20、マグス
私たちは突然二人の男が現れたことに驚いていた。
ハンスさんを含めて全員の兵士が槍を一斉に構えて王の間全体に緊張が走る。
何も無いところから突然現れた!?
私でもまったく気配を感じなかった………
というよりこの王の間にきた瞬間に気配をやっと感じとれたような気がするわね………
黒いローブを着た男の一人は右手に笛を持っている。
もう一人の男は黄金の長剣を腰に下げている。
私はすぐに【勇者の慧眼】で二人を確認する。
すると、笛を持った男は頭にネズミの耳が生えていて、黒いローブの下にはまだら模様の服を着ていた。
もう一人の黄金の長剣を腰に下げた男は私と同等の魔力を持っていて、腰に下げている剣は不思議なオーラを纏っていた。
そして、二人からはイーディスさんと決闘した時と同じ雰囲気を感じた。
この感じはもしかして私と同じ混血の人たちかしら?………
「この感じ………まさか!」
「………っ!」
気づけば私はそんな言葉を口にしていた。
そしてすぐに私の発した言葉にイーディスさんが反応した。
「アリスさん。どうかしましたか?」
「黒いローブを着たあの二人相当な魔力を持っています。それと、二人からは特殊な雰囲気を感じます」
「特殊な雰囲気ですか………その他に何か外見でもわかる特徴はありますか?」
「笛を持った男はネズミの耳が生えています。それと………」
イーディスさんにそう問われて、私は自分が見て感じたことを全て話した。
「そうですか………それは間違いなく二人とも混血ということでしょうね」
私はイーディスさんの言葉に無言で頷いた。
そして、それとほぼ同時に女王様が二人の男に話しかけた。
「そなたたちは何者だ?」
「女王様お初にお目にかかります。私は通りすがりの笛吹きです。以後お見知りおきを」
「俺はただの剣士だ」
二人の黒いローブを着た男たちは淡々と自己紹介をした。
「そうか、それでそなたたちはこの海底神殿に何をしにきたのだ?」
「先ほども申し上げましたが、そちらのお姫様を我々に引き渡していただきたく存じます」
「………」
女王様は顎に手を当てながら考え込んでいる。
私はその間に笛吹き男について気になっていることを聞いてみることにした。
「笛吹き男さん、ちょっといいかしら?」
「なんでしょう?お嬢さん」
「あなた、もしかしてさっき港でこの子のことを助けてくれた人?」
私はそう言ってローダちゃんの方へ手を差し出した。
「ええ、そうです。どうしてわかったのですか?」
「さっきの笛の音が港で聞いた笛の音と同じだったからよ」
「………なるほど。それでそのことがなんだというのですか?」
「ただ、「ありがとう」って一言いっておきたかったのよ」
「どういたしまして」
笛吹き男はそう言ったあと、顎に手を当てながら何か考え事をしているようだった。
しばらく時間が経った後、笛吹男が再び口を開いた。
「取引をしませんか?」
「取引!?」
私は笛吹き男の言葉に驚いた。
取引って突然何を言い出すのよこの人は………
それにしてもこの二人どこか怪しいわね………
まったく信用できる気がしないわ………
「なぜ、いきなりそんなことを?」
私が考えごとをしていると、イーディスさんが笛吹き男に質問をしていた。
「そこのネコミミの少女を助けた見返りに、今度は我々にそちらの混血のお姫様を引き渡してくれませんか?」
笛吹男はそう言ってセレナさんの方へ手を差し出した。
「それとこれとは別ですよ。あなたたちは信用できません」
イーディスさんは笛吹き男の申し出をキッパリと断った。
「セレナ、あなたはどうしたいですか?」
女王様がセレナに視線を移して問いかけた。
「その………わたくしはどなたか存じ上げない方よりも、お父様の知り合いの方たちの方がいいです………」
セレナさんがそう言うと、女王様は無言でゆっくり頷いて笛吹き男たちの方へと視線を移した。
「そのようですね。笛吹き男とやら、今回はお引き取り願えるかしら?」
「………」
女王様の問いに対しての笛吹き男の返答はなく、首を下に向けたまま無言だった。
それから、笛吹男は女王様の方ではなく、わたしたちの方へ視線を向けてきた。
「では、取引不成立ということですね」
笛吹男は一言そう呟いた。
すると、指先と足先をカタカタと震わせ始めた。
明らかにさっきとは様子が違う。
断られただけで様子変わりすぎじゃない?
いや、取引も何も本人がわたしたちについて行きたいと言っているのだからそれでいいじゃない………
変な人ね………
「はぁ〜できれば話し合いでかたをつけたかったのですが、こうなっては仕方ありませんね。あとはお願いします」
「ああ」
笛吹男がため息をつくと、隣にいる黄金の長剣を腰に下げた男に指示を出した。
もう一人の男は笛吹き男に短く返事をして、腰に下げている黄金の長剣を勢いよく引き抜いた。
そして、男が剣を引き抜くときに一瞬だけローブの内側に赤い鬼のようなマークが見えた。
「あの鬼のようなマークは………マグス!」
イーディスさんが黄金の長剣を持った男のローブのマークをを見て驚きの声を上げた。
マグス?
一体なんのことかしら………
私は気になってイーディスさんに聞いてみることにした。
「イーディスさん、あのマークが何か知っているんですか?」
「あのマークは混血の人たちを狙う組織「マグス」のマークです」
え!?
それってもしかして、ギルドマスターが前に言っていた混血の人たちを狙ってるっていう組織のことよね?
組織の名前マグスっていうのね………
だとしたら、なおさらセレナさんを渡すわけにはいかないわね!
私はそう思って、召喚魔法で聖剣ミステリオと鏡の魔剣スペクルムを取り出して構えた。
「おいおい、人聞きが悪いな。俺たちはこの世界に革命を起こすために行動している。今はそのために一人でも多くの仲間が必要なんだよ」
「断られたからそのあとは強引に力づくというわけかしら?」
「仕方ないだろう?全ては断るお前たちが悪いんだからな!」
「勝手な言い訳ね!」
私がそう言うと、黄金の長剣を持った男は表情を曇らせた。
「後悔してももう遅いぞ!この剣はあらゆるものを切り裂く!
そう言って男は黄金の長剣の剣先を天井に向けた。
すると、黄金の刀身が光り出して王の間全体を包み込んだ。
「まぶしい!」
「この光は!」
男は叫びながら勢いよく黄金の長剣を振り下ろしてきた。
「喰らうがいい!」
黄金の刀身から眩い光の斬撃が放たれて私たちの目の前に迫ってきた。
「っ!………」
そして、海底神殿に大きな爆発が起こった。
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