14、ヴァダー港
翌日。
私はベッドの上でくるまって考え事をしていた。
昨日のターリアさんの言葉が頭から離れなかった。
まさか魔王軍が人間の国を占領していたなんて………
混血の人たちの迫害が始まった原因はほとんどお父様にあるんじゃ………
もしそうだとしたら私はいったいどうしたらいいの?
どうすれば今のこの差別を無くすことができるの?
あぁ〜ぜんぜんわかんない………
「アリスさん起きてますか?」
そんなことを考えていると、入り口のドアがノックされて声をかけられた。
その声はイーディスさんだった。
「え!あっはい!起きてます!」
「よかった。入りますよ」
そう言ってイーディスさんはドアを開けて部屋の中に入ってきた。
「アリスさんに渡したいものがあります」
「私に渡したいもの………ですか?」
「これです」
イーディスさんが差し出してきたのはダイヤの形をしたピアスだった。
「これはイーディスさんが付けているのと同じ………どうしてこれを?」
「このピアスは人間と魔族の混血の人が、普通の人間になり澄ますことができる魔道具です。アリスさんは一見すると普通の人間と変わりませんが、念のためにお守りとして身につけておいてください」
「そうなんですね………わかりました。ありがとうございます」
「それから、海底神殿へは一時間後に出発しますから準備してください。時間厳守でお願いしますよ」
「わかりました!」
イーディスさんはそう言って、私の部屋を出て行き階段を降りていった。
「さてと、いつまで悩んでいても仕方ないし、切り替えて準備を始めなくちゃね!」
いつまでも悩んではいられない。
気持ちを切り替えよう。
今日はいよいよ待ちに待った海底神殿へ行く日だ。
私はベッドから立ち上がって、部屋の片隅にある鏡の前に座り身だしなみを整える。
髪を結び終わり、最後の仕上げに昨日の歓迎会でドロテアさんから貰った指輪をはめる。
これで私もいつでもみんなが集まっているあの場所に行くことができる。
みんなとお揃いのものを身につけると「仲間」って感じがしてとても心地が良い。
身だしなみを整えて、部屋の壁にかけてある時計を見ると、イーディスさんの指定した時刻が近づいていた。
「そろそろ時間ね!」
私は勢いよく立ち上がり、自室を後にしてギルドの表に向かった。
ギルドの外へ出るとイーディスさんが胸の前で腕を組みながら待っていた。
「時間通りですねアリスさん。さぁ行きますよ」
「はい!ところで海底神殿にはどうやって行くんですか?」
「それにはこの転移結晶を使います」
イーディスさんは召喚魔法で転移結晶を取り出した。
「まずこの転移結晶で隣町のヴァダー港と言う港に行きます。そして現地の商人から特殊な魔道具を買い、それを使って海のそこにある海底神殿へ行きます」
「そうなのね!今から楽しみね!」
「では行きますよ。アリスさん手を貸してください」
「ええ!」
♦︎
私たちは転移結晶を使って隣町のヴァダー港にやってきた。
目の前には果物が売られているお店や、アクセサリーが並んでいるお店などその他にもたくさんのお店があった。
「この街の港から海底神殿へ行きます。ではさっそく行きま………………ん?」
「うわっーすごーいお店がいっぱいよ〜」
「………」
「見て見て〜あのお店果物がたくさん並んでいるわよ!」
「アリスさん話を聞いてください!………はぁ、まったく聞いていませんね………これではまるで子供のようですね………」
「ねぇ、少しぐらい寄って行っても良いかしら?」
「この後、魔道具屋の商人から海底神殿へ行くための魔道具を買わなければいけないのですが………はぁ少しだけですよ」
「ふふっやった!」
イーディスさんは大きくため息をついた。
こうして私たちは少しの間お店をまわることにした。
私はクッキーやリンゴにハチミツがかかったものなど、その他にも気になった食べ物を片っ端から買いあさった。
気がつくと私の両手には大きな袋が握られていた。
「んんっ〜どれもすっごくおいし〜」
「ちょっとアリスさん!あなたいったいどれだけ食べるつもりですか!」
「もちろんこれ全部よ〜」
「はぁ〜魔道具を買うためのお金と私が緻密に組んだ時間割と段取りが全て水の泡に………」
イーディスさんはガックリと肩を落とした。
「イーディスさんも食べますか?」
「いりません!」
そして、口をへの字にしてキッパリと断った。
「イーディスさんなんで怒っているんですか?」
「誰のせいだと思っているのですか!!」
イーディスさんは顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
「え!あ………私ですか?」
「他に誰がいるんですか!」
「アハハハ………すみません………」
「はぁ〜こんなにたくさん買って本当に一人で全部食べ切れるんですか?」
「えへへ、正直厳しいです………手伝ってくれると嬉しいな〜って」
「はぁ〜半分私にください………」
イーディスさんはそう言って私の左手に握られた袋を手に取った。
そして、コホンっと咳払いをしてから私に話しかけてきた。
「改めて聞きますが、アリスさんどうしてこんなにたくさん食べ物を買ったのですか?」
「えっ!それはもちろん私が食べたかったからですよ?」
「本当にそれだけですか?他にも何かあるんじゃないですか?」
「っ!………」
「何か悩んでいることがあるんじゃないですか?」
「え〜別に何にもないですよ〜?」
私は苦笑いを浮かべる。
「本当に何もない人はそんな顔をしたりはしませんよ。私でよければ話を聞きますよ。「仲間」なんですから」
私はイーディスさんの言葉を聞いて、クッキーを口に運ぼうとしていた手がピタリと止まった。
動揺してしまった。
私の内面をピタリと言い当てられたからだ。
「仲間………」
「アリスさん、もう一度言います。何か悩んでいることがあるなら正直に話してください」
イーディスさんはそう言って、正面にやってきて目線を私に合わせてくれた。
うまく気持ちを切り替えたつもりだったんだけどな………
きっと顔や態度に出ていたのね………
はぁ〜建前にはけっこう自信があったんだけどな………
「実は………」
私はそれから自分が魔王の娘であることは伏せつつ、今悩んでいることをイーディスさんに正直に話した。
「なるほど、今の差別をどうしたらなくせるかですか………」
「はい………」
「私もそのことについてはすぐに答えは出ませんが、これだけは一つ言えます。これから一人でも多くの混血の人たちを助けることが、この先の平和な未来へと近づく一歩なのではないでしょうか?」
「そうですよね………ありがとうございます!」
私はイーディスさんの言葉に元気よく返事を返した。
「ちなみにどうして私が悩み事をしているとわかったんですか?」
「今日のアリスさんが妙にテンションが高いことですね。最初は楽しみにしていた海底神殿へ行けることだけだと思っていたのですが、食べ物を大量に買い込んでいるのを見てピンっときただけです」
「アハハ………そうなんですね」
「それからアリスさんに一つアドバイスをします」
「アドバイス………ですか?」
「自分はうまく隠せていると思っているかもしれませんが、そう言うことは案外自分以外の周りの人は気がついているものですよ」
やっぱり態度に出ていたのね………
なんか恥ずかしい………
でも、周りに自分を見てくれている人がいるってなんか安心するわね………
一人じゃないと感じるわ………
「イーディスさん、今度また悩むことがあったらその時は遠慮なく相談しますね!」
「ええ、もちろん。いつでもどうぞ」
私たちは二人揃って笑った。
「では、そろそろ海底神殿へ行きましょうか」
「ええ!楽しみねワクワクするわ〜」
私たちはヴァダー港に向かって歩き出した。
「ぎゃっー誰か、誰か助けてーっ」
私たちが歩き出すのとほぼ同時に遠くの方から少女の悲鳴が聞こえてきた。
「え!?なに!」
「行ってみましょう!!」
「わかったわ!」
私たちは少女の悲鳴が聞こえた方角へ向かって走り出した。
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