2、誕生日パーティー
月明かりが輝く夜。
私が魔王城を飛び出してからまる丸一日たっていた。
ぐぅ〜とお腹の音が鳴る。
「お、お腹すいた〜」
私は行く当てもなく、丸一日飛行魔法で移動していた。
その間何も食べていなかった。
今までずっと魔王城にいて、料理はおろか買い物さえ、まったくと言っていいほどやってこなかった。
まさか、今までの生活をしていたせいで、こんなことになるなんて思っても見なかった。
お金は誕生日会の時に、みんなから余るほど貰ったからそれは心配はいらない。
問題はそこではない。
正直に言おう。
私、アリス・ハイト・ルークは………
お金の使い方が全くわからない。
もちろんこれは冗談ではない。
本気の本気だ。
今までは何か欲しいものがあれば、私の専属の侍女たちが全て用意してくれていたからだ。
こんな状況になって初めてわかった。
私はものすごく恵まれた環境で育ったということを。
ぐぅ〜と再びお腹の音が鳴った。
「も、もう……無理げ、げんかい……ふにゅう……」
私は空腹のあまり、ついに力尽きて真っ逆さまに落下していった。
そしてその言葉を最後に私の意識は完全に途絶えた。
♦︎
昨晩。魔王城宴の間、アリスの誕生会にて。
誕生日パーティー出席者は主役の私はじめとして、両親の魔王デストと勇者アリシア、その他に魔王軍幹部の七魔将と呼ばれる七人の魔剣使い達。
さらに、お母様の仲間である勇者パーティーの面々が、魔王城の宴の間に集結していた。
「それではこれより我らの王、魔王デスト・ルーク様の御息女であるアリス様の十五歳の誕生日パーティーを開催いたします!」
司会の魔人が誕生会の開会宣言をする。
「皆のもの!今晩は我が愛娘の宴だ。存分に楽しむが良い!」
司会の魔人の開会宣言が終わると、お父様がパーティー会場全体に響き渡るような声で叫んだ。
正直、とてつもなくうるさく感じた。
だけど、今日のパーティーは私のために開かれたのだから、全力で楽しもうと思った。
主役である私がしんみりしていたら、この日のために来てくれたお母様に申し訳ない。
普段は、人間であるお母様は魔王城に入ることは許されていない。
お父様もお母様を愛してはいるが、対外的な考慮なのだとか。
周りの反応を見ていて、何か複雑な事情があるのだと思った。
侍女たちが言うには、人間と魔族が一緒にいるのは普通で考えればありえない光景らしい。
お母様は年に一度、私の誕生日にだけ魔王城への出入りが許されている。
今日は特別な日なのだ。
私にとっても、お母様にとっても。
だから私は笑顔でいよう。
物心ついた頃に私はそう決めた。
お母様には私のことで心配させたくない。
そう思いながらお母様に視線を向ける。
お母様は楽しそうに勇者パーティーの人たちと、ステーキを食べながら笑顔で会話している。
続けてお父様の方へ視線を向けた。
お父様も気分が高揚しているようで、大きな声で笑いながら、グラスに注がれたお酒を一気飲みしていた。
「ふふっ」
両親の楽しそうにしている姿を見て私は思わず笑ってしまった。
ここにいるみんなを見ていて、とても楽しそうだ。
本当に今日は楽しい日だ。
「わーっ」
参加者全員がグラスを掲げ乾杯をする。
乾杯が終わると、七魔将の面々が私の前にやっきた。
「姫様、成人おめでとうございます!」
「お嬢!ささっどうぞ、どうぞ遠慮なさらずに」
「ささっぐっと、ぐっと〜」
「あぁ、わ、私そんなに飲めないから、やめて!!」
七魔将の面々が、私の言うことを聞かずに、次々とグラスにお酒を注いでいく。
慣れないおじさんたちのテンションに正直鬱陶しく思ってしまった。
グラスに注がれたお酒を飲み終わり、私は料理が置かれているテーブルに視線を向けた。
テーブルには、テリーヌ、ムニエル、ステーキ、ショコラなどが並んでいた。
どの料理もとても美味しかった。
そして参加者全員から成人祝いとして、お金をたくさん貰った。
パーティーがひと段落したところで、私は会場のすみっこで休憩していた。
「ふぅ〜」
私が休憩していると、七魔将の一人である「暴食」の魔剣使いグラが、若い男性を引き連れて私の前までやってきた。
「アリス様少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、大丈夫よ!何かしら?」
「ありがとうございます。実はアリス様に紹介したい者がおりまして!」
その言葉を聞いた瞬間に私は身構えた。
だいたいこういう時に紹介される相手は、結婚相手に違いない。
正直縁談は遠慮したいところだ。
「こちら私の息子のベクターです」
やっぱりね………そんなことだと思ったわ………
私の予想が的中した。
「初めまして七魔将グラの息子のベクターです。よろしくお願いします」
「お断りします」
「いや、まだ名前以外何も言ってませんが………」
ベクターという男が私の言葉を聞いて驚いている。
「どうせ縁談話なのでしょう?」
「えぇ、まぁおっしゃる通りなのですが………」
グラは冷や汗を流している。
「どうでしょう………うちの息子は………」
「ですからさっきも言ったでしょう。お断りします!」
「ああ………承知しました………ちなみに何がダメなのでしょうか?」
「いえ、ダメというわけじゃないわよ。今はお付き合いする気分でも、ましてや結婚する気はありません!」
「あぁ………なるほど!そう言うことでしたか………」
私の言葉を聞いて二人はキョトンと肩を落としてしまった。
「アリス様!このベクターあなたにふさわしい男になれるように精進いたします!」
「そう、楽しみにしてるわ!」
「失礼致します!」
会話が終わると二人は足早に去っていった。
そして、あっという間に時間が過ぎていって、参加者全員からプレゼントをもらう時間になった。
プレゼントは特殊な魔道具や綺麗な洋服などがあった。
最後に両親からプレゼントを貰った。
聖剣と魔剣だっだ。
お母様から聖剣ミステリオを貰って、お父様からは魔剣スペクルムを貰った。
「この魔剣は魔族の名工に作らせた一級品だ。大事にするが良い」
「私からもこの聖剣をあげるわね。これは人間の名工が作ってくれた剣よ。大切にしてね!」
虹色の刀身の聖剣と、透明なガラス細工のような刀身をしている魔剣だった。
どちらの剣もとても綺麗だった。
「うわっー綺麗!」
とても嬉しかった。
私は二人から二本の剣を手に取った。
「二人ともありがとう!大切にするね!」
そして笑顔で返事をした。
「うむ、よかった」
「ふふっ喜んでもらえてよかったわ!」
両親も最高の笑顔だった。
私はさっそく、二人から貰った二本の剣を空間魔法を使って、すぐに異次元空間に繋がっているアイテムボックスにしまった。
こうして私の十五歳の誕生日は幕を閉じた。
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