ。世界にはいろいろなものが溢れている。めいいっぱい楽しんできなさい」
「はい!行ってきます!お母様!お父様!」
セレナさんは女王様とハンスさんへ向けて深々と頭を下げた。
「では、そろそろ行きましょうか?」
「ええ」
「うん!」
「みなさんよろしくを願いします」
イーディスさんにみんながそれぞれ返事をする。
そして、全員がシャボンの中へ入る。
「それじゃあ行くわよ!」
私は全速力でシャボンを操作して地上へ向かった。
「ぎゃぁぁぁぁぁー」
「いやぁぁぁぁぁー」
「きゃぁぁぁぁぁー」
私の後ろで甲高い悲鳴が鳴り響いた。
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次回更新までまたしばらくお待ちください。




