3、ギルド
私は窓から差し込む日差しを感じて目を覚ました。
「う〜ん、ここは……どこ?」
目が覚めると、目の前に身に覚えがない天井が目に入ってきた。
知らない間に私はベッドの中で横になっている。
そして、お金などが入った巾着袋が枕元に置いてある。
誰かが倒れた私ごと、ここまで運んできてくれたのだろうか。
後で運んできてくれた人に会えたらお礼を言おう。
そんなことを考えながら、私はしばらくの間ベッドの上でのんびりする。
ぐぅ〜とお腹が鳴る。
「さっきのは夢か……な〜んだ残念………」
どうやらあまりの空腹からか、おとといの誕生日パーティーの様子を思い出してしまったらしい。
おまけに、おとといの食事のことだけではなく、縁談のことまで思い出してしまった。
縁談の話は本当にイヤな気分だった。
「はぁ〜なんであんなことしちゃったんだろ………」
そして誕生日パーティーで両親から貰ったばかりの剣を親子喧嘩で使ってしまった。
あの時は、ただお父様に話を聞いて欲しかっただけなのだが、つい感情的になってしまった。
途中でお母様が止めに入ってくれなかったら、一体あの後どうなっていたのだろうか………
ぐぅ〜と再びお腹が鳴った。
「このままじゃ何か食べないと死んじゃうよ………」
そう言ってベッドから起き上がり、部屋全体を見回す。
すると、視界の右側に扉があったので出てみることにした。
扉を開けて出てみると、下の階へ続く階段があった。
階段の方へ耳を傾けると、下の階からガヤガヤと人々が大騒ぎしているような声が聞こえてきた。
「何してるんだろう?」
その様子が気になって、枕元に置いてあった巾着袋を手に取り、空きっ腹のお腹を抑えながら、ゆっくりと階段を降りていく。
すると、大勢の鎧を着た人たちがテーブルを囲んで、肉を頬張ったり酒を飲み交わしていた。
いいな〜美味しそう〜私も食べたい!
私は今にも食べたい気持ちを抑えながら、一度深呼吸をして部屋全体を見渡してみる。
食席の奥の方へ視線を移すと、カウンターがあることに気づいた。
とりあえず、事情を聞くためにカウンターにいる女性に声をかけてみることにした。
「あの〜すみません。ちょっといいですか?」
「はい。どうぞ」
「先ほどまでここの二階で寝ていた者なんですけど、ここはどこですか?」
「あ〜昨日ここに運ばれてこられた方ですね。お目覚めになったのですね!良かったです。ご紹介が遅れましたね。私はこのギルドの受付を担当しております。クレアと言います。ここは冒険者ギルドです」
冒険者ギルド!?
それってもしかして………あのお母様と同じ冒険者なのかしら?
「ギルドってあの冒険者がたくさん集まるところですか?」
「えぇ…まぁ………そんなところです。あなたは当ギルド所属の冒険者さんが近くを通りかかって、ここまで連れてきて下さったんですよ?」
「そうなんですね。ありがとうございます。あの、私も冒険者になれますか?」
「えぇ当ギルドの条件を満たせば冒険者登録は可能です」
「私も冒険者になりたいです!やらせてください!」
ぐぅ〜
大きな声でキッパリと言い切ったところでお腹が鳴ってしまった。
正直めちゃくちゃ恥ずかしかった。
「まずはお食事をとられてはいかがですか?」
「えへへ、そうさせてもらいます」
私は恥ずかしさを誤魔化すために苦笑いを浮かべる。
「これで足りますか?」
私はお金の入った巾着袋から金貨十枚を取り出した。
「こ、こんなに!あのどのぐらい食べるつもりですか?」
「へ?一人分ですけど………」
「これだけあったら家が一つ立ちますよ!」
「えっそうなんですか?」
「食事をするぐらいなら、銅貨一枚あれば十分ですよ!」
「え!お金は種類があるんですか?」
「………」
「あの私今金貨しか持ってないんですけどどうすればいいですか?」
「………」
クレアさんは目を丸くして固まってしまった。
全く返答が返ってこない。
私なんか変なこと言っちゃったかな?
「あの〜聞こえてますか?」
「………あ、ええとですね………」
この後、金貨一枚を両替して一人分の食事の代金を払った。
どうやら私は相当なお金持ちだったらしい。
私の中でお金といえば、金貨しかないと思っていた。
両替中にクレアさんからお金の種類について教えてもらった。
金貨の他には、銀貨と銅貨という物があるらしい。
しばらくすると、カウンターから食事が出てきた。
私はイカツイおじさん冒険者たちの間を通り抜けながら、一番すみっこの食席に座った。
メニューはパンと野菜のスープだ。
正直なところ、魔王城で専属料理人が作ってくれたものには見劣りする味だったが、せっかく出されたので残さず食べることにした。
数分ほどで食事を済ませて、私は再び受付カウンターへ向かった。
「ごちそうさまでした〜」
「お粗末様でした!」
挨拶を済ませて、私は冒険者登録の話を再開した。
「あの、冒険者登録のことなんですけど」
「はい!ではまずこちらの用紙に必要事項を記入してください」
受付嬢のクレアさんから手渡されたのは、冒険者の登録用紙だった。
およそ数分で用紙の記入お終えて、クレアさんに渡した。
「ご記入していただきありがとうございます。では、確認しますね。」
「はい、お願いします」
クレアさんは淡々と私のプロフィールを読み上げていった。
名前、アリス・ハイト・ルーク。
性別、女性。
年齢、十五歳。
「以上になります。間違いありませんか?」
「はい!間違いないです」
私は活気に満ちるように、元気な声で返事を返した。
「では書類はこの内容で登録させていただきますね」
私は静かに頷くと、テーブルで食事をしているおじさん冒険者たちが、ヤジを飛ばして来た。
「おいおい、あのお嬢ちゃんが冒険者登録をするらしいぞ〜ヒックッ」
「あの子随分と線が細いが大丈夫か?」
「頑張れよ〜お嬢ちゃん〜ガッハハハ!!」
「おい〜笑うなよ〜かわいそうだろう〜ナハハハッ」
「よっニュービ〜なーんつってアハハハッ」
むさくるしいおじさん達に笑いものにされて、ものすごくバカにされた気がするけど、私は黙ってやり過ごした。
「では続いて魔力測定とスキル鑑定を行います。少し準備がありますので少々お待ちください」
そう言ってクレアさんはカウンターの奥の部屋へと姿を消した。
カウンターの前で立ち尽くしていると、先ほどヤジを飛ばしてきたおじさん冒険者の一人が、私の肩をたたきながら声をかけてきた。
「おいおい〜お嬢ちゃんよ、冒険者なんかやめときな!お嬢ちゃんに務まる職業じゃねーって。それにここは数ある冒険者ギルドの中でも登録基準がもっとも高いことで有名なんだ。そんな無理ゲーするより、俺たちとイイことして遊ぼうぜ!な?」
なんなのよ!この酔っ払いは………
冒険者ってみんなこんな感じなのかしら?
私の知っている冒険者たちは、こんな下品なことを言う人は一人もいなかった。
やっぱり勇者パーティーだからかしら………
「そうなんですね。わざわざ教えて頂きありがとうございます。どれだけ高難度だろうと構いません。私は夢を諦めたく無いので」
私は冷たく突き放すような口調で返事を返した。
早くどこかへ行って欲しかったけれど、そう簡単に思い通りには行かなかった。
「まぁそう言わずにこっちこいよ!」
「ちょっと!気安く触らないで!」
少しびっくりした。
冒険者の男が、私の腕を掴んで引っ張ろうとしてきた。
私はそれをすぐにふり解き、男の背後に回り込んでハメ技を決める。
グッと腕に力を込めて、首を死なない程度に絞めていく。
「ガハッ……ギ…ギブ……ま、参った……」
私は男の降伏の言葉を聞いて拘束をといた。
そして思いっきり拳に力を込めて冒険者の男の腹に叩き込んだ。
「はぁっ!」
「がはっ」
冒険者の男は私の拳を受けて、壁に勢いよく激突して気を失いそのまま床に倒れた。
冒険者の男が激突した壁には大穴が空いていた。
「あ!やり過ぎちゃった………」
かなり加減したんだけどな………
まぁ気絶しただけだから大丈夫だろう。
「ふんっ!」
私は気絶した冒険者の男と同じテーブルで食事している男たちに視線を向けて睨みつけた。
そして思いっきり首を横に振った。
「ひぃ〜すいませんでした………」
しばらくして冒険者の男は意識を取り戻した。
そして私に視線を向けた。
「チッ可愛くねー女だぜ!」
そして、そう一言って男は先ほどまで座っていた席に戻っていった。
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