18、グングニルの槍
私とローダちゃんの目の前には灰色のローブを着て黄金の槍を持った男が立っている。
「ローダちゃん下がってて!」
「………うん」
目の前の灰色のローブの男を見て、とっさにローダちゃんを後ろに隠す。
私はすぐに召喚魔法で聖剣ミステリオと魔剣スペクルムを取り出す。
「あなたが何者か知らないけど、戦うのなら私が相手をするわ!」
「ほう、二刀流か。珍しいな」
灰色のローブを着た男はそう言うと、手に持っている黄金の槍を構えた。
私は【勇者の慧眼】で灰色のローブの男を確認する。
すると、灰色のローブの男は普通の人間で、私がこれまで出会ってきた中でも相当多い魔力を持っていた。
それと同時に、男が持っている黄金の槍が最高クラスの武器であることがわかった。
「あなた、かなり魔力が多いのね。それと、その槍も相当高価なものよね?」
「ほう、一眼見ただけで私の魔力が多いことと、この槍が高価なものだと気付いたのか。いい目をしているねお嬢さん」
「ありがとうって言っておくわ!」
「お嬢さんたちはこの海底神殿に何しにきたのかな?」
「海底神殿にいる人間と魚人族の混血のお姫様を探しにきたのよ!」
「っ!ほう、………なるほど」
私が海底神殿にきた理由を話すと、灰色のローブを着た男の表情が険しいものへと変わった。
そして次の瞬間、手に持っている黄金の槍を強く握りしめてから矛先を私に向けて、ものすごい勢いで襲いかかってきた。
「おぉーっ」
「っ!」
私はすぐに二本の剣を交差させて槍の突きを防いだ。
くっ!
速いわね!見事な槍捌きだわ………
油断できないわね………
「ほう?このグングニルの槍の突きを防ぐのか………その二本の剣はかなりの業物のようだね」
「今度はこっちの番よ!この数を捌けるかしら!」
私は魔剣スペクルムを十本に分身させて灰色のローブの男に向けて放った。
「ふふっ、その剣は分身するのか?面白い攻撃だな!」
灰色のローブを着た男は笑いながら、素早い槍捌きで十本の魔剣スペクルムの分身を全て消し去った。
「効かないのね………」
「今のは魔剣か?」
「ええ、そうよ。だったらなに?」
「やはりそうなのか、ならば本気で戦わなければいけないようだな」
灰色のローブを着た男がそう言うと、黄金の槍が虹色に光だして全長が三メートルほどに伸びた。
「えっ槍が伸びた!?」
「グングニルの槍の本気をとくと味わうがいい!」
灰色のローブを着た男は、全長が伸びた黄金の槍を私に向けて振り下ろしてきた。
私はその攻撃を先ほどと同じように、聖剣ミステリオと鏡の魔剣スペクルムを交差させて応戦する。
二本の剣と槍が擦れあって火花が散る。
「くっ………う、うぅ………っ」
お、重いわね………
なんなのよこの槍は!………
これじゃぁまるで大剣じゃないのよ!
でも、負けられない!
私はローダちゃんを守らなくちゃいけないんだから!
「アリスお姉ちゃん負けないで!」
「大丈夫よローダちゃん………私はこの程度の攻撃に負けたりはしないわ!」
私は鏡の魔剣スペクルムの反射の能力を使って、グングニルの槍を跳ね返した。
そして、それと同時に聖剣ミステリオで斬撃を放った。
「はぁっ」
「なっ!私の槍が跳ね返された!?なんという魔力量なんだ………くっ!それにこの斬撃は!」
灰色のローブを着た男は、私がグングニルの槍を跳ね返したことに驚きつつも、すぐさま聖剣ミステリオの斬撃をグングニルの槍を高速で回転させながら、いとも簡単に相殺した。
「えっ、うそ聖剣ミステリオの斬撃を防がれた!どういうこと?」
あらゆる事象を無効化する斬撃なのよ!
灰色のローブを着た男の持っている槍は確かに高クラスの武器だ。
けれど、聖剣の斬撃を相殺したということは、聖剣と同等の武器であるということだ。
でも、私の知る限りそんな武器は聞いたことがなかった。
「お嬢さん、その虹色の刀身の剣はもしや聖剣かな?」
「えっ?」
私が考え事をしていると、灰色のローブをきた男が槍の先を地面に向けて話しかけてきた。
その様子を見るに、彼から戦意は感じられなかった。
私は深呼吸をしてから灰色のローブを着た男の問いかけに答えた。
「ええ、そうよ。よくわかったわね」
「やはりそうか。では、【勇者の加護】を持っているということで間違いないかな?」
「っ!………」
もしかして、この男は聖剣を使うのに【勇者の加護】が必要なことをを知っている!?
私は直接お母様から聞いたのに、【勇者の加護】を持っていない人間がなぜそのことを知っているのかしら………
「どうして聖剣と【勇者の加護】の関係を知っているの?」
「それは、私の知人に同じスキルを持っている人がいるのでね」
【勇者の加護】を持っている人なんて私の知る限り一人しか思い浮かばないわ………
それってもしかして………
「だが、不思議だな君のもう一本の透明な剣は魔剣だろう?魔剣は魔族しか使えないはずだ。君はいったい………」
「そ、それは………」
この流れはまずいわね………
なんとか話の流れを変えないと!
私は話の流れを変えるために今一番気になっていることを聞いてみることにした。
「あなたは勇者アリシアを知っているかしら?」
「ああ、知っているとも」
やっぱりそうだったのね………
「君はもしかしてアリシア様の関係者なのかい?」
「私は勇者アリシアの娘。アリスよ!」
「っ!アリシア様の娘!?」
私が素性を明かした瞬間に、男は被っていた灰色のローブのフードをとった。
すると、青色の瞳と髪が特徴的な顔があらわになった。
「私の名はハンス。元、勇者パーティーのメンバーだったものだ」
「元勇者パーティーのメンバー!!」
「ああ、そうだ。そうか君はアリシア様の娘さんか!だから聖剣を使うことができるんだね」
「ええ、まぁ………」
知人というのはお母様のことだったのね………
だから聖剣と【勇者の加護】の関係を知っていたのね………
ん?ということは………
「もしかして、私たちが探しにきた人間と魚人族の混血のお姫様って………」
「おそらく私の娘のことだろう」
なるほどね。だんだん話が見えてきたわ!
「多分そうです」
「そうか。では、娘のところに案内しよう。着いてきたまえ」
「ありがとうございます。あの、私たちの他にもう一人仲間がいるのですが、その人も一緒にいいですか?」
「ああ、もちろんだよ。ところで、さっき聞きそびれたんだが、君はなぜ魔剣も使えるんだい?」
「その事は後で話します………」
「何か深い事情があるのだね?」
「………はい」
「そうか。まぁ、その事は気にはなるが、また話したくなったら聞かせてくれ」
「そう言ってもらえて嬉しいです………」
私がそう言うとハンスさんは黙って頷いてくれた。
♦︎
私たちはハンスさんと一緒にイーディスさんのところに向かうことにした。
イーディスさんのところに着くと、再び大勢の兵士たちに囲まれていた。
その様子を見るに、まだ疑われているらしい。
「アリスさん、ローダさん、おかえりなさい。おや、そちらの方は?」
「私のお母さんの知り合いのハンスさんです。これから海底神殿を案内してもらうことになりました」
「え!ああ、そうですか。しかし、どうして突然?」
「いろいろありまして〜」
私は笑顔でそう答えた。
「そうですか………わかりました」
「皆のもの武器を納めて下がっていいぞ!この者たちは怪しい者たちではない。全員私の客人たちだ。門を開けてくれ!」
ハンスさんがそう言うと、兵士の全員が一斉に姿勢を正した。
そして、兵士の一人がハンスさんに話しかけてきた。
「なんと!ハンス陛下のご客人でございましたか!これは大変失礼いたしました!」
そう言って、この場にいた兵士の全員がハンスさんに頭を下げた。
そして、その後すぐに海底神殿の門が開いた。
イーディスさんは困惑しているようだったが、無事に海底神殿に入れると知って胸に手を当てて一息ついていた。
「ようこそ海底神殿へ」
こうして、私たちはハンスさんの案内で海底神殿の中へと入っていった。
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