10、混血
この話で1章完結です!
ジャバウォックを倒してから一週間が過ぎた。
私は今、ギルドの入り口でサイン会を開いていた。
ジャバウォックの討伐や魔王軍幹部を撃退した功績が知れ渡り、街の人たちに英雄として慕われるようになった。
今は子供達にサインを書いているところだ。
「はーい、次の子どうぞ〜」
「やったー」
子供たちの高らかな声が響いている。
とても心地よい声だ。
子供たちの中には列に割り込んでくる子もいた。
「はい、はい、はいはーい!!」
「順番は守ってね。ちゃんとみんなの分も書くからね」
そして、一時間ほどで全員分のサインを書き終わった。
「さて、そろそろ時間ね」
今日はギルドマスターから応接室に呼び出されていた。
「いったいなんの話だろう………」
応接室に着くと誰もいなかった。
ギルドマスターは直前で急用が入ったようで、それが終わってから来るようだ。
待っている間に、クレアさんから紅茶が入ったティーカップが出された。
私とギルドマスター二人分だ。
紅茶を飲みながら応接室を見渡すと、勇者アリシアの肖像画が展示してあった。
「どうしてお母様の肖像画がこんなところにあるんだろう………」
しばらくして、ギルドマスターが応接室にやって来た。
「お待たせしてすまないね。アリス君、今日は君に聞きたいことがあるんだ」
「なんですか?」
私が質問するとギルドマスターは腕を組んで前のめりの姿勢になった。
「うむ、単刀直入に言おう。アリスくん。君は勇者と魔王の子供だね?」
「っ!………」
あまりにも突然の問いかけに私は動揺を隠せなかった。
私の様子を見てギルドマスターは目を細めてから小さな声で呟いた。
「否定は………しないのだね」
その口調はとても穏やかで確信に満ちているようだった。
「はい………その通りです。どうして分かったんですか?」
「そうか………君がアリシア様の言っていた………」
私が聞き返すと、ギルドマスターは何かを思い出すかのように再び小声で呟いた。
そしてギルドマスターは顎に手を当てて考え込んでいる。
「あの………アリシア様が言っていたってどういうことですか!?」
「あぁ、アリシア様は当ギルド所属の冒険者だったんだ」
「えーっ!!」
私は思わずソファーから立ち上がり、大声で叫んでしまった。
「まぁ落ち着きたまえ、順番に話すよ」
「はい、すみません」
私はソファーに座り直した。
「君を勇者と魔王の子供だと推測できる事はいくつかあったが、私が確信に至ったのはこれだよ」
そう言いながら、ギルドマスターは私の冒険者登録証を差し出してきた。
そして、私の名前の欄を指でなぞりながら説明していく。
「ハイトというのは勇者である、アリシア・ハイト様。ルークというのは魔王デスト・ルークのことで間違いないかね?」
「はい、そうです。………あの、他に推測できる事ってなんですか?」
「ああ、それは、君がオルガ君と決闘した時と、ジャバウォックと戦っていたことだよ。あの時使っていた剣は聖剣と魔剣だろう?聖剣は【勇者の加護】を持っている者しか使えないし、魔剣は魔族の血を引く者しか使えない」
「はい、その通りです」
「アリス君のさっきの問いに答えよう。私はアリシア様から君の存在を十五年前に聞かされていたんだ」
「アハハ、そうだったんですね。なら隠す必要はないですね」
私は観念してギルドマスターに何も隠さずに全てを話した。
私がこれまでのことを話し終わると、ギルドマスターはティーカップをテーブルに置き口を開いた。
「………そうか、お父さんと喧嘩して実家である魔王城を飛び出してきたと」
「大変お恥ずかしいのですが、そういうことになります」
「なるほどな………」
そう一言呟いて、ギルドマスターは再び腕を組みながら考え込む。
私はそれを見てゴクリとツバを飲み込んで身構えた。
もしかしたら、魔王の娘ということでギルドから除名されるかもしれない。
それどころか見せしめのために処罰される可能性すらありうると思ってしまう。
そんなことを考えていると、ギルドマスターが組んでいた腕をテーブルの上に置いて目を見開いた。
「うむ、アリス君正直に話してくれてありがとう。このことは誰にも言わないから安心してくれたまえ。それと、君を私たちのもとで保護させてくれないか?」
ギルドマスターから出た言葉は私の予想を超えるものだった。
「私を保護………ですか?」
保護という予想もしない言葉を聞いて目を丸くして固まってしまう。
ギルドマスターは私の様子を見て首を傾げて聞いてきた。
「おや、その様子だとアリシア様からは何も聞いていないのかね?………」
「何をですか?」
私はコクリと首を傾げてギルドマスターに聞いた。
「混血の者が今この社会に置かれている状況の事だよ」
「いいえ、母どころか父からも何も聞かされていません」
「そうか、分かった。では、私から説明しよう」
ギルドマスターから説明されたのは次の通りだ。
魔王が表向き倒されたことにより魔族の勢力が弱まったことで、ごく少数で存在している私のような人間と魔族の混血に対する迫害が始まった事。
そして、今ではその迫害が広まって、人間と魔族の混血だけではなく、他種族の混血を含めた、混血そのものが迫害を受けていて、一番深刻なケースは奴隷にされて人として扱われない事。
混血を狙う組織が存在するという事。
最後に、このギルドは通常の業務とは別に、裏で混血を保護する活動をしているということだった。
「お母様が言っていた理由ってこのことだったのね………」
私はギルドマスターの説明を聞いてボソッと一言呟いた。
「今説明した通り混血は人間達から迫害を受けているんだ。特に君はその中でも勇者と魔王の最高クラスの混血だ。だから改めて君をこちらで保護させてほしい」
「あの今の話の確認と、一つお願いをしてもいいですか?」
「あぁ、もちろん」
「世界には私と同じ混血の人がいて、その人たちはある組織に狙われている。そして、このギルドはそんな混血の人たちを守る活動をしているということでしたよね?」
「その通りだ」
「あの、その混血の人たちを守る活動に私も参加させてください!!」
私がソファーから立ち上がり、姿勢を整えてきっぱり言い切ると、ギルドマスターもソファーから勢いよく立ち上がり、大きな戸惑いの声をあげた。
「な!そ、それは………」
「私と同じ境遇の人たちがいるなら、私もその人たちを助けたいんです。お願いします!!」
私はギルドマスターの目をじっと見ながら深々と頭を下げた。
ギルドマスターはそれをみて、頭をかきながら大きなため息を吐いてから口を開いた。
「はぁ〜分かった。だが一つ条件がある」
「条件………ですか?」
「君に一人専属の護衛をつけさせてもらおう。この条件が飲めなければ、この申し出は聞き入れることはできない」
「わかりました。それでお願いします」
「うむ。ではさっそく、アリス君の護衛を引き受けてくれそうな人に声をかけよう。そして、後日また話そう」
「はい、わかりました」
ニコッと笑顔で返事を返してソファーに座り直すと、ギルドマスターは応接室から出て行った。
こうして、私は護衛付きという条件付きではあるものの、混血を助ける活動に参加することになった。
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