19、人魚姫 セレナ
私たちはハンスさんに連れられて、海底神殿の王の間へと続く廊下を歩いていた。
神殿は全て石を積み上げて出来ていた。
ハンスさんが私たちを魚人族の女王様に合わせてくれるという。
魚人族の女王様に会えるということで私はワクワクしていた。
それにしてもこの廊下ものすごく長いわね………
退屈ね………
こんな時はお話をするのが一番よね!
「あの、ハンスさんはなんであの岩場にいたんですか?」
「ああ、それは側近の兵士たちから王国に侵入者が来たという知らせを受けてね。それで様子を見に行っていたんだよ」
「そうだったんですね」
「ところで、アリスちゃんに聞きたいんだがアリシア様は元気かね?」
ア、アリスちゃん!?
私そんな呼ばれ方したの初めてなんですけど!………
じゃなかった!そんなことより今はお母様のことを秘密にしてもらわなくちゃ!
「え!?あ、それは………」
私は急いでハンスさんに駆け寄って小声で話す。
「あの、お母様のことはここでは話さないでもらえますか?」
「その様子だともしかして、他の仲間には自分の出自を伝えていないのかい?」
「はい、いろいろありまして………」
「そうなのか、わかった。アリスちゃんも大変なんだね」
「アハハハ………あと、そのアリスちゃんっ言うののやめてもらえますか?私その呼ばれ方には慣れていないので、普通にアリスって呼んでください」
「ああ、わかった」
私はハンスさんの言葉に苦笑いを浮かべてその場をやり過ごした。
こんなやり取りをしながら廊下を歩いていると、女王様が待っているという王の間の扉の前についた。
「すごい!すごい!おっきな扉だ〜」
「しーっローダさん静かにしてください!これから偉い方に会うのでいい子にしていてくださいね」
「………うん」
ローダちゃんが王の間の扉を見て、大喜びして両手を上げてはしゃいでいる。
そして、イーディスさんがそれを見てローダちゃんを注意していた。
私はそんな二人のやり取りを見て思わずクスッと笑ってしまった。
「メア、ハンスだ客人を連れてきたぞ。開けてくれ!」
「入りなさい」
ハンスさんが声をかけると、扉の向こうから女性の声が聞こえてきた。
扉を開けて中に入ると、青い魚の顔をして王冠を被った女王様が現れた。
王の間は女王様の他に、両端に十人ずつの兵士が綺麗に整列して立っていた。
「こちらが魚人族の女王で私の妻でもあるメアだ」
王の間に入ってすぐにハンスさんが女王様を紹介してくれた。
妻!………
しゃべる魚を好きになる物好きもいるのね………
私たちは女王様の前に行き頭を下げた。
「お会いできて光栄に存じます女王陛下!」
イーディスさんが代表して女王様に挨拶をした。
「全員頭を上げよ」
しばらくして、女王様から声をかけられて私たちは揃って頭を上げた。
「魚がしゃべった!!」
「アリスさん!女王様になんてことを言うんですか!!それにさっきも兵士に同じこと言ってましたよね?」
「あ!また言っちゃった………」
「どうやら、注意しなければいけないのはアリスさんの方だったようですね………」
そう言ってイーディスさんは大きなため息をこぼした。
そして、ふと女王様の方へ視線を移すと、私のことをギラっと睨みつけていた。
「ごめんなさい。女王様今のは口が滑ったと言いますか………アハハハ」
「まぁいいでしょう。ところで、今回はどのような要件なのですか?手短に答えなさい」
女王様は頬に手を当てながらそう言った。
「はい、では私から説明させていただきます」
女王様の問いかけにイーディスさんが答えて一通りの説明を始めた。
「なるほどな。つまり、そなたたちはこの海底神殿にいるという人間と魚人族の混血の者を保護しにきたというわけですね?」
「はい!女王陛下のおっしゃる通りでございます!」
「そう、それは間違いなくあの子のことね………それで、そなたたちを信用できるものは何かありますか?」
「こちらを!」
イーディスさんはギルドの冒険者登録証を女王様に差し出した。
「お〜それはアリシア様のギルドのものか!なるほど君たちはヘンリーのところの冒険者だったのか!」
イーディスさんが差し出した冒険者登録証を見てハンスさんが驚いていた。
「ヘンリーさんて誰だっけ?」
「私たちのギルドのギルドマスターの名前ですよ」
「ああ、そういえばあの人そんな名前だったわね………」
「なんで忘れてるんですか………」
女王様は私たちからハンスさんの方へと視線を移した。
「ハンスあなたの知っている人なのかしら?」
「ああ、昔私が所属していたギルドのギルドマスターだ。だからその子たちのことは信用していいと思うぞ」
「そう、いいでしょう!あの子が望むのであれば連れて行きなさい」
「ありがとうございます」
私たちは再び頭を下げた。
「すぐにセレナを呼んできなさい!」
「はっ!ただちにここへお連れいたします!」
女王様は一番近くにいた左側の先頭にいる兵士に命じた。
命じられた兵士は駆け足で王の間を出ていった。
「あの子が来るまで少し時間があるわね。他に何か聞きたいことはあるかしら?」
私は女王様の言葉を聞いて、今まで気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、兵士たちが言ってたんですけど「王国を滅ぼす者達」ってなんのことですか?」
「なんだそのことか。それは妾の占いだ。この王国は近い将来地上からやってきた者たちによって危機に陥るというものよ」
「近い将来っていつですか?」
「妾もそれがいつ起こるのかまではわからぬ。だが、同時に「王国を救う者たち」によって救われる未来も見えておるから心配はしていないのよ」
「そうなのね………」
しばしの時間が流れて、王の間の扉の向こうから兵士の声が聞こえてきた。
「女王様!姫様をお連れしました」
「入るがよい」
女王様が声をかけると扉が開いた。
そして、青い髪が特徴的な白いドレスを着た少女が王の間に入ってきた。
「セレナです。お呼びですか?お母様」
「ええ、そうよ。セレナあなたにお客さまがいらっしゃっているわ。ご挨拶なさい」
「はい、お母様」
そう言って、青髪のセレナという少女は私たちの方へと体を向けて姿勢を整えた。
「初めまして皆様。わたくしはセレナと申します」
セレナの挨拶が終わると女王様が話を続けた。
「彼女たちはあなたを保護しにきたのよ」
「わたくしを保護ですか?」
「あなたも混血の者が社会でどのような扱いを受けているかは知っていますよね?」
「はいお母様!そのことはお父様からよく聞かされています」
「そうよ。それで今回は地上から混血の者を保護している人たちが来てくれたの。あなたはどうしますか?」
「ぜひ、ご一緒させてください!」
セレナは目をキラキラさせながら女王様の問いかけに即答した。
「わかりました。あなたは昔から地上に行くことが夢だったものね!」
「はい、お母様!」
「妾は反対はしません。ハンスあなたはどうなのかしら?」
「セレナがそれを望むのであれば私は止めはしないよ。セレナ自分の思った通りにやりなさい」
「ありがとうございます!お母様!お父様!」
セレナは両親の言葉を聞いてニッコリと微笑んだ。
いいな………
私の時とは大違いね………
特に父親の反応が………
私はセレナと自分の時を比べて深いため息をこぼした。
「では、セレナさんは私たちの方で預からせていただきます」
イーディスさんがそう言うと、女王様とハンスさんは笑いながら首を縦に振って頷いていた。
これで一安心ね………
早くギルドに戻って報告しなきゃ!
ピ〜っ
と思った瞬間だった。
突然王の間全体に笛の音が響き渡った。
あれ?
この笛の音どこかで聞いたことがあるような………
「いいえ、そちらのお嬢さんは我々が貰い受けます」
そんなことを思っていると、王の間の中心に黒いローブをきた二人組の男が現れた。
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