15、奴隷の少女 ローダ
少女の悲鳴の聞こえた方向に向かうと、そこには大勢の人だかりができていた。
「すごい人だかりですね………アリスさん、あなたの透視スキルを使って状況を確認できませんか?」
「ええ、任せて!」
私は【勇者の慧眼】で人だかりの向こうを確認する。
すると、もじゃもじゃ髭の男と鎖に繋がれた紫色のネコミミを持つ少女がいた。
「いいから言うことを聞けって言ってんだろっ!クソガキがっ!」
「イヤだ!離して!!」
もじゃもじゃ髭の男が鎖で繋がれたネコミミの少女を無理やり引っ張って馬車に乗せようとしているところだった。
「っ!酷い………」
「何かわかりましたか?」
「男が鎖で繋がれたネコミミの女の子を無理やり馬車に乗せようとしているわね………」
「はっ!………」
私が状況を伝えると、イーディスさんは何かを思い出したかのように、目を見開いて驚いているようだった。
そしてすぐに目を細め、唇を噛み締めながら拳を強く握りしめていた。
「イーディスさん?」
「アリスさん。ここでは話ずらいので場所を変えてもよろしいですか?」
「誰かに聞かれたらまずいですか?」
「はい………」
「あ!それだったら」
私はとっさに【思念伝達】のスキルを発動した。
(これなら話せますよね?)
(これは!テレパシーですか………ええ、もちろん)
それからイーディスさんがいろいろ話してくれた。
少女の手を引っ張っている男はおそらく奴隷商人であること。
馬車に乗せられようとしている少女はその男が所有する奴隷であること。
そして、少女の特徴から推測すると、おそらく混血の可能性が高いことだった。
これらの話が終わった後、私の頭の中に怒りの感情が湧き上がってきた。
この状況を目の当たりにしているにもかかわらず、何一つ行動を起こそうとしない周りの大人たち。
まるで目の前の光景が当然であるかのように。
奴隷か………
これがギルドマスターの言っていた最悪のケースなのね………
だったら早く助けなくちゃ!
そう思って、私は止めに入ろうと剣を握って人だかりの中に飛び込もうとする。
「ふっ!」
「待ってください!」
けれど、私の行動はイーディスさんに目の前を手で防がれて阻まれた。
目の前を阻まれた瞬間、イーディスさんに対して自然と怒りが込み上げてきた。
その行動が理解できなかった。
「イーディス!どうして止めるの!?あの女の子は嫌がっているじゃない!助けないと!」
「アリス落ち着いてください。あの髭の男は奴隷商人です。そして鎖で繋がれている少女はその奴隷です!」
「わかっているわ!それが何だっていうのよ!そこをどいて!」
「奴隷は奴隷商人の所有物なんです。勝手に手出しをするわけにはいきません!」
「人を鎖で繋ぐなんて絶対に間違ってるわ!あれじゃぁまるで物扱いじゃない!」
「もの扱いじゃなくて「もの」なんです!」
イーディスさんは声を荒げてそう言い切った。
「へ?………」
私にはイーディスさんの断言したような物言いに頭がついていかなかった。
嫌がっている少女を助けることがどうしていけないのだろうか?
どう見たってあの男がやっていることは酷すぎる。
「そこをどいて!」
私が声を荒げて必死に叫ぶと、イーディスさんも声を荒げながら言ってきた。
「一度奴隷になった人は、一生その商人の所有物になるんです。それを勝手に奪ったら、今度は私たちがお尋ね者になります!」
「そんなの知らないわ!」
「私たちだけではなく、ギルドにも迷惑がかかるんです!!」
私はイーディスの言葉を聞いて動きがピタリと止まった。
そんな………それじゃあいったいどうすれば………
ピ〜〜〜ッ
私がそんなことを考えていると、突然どこからともなく笛の音色が聞こえてきた。
そして、笛の音が聞こえたのと同時に少女の足についていた鎖が跡形も無く砕け散った。
「あの子の鎖が砕けた!?」
「これはいったい!?………」
私とイーディスさんは二人揃って驚いていた。
何が起こったかよくわからないけど一瞬の隙ができた!
今だ!
私はそう思って、思いっきり地面を踏み込んで飛び出していき、ネコミミの少女を連れてこの場を勢いよく走り去った。
「イヤー!!」
私が走るのと同時に少女の悲鳴が町中を駆け巡った。
♦︎
アリスたちが去った後、黒いローブを着た二人組が話していた。
「なんでさっきあの子を助けたんだ?」
「タダの気まぐれですよ」
「そうなのか。それにしてもさっきの金髪の女気づいたか?」
「ええ、もちろん。この前保留にしたアリスという冒険者ですね。クックックッ」
「まさかこんなところで会うなんてな。どうするんだ?」
「もちろん、できることなら今回のターゲットと一緒に確保しますよ」
「了解」
そう言って、黒いローブを着た二人は足早にどこかへ去っていった。
♦︎
私とイーディスさんはネコミミの少女を連れて港町の外れにやってきた。
「あなた名前は?」
「………ローダ」
少女は私の問いかけに小さく呟くように答えた。
「そう、ローダちゃんね。私はアリスよ。そしてこっちのお姉さんがイーディスさんよ」
「私はイーディスです。ローダさんよろしくね」
「うん………」
ローダという少女は小さな声で頷いた。
「ローダちゃんあなたの両親がどこにいるかわかる?」
「わかんない………」
「そっか………イーディスさんどうしましょうか?」
「ひとまずは、私たちが海底神殿から戻ってくる間近くの冒険者ギルドに保護してもらいましょうか」
「そうですね!」
「嫌だ!」
私たちの提案をローダちゃんはキッパリと断った。
「お姉ちゃんたち私を見捨てるの?」
「ち、違うわよ?」
「そんなつもりは………」
「私も連れてってお願い!私をひとりにしないで!」
ローダちゃんの言葉を聞いて私とイーディスさんは顔を見合わせた。
「そうだわ!それがいいわね!」
「え!?アリスさん、それは………」
「お願いします!私も一緒に連れてってください!」
イーディスさんは大きなため息をついて肩をガックリと落とした。
「はぁ〜わかりました。ローダさん、私たちと一緒に海底神殿まで行きましょう」
「やったっ!」
私とローダちゃんは二人揃ってハイタッチをして喜んだ。
「改めてよろしくねローダちゃん!!」
「うん!」
「はぁ〜護衛対象が二人に………なかなか予定通りにいかないものですね。二人ともそろそろ海底神殿に行きますよ」
私たち三人は海底神殿へ行くために港へ向かった。
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