12、アリス VS イーディス
私とイーディスさんはギルドの表にやってきた。
私たちは向かい合って、お互いに召喚魔法で剣を取り出した。
イーディスさんは二本の剣を両手に構えた。
時計の針のような外見をしている剣だ。
右手の剣は赤色で左手の剣は青色だ。
私はそれを見て、聖剣ミステリオと魔剣スペクルムを構えた。
「あなたも二刀流なのですね」
「ええ、そうです」
私が剣を構えると、イーディスさんはそう一言呟いた。
「アリスさん、あなたの噂はギルドマスターや他の冒険者たちからよく耳にしていますよ。初めてのクエストの猫探しを一瞬で終わらせたとか、魔王軍幹部を指一本も触れずに撃退したとか、伝説のドラゴンジャバウォックを自身は無傷で一撃で倒したとか、他にもいろいろとですね………」
え!何それ!経歴の大筋はあってるけど、だいぶ尾ひれがついてるなぁ〜
噂が飛躍しすぎなんですけど!!
「あ、あの、イーディスさん………その噂はだいぶ事実と異なる部分がありまして………」
「ご謙遜ですね。そういう態度が一番ムカつくんですが………」
イーディスさんはそう言いながらにっこりと微笑んだ。
やりづらいわね………
「私たちはこれから二人でパーティーを組んで行動をします。ですが、相手が特級冒険者とはいえ実力がわからなければパーティーとしてはやっていけませんから」
「それで決闘をするんですね」
「そう言うことです」
イーディスさんはそう言うと、剣を強く握り直した。
「いつでもどうぞ。どこからでもかかってきなさい」
イーディスさんはそう言って、私に剣先を向けて誘ってくる。
「では、行きます!」
私はそう宣言して【勇者の慧眼】を発動した。
すると、イーディスさんの持っている二本の剣は両方とも魔剣であることが分かった。
けれど、その能力まではわからない。
魔剣の能力は、私が直接または間接的に魔剣に触れる必要がある。
オルガの時は自分から説明してくれたのと、鏡の魔剣スぺクルムで火球を跳ね返した時に確認したからだ。
そして、魔剣に気づくのと同時に私はイーディスさんに対して一つ違和感を感じた。
まぁ、それは決闘が終わった後で聞くことにしよう。
私は鏡の魔剣スペクルムの分身を五本作り出して、イーディスさんに向けて放つ。
「はぁっ!」
だが、その攻撃は一瞬にして防がれた。
五本に分身した鏡の魔剣スペクルムがイーディスさんの目の前で静止して、まるで割れた窓ガラスのように一瞬にして一斉に砕け散った。
「面白いわね!久々にワクワクしてきたわ〜」
「自分の攻撃を防がれて何故ワクワクするのかわかりませんが、私以外ならこうは行かなかったでしょうね」
そう言ってイーディスさんはドヤ顔を決めた。
なんだか舐められているように感じてしまった。
悔しい!
「イーディスさん、あなたの持っている剣は魔剣ですね?」
「今のを見ただけでこの剣が魔剣だと分かったのですね。アリスさんあなたは良い眼を持っています。私の魔剣は「時間」の名を冠する双剣の魔剣クロノスです。右手の赤い剣が未来を断ち切る剣、左手の青い剣が過去を断ち切る剣です」
「時間を操る双剣の魔剣ですか………」
こんな能力を持つ魔剣が存在するとは思はなかった。
魔王軍幹部の七魔将でさえも、これほどまでに強力な能力を持つ魔剣は持っていなかった。
改めて世界にはまだ私の知らない魔剣が存在することがわかった。
「では、次は私から行きますね」
イーディスさんはそう言うと、左手の青い剣を振り下ろして斬撃を飛ばしてきた。
「ふっ」
「はぁっ!」
私はその斬撃を聖剣ミステリオで切り返して斬撃を相殺した。
「っ!この斬撃が防がれた!?」
イーディスさんは私が斬撃を相殺したのを見て驚いていた。
そして剣先を地面に向けて話しかけてきた。
「まさか、さっきの斬撃が防がれるとは思っていませんでしたよ。普通ならさっきの攻撃で決着だったのですが、いったいどんな手を使ったんですか?」
「アハハ、秘密です………」
実を言うと、さっきの斬撃は【勇者の慧眼】で見切っていたから対処できた。
あの斬撃は青い剣から放たれたものだった。
過去を断ち切る斬撃だったので、あらゆる事象を断ち切る聖剣ミステリオで切り返したというわけだ。
もしあれを相殺できなければいったいどうなっていたのだろうか。
「さっきのは過去を切る剣の斬撃ですよね?」
「そこまで見えていたのですね。あの斬撃は過去の存在を切るので普通は防ぐことはできませんよ?」
「そうなんですね………アハハハ」
危なかった!
やっぱりね!
念のために聖剣ミステリオで受けておいてよかったわ!
私がそんなことを考えていると、イーディスさんの表情が険しくなった。
「このままでは負けてしまいそうなので、本気で行かせてもらいますね」
「まだ本気じゃなかったんですね………」
嫌な予感がするわね………
「ええ、これから特別に魔剣クロノスの奥の手を見せてあげます」
「それは………遠慮したいですね………」
イーディスさんはそう言うと、二本の魔剣を胸の前で交差させた。
そして剣を交差させたまま地面に突き刺した。
「ロック!」
すると、地面に魔法陣のような時計の模様が現れて、その中心にいたイーディスさんが目の前から消えて私は身動きが一切できなくなった。
えっ!何これ!どうゆうこと?
私が困惑していると、突然四方八方を無数の斬撃に囲まれた。
「ふふっ甘いわね!」
私はそれを見てとっさに【破壊の魔眼】を開眼して全ての斬撃を無効化した。
斬撃を無効化すると、姿を消していたイーディスさんがさっきまでいた場所に戻っていた。
「まさか私の最強の技である時間停止が防がれるとは!アリスさんあなたはいったい何者ですか?」
「何者って私は普通の冒険者ですよ?まぁ、今の攻撃は私じゃなかったら防げませんでしたけど〜」
「………」
私はそう言ってさっきのお返しに思いっきりドヤ顔を決めた。
イーディスさんは本気の攻撃を防がれて固まっていた。
まったく返答が返ってこなかった。
さっきのは時間停止の技だったのね………
だからあの時は身動きが一切取れなかったのね………
危なかったわ………
【破壊の魔眼】に救われたわね。
こればかりはお父様に感謝しなくちゃいけないわね。
さてと、そろそろ決着をつけますか!
私はイーディスさんが固まっている隙を突いて魔剣スペクルムの剣先を首元に突き立てた。
「っ!………」
私が首元に剣先を突き立てるとイーディスさんは我に帰ったようだった。
「参りました。アリスさん、あなたは本当に強いですね。さすが勇者様と並ぶ特級冒険者まで成り上がっただけのことはありますね」
「ありがとうございます。イーディスさんも強いですね。私も久しぶりに戦っていてワクワクしました」
私とイーディスさんはお互いに握手をして決闘を終えた。
しばらくして、イーディスさんが姿勢を正して口を開いた。
「アリスさん。あなたには言っておかなければならないことがあります」
「なんですか?」
イーディスさんはそう言ってダイヤの形をしたピアスに触れた。
そして、被っていたベージュ色のバケットハットをとる。
すると、イーディスさんの頭の上にウサギの耳とシカの角が現れた。
「私もアリスさんと同じ人間と魔族の混血なんです………」
ご覧いただきありがとうございます!
次回更新までまたしばらくお待ちください。




