17、魚人族の王国
私たちはゆっくりとシャボンに包まれた街に降りていった。
街の至る所に光る石が散りばめられていた。
魚人族の暮らす家は岩をけづり出して作られているようだった。
「うわっ〜ここが海底神殿なのね!」
「正確には海底神殿がある魚人族の王国ですけどね………」
うっ!するどいわね………
「えへへ、そうね〜も、もちろんわかっていたわよ?」
「それはどうですかね〜」
なによ!
まだイーディスさんと出会ってから一日ぐらいしかたってないけれど、もうすでに私たちの立ち位置が固定され始めている気がするわ………
私がボケでイーディスさんがツッコミみたいな?
あと、リーダーシップも取られているみたいでなんか悔しいわ………
でも、ローダちゃんのお姉ちゃんとしての立場は譲らないんだから!
私が苦笑いを浮かべると、イーディスさんがニヤニヤしながら口元を抑えていた。
そのあとすぐにローダちゃんの方へ視線を移した。
「すごい!すごい!きれい〜」
ローダちゃんは目をキラキラさせながら、あちこちを指差したり飛び跳ねたりしてはしゃいでいた。
出会った時と違って、楽しそうしていてくれているようで嬉しく感じた。
「アリスさん、ローダさん、街を眺めるのはこのくらいにして、そろそろ目的の海底神殿に行きますよ」
「おー」
私たちは三人揃って街を眺めながら中心にある海底神殿に向かって歩き始めた。
「ねぇーねぇーアリスお姉ちゃん、イーディスお姉ちゃん、さっき話してた女の人のこともっと教えてよ〜」
「ええ、いいですよ。その女性は人間と魚人族の混血で、しかもお姫様なんです」
「お姫様なの!?すごーい〜どんな人かな〜」
イーディスさんが人差し指を立てながらローダちゃんに説明をしている。
ローダちゃんは、イーディスさんの返答を聞いて、再び目をキラキラさせながら両手をバタバタと振って喜んでいる。
「人間と魚人族の混血で、しかもお姫様ってことは、略して「人魚姫」ね!」
私は二人の横で顎に手を当てながら言った。
「………まぁ、短くまとめるならそうでしょうが、なんというか………その、安直すぎますね………」
「そうかしら?」
私たちは三人揃ってクスクスと笑った。
その後も三人でおしゃべりをしていたら、あっという間に海底神殿の門の前に着いてしまった。
門の前には魚の顔をして槍を持った兵士が二人立っていた。
「見ない顔だな?何者だ貴様ら!」
「どこからきた!」
私たちが門の前に着くと、兵士たちがいきなり大声で話しかけてきた。
私はすぐに門の前にいる兵士に用件を伝えた。
「私たちは冒険者よ。今回は神殿にいる姫様を探しにきたの。だからこの先を通してもらうわね」
「え!アリスさん!?ちょっとその言い方は………」
「なによ?私たちが用があるのはお姫様なんだから間違ってないでしょう?」
「ええ、その通りなのですが………アリスさんもっと言い方を考えて!」
イーディスさんは目を丸くしながらアタフタしている。
私何かマズイこと言ったかしら?………
間違ったことは言ってないはずだけど………
イーディスさんはなんでこんなに慌てているのかしら………
私の頭の上に疑問符が浮かぶ。
そんなことを考えていると、兵士たちが私たちに槍を向けてきた。
「まさか貴様ら姫様をさらいにきたのか!」
「もしや女王様が仰っていた「王国を滅ぼすものたち」とは貴様らのことだな?」
え!待って、女王様が仰っていた王国を滅ぼすものたちってどういうこと?………
この兵士たちはいったいなにを言っているのかしら?………
まったく話が見えてこないわね………
「ちょっと待ってください「王国を滅ぼすものたち」っていったいなんのことですか?」
どうやらイーディスさんも私と同じことを思っていたようだった。
ピ〜
イーディスさんが問いかけようとしたところで一人の兵士が笛を吹いた。
すると、どこからか大勢の兵士が現れて私たちの周りを取り囲んだ。
「怪しい奴らめ!全員捕まえろー!」
女性二人と子供一人を大勢の兵士が取り囲むのね………
呆れた………
それにしても………
「魚がしゃべった!」
「今更ですか!じゃなくて!アリスさん今はそんなことを言っている場合じゃありませんよ!この状況をなんとかしないと!」
そう言って、イーディスさんが一歩前に出て話し始めた。
「私たちは人を探しにきただけですよ。ここに人間と魚人族の混血の女性がいるはずなんですが………」
「侵略者に耳を貸すな!全員でいっせいにかかれ!」
兵士たちはイーディスさんの言葉を聞き入れようとはしなかった。
そして、一人の掛け声で、全員の兵士が私たちに槍を向けてきた。
「う………うぇぇぇぇぇぇ〜ん」
私たちに槍先が向けられてローダちゃんが泣き出した。
それと同時に突然ローダちゃんの姿が消えた。
「うおっ!」
そして、ローダちゃんが消えた直後に兵士の一人が突き飛ばされた。
「え!ローダちゃんが消えた!」
私はすぐに【勇者の慧眼】を発動した。
すると、ローダちゃんが遠くへ走り去って行くのが見えた。
あれは透明化のスキルかしら?
今の様子だとローダちゃんは無意識にスキルを発動したようね………
「イーディスさん。ここをお願いします!私はローダちゃんを連れてきます」
「え!ちょっと待ってくださいアリスさん!さすがにこの人数を相手にするのは私でも厳しいです」
「ああ、なるほど!それなら〜」
「バカめこの人数を簡単に突破できるわけがないだろう?」
「それはどうかしらね!」
私は【魔王覇気】を使って周りを取り囲んでいる兵士たちを一斉に気絶させて無力化した。
「イーディスさん後はお願いします」
「え、ええ………わかりました。アリスさん今のは?」
「それは後で話します」
私はイーディスさんにそう言い残してローダちゃんの後を追った。
ローダちゃんは神殿から少し離れた大きな岩がたくさんある場所にいた。
私はローダちゃんが隠れている岩の影に回り込んで話しかけた。
「ローダちゃんもう大丈夫よ。槍を持った兵士たちは私が全員倒したから」
「………本当?」
「ええ、だから私と一緒にイーディスさんのところへ戻りましょう?」
「………うん」
ローダちゃんは頷いて立ち上がった。
私がローダちゃんを連れてイーディスさんのいるところへ戻ることにした。
その途中で何者かの気配を感じて立ち止まった。
ローダちゃんがさっきまでいた岩とは別の岩だ。
「ローダちゃんちょっと待って」
「アリスお姉ちゃんどうしたの?」
ローダちゃんは心配そうに私の手を握りながら見つめてくる。
「そこの岩に隠れているやつ出てきなさい!バレているわよ?」
「………驚いたな。気配を気づかれにくくするスキルを使っていたんだが、まさか気づかれていたとは………」
そう言って、岩の影から灰色のローブを着て黄金の槍を持った男が現れた。
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