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【書籍化】未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…  作者: 狭山ひびき
第二部 ラファエル王太子の最愛

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マルタン大国とブロンデル国の問題 2

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「ヒルカ島やブロンデル国の歴史について書かれた書物ですか? それでしたら図書室にあると思いますよ」


 ダリエ夫人から教えられて、ローズは次の日も図書室にやって来た。

 ミラはニーナからマルタン大国の侍女の仕事を学んでいるので、今日は一緒ではない。

早くこの国の勝手に慣れてローズをサポートすると息巻いているミラは、恐ろしい早さでこの国の勝手を吸収している。ローズもまだ学んでいないのに、この国の主要貴族の名前までほぼ暗記を終えていて、ローズはミラの聡明さに舌を巻くばかりだ。

 ミラはローズを一人で図書室へ向かわせることに難色を示したけれど、ローズの部屋から図書室はさほど離れておらず、また、図書室の前や使用中の客室の前には、最低一人の衛兵が立っているので危険はないと主張すると、仕方がなさそうな顔で送り出してくれた。


(できることは少ないけど、ラファエル様の役に立ちそうな資料を探すくらいはできるものね)


 よし、と気合を入れて、ローズは自分の背丈よりもずっと高い本棚の並ぶ図書室を、資料を探して歩き回った。


「歴史書はこのあたりのはず……」


 利用者が迷わないように、図書室に納められている本は種類ごとにまとめられている。歴史書がまとめられている本棚を発見したローズは、本の背表紙を確認しては抜き取り、ぱらぱらと中を確かめて、参考になりそうな本を抱えていく。

 本を五冊ほど抱えて閲覧用の机へ移動し、ローズが夢中になって読んでいると、近くで小さな物音がした。顔をあげるとレオンスが立っていて、目が合った彼がにこりと微笑む。


「こんにちは。集中を切らしてしまったみたいでごめんね」


 レオンスはそう言いながら、机を挟んでローズの対面に座った。


「こんにちは、レオンス殿下。休憩ですか?」

「うん、そう。話し合いが全然進展しないから休憩。そんなことより、ローズ王女。その本って、うちの国について書かれた本だよね? なんでそんなものを読んでいるのかな」


 どうやらレオンスは、ローズがブロンデル国の歴史が書かれた本を読んでいることが気になって声をかけてきたようだ。


「ラファエル様からヒルカ島のことを聞いて、何かお役に立つ資料がないか調べているんです」

「へえ、ラファエル殿下は幸せ者だな」


 若干揶揄いぎみだったが、レオンスは心の底からそう思っているようで、青灰色の目を優しく細めてローズを見た。


「それで、うちの国について調べているってことは、ローズ王女はもしかしなくても、うちにつけ入る隙がないかどうかを探っているのかな?」


 探られたって痛くもかゆくもないよ、という顔をしてレオンスが言う。

 ローズはゆっくりと頭を振った。


「そう言うわけじゃなくて、お互いが納得する方法はないかなと思いまして」

「そう来るか。ええっと、ローズ王女。今のはちょっとばかり、意地悪な質問だったんだけどね」

「え?」

「…………はぁ……なるほど、ラファエル殿下が落ちたわけだ。悪意のある発言も、こうもあっさり純粋にかわされたら、どうしようもないね。ごめん。今のはラファエル殿下が何か企んでいるんじゃないかって気になったから、カマかけてみただけ」

「そうなんですか?」


 きょとんとしてローズが首をひねると、レオンスがお手上げだと言わんばかりに両手を軽く上げた。


「君にはストレートに訊ねるのがいいみたいだね。じゃあ訊くけど、ローズ王女はマルタン大国の外務官が言う通り、我が国はヒルカ島の問題には口を出すなって思う?」

「マルタン大国にはマルタン大国の事情が、ブロンデル国にはブロンデル国の事情があるのでしょうから、そうは思いませんよ? ラファエル様もそうだと思います」

「じゃあ、ローズ王女はどうするのが一番平和な解決だと思う?」

「ヒルカ島の島民の皆様が困らない方法が一番平和的な解決だとは思いますけど……」


 ローズは顎の下に指先を当てて、ぽやんと首を傾げた。くどいようだが、これは呆けているのではなく考えている顔である。


「今のところ、何が一番いい方法なのかは、わたしには判断がつきません。島民の皆さんが困らないでほしいというのは本音ですけど、マルタン大国側の主張もブロンデル国側の主張もわかるので」

「わかるのかい?」

「はい。マルタン大国は内戦後に手に入れた領地で、内戦によって疲弊したヒルカ島を立て直すことに尽力しましたよね? 人員もお金も、時間も割いて。そしてヒルカ島民は、マルタン大国の一部として、マルタン大国の法律に沿って生活しています。これをいきなり三十年前の状況に戻すのは、マルタン大国としては納得いかないでしょう? 見方によっては、マルタン大国がヒルカ島を見捨てたように思う人もいるかもしれませんし」

「なるほど?」

「でも、四百年前までヒルカ島を領土に持っていたブロンデル国からしたら、マルタン大国が内戦時に余計な手出しをしてヒルカ島を奪い取ったように見えるのではないですか? もともと自分たちの領土だったのだから、取り返すのは当たり前だという主張も、道理が通っているように感じます」


 レオンスは目を丸くした。


「ローズ王女はどうして裏事情を知っているのかな?」

「ちょっと、歴史を学んだことがあるんです」


 レオンスはぐしゃりと前髪を書き上げて、困ったように笑った。


「困ったねえ。ローズ王女の言う通り、国にはそんな主張をする人間が一定数いるんだ。だけど、独立を認めた以上、その国がどうなろうともともとの領地であるという理由で奪い取ることはできないことは私もわかっている。だから国としてはヒルカ国を再建するという名目で動いたわけだが……、そういう主張をする人間が、しかも上層部にいる以上、ヒルカ島を諦めるには相応の大義名分が必要なんだ。そして王太子である以上、私が諦めるわけにはいかない。わかってくれる?」

「はい。でも、ラファエル様も王太子である以上、自国にとって不利な条件は飲めないんです」

「だろうね」

「だからわたしは、中立な立場で考えてみようと思って」

「はい?」


 レオンスは不思議なことを言われたとばかりに首をひねった。


「ラファエル様は一生懸命に妥協案を探していらっしゃいます。出来るだけ双方の納得のいく解決法を模索されているんです。でも、その考えはやっぱりマルタン大国側寄りになってしまうと思うので、ブロンデル国の方々にとってはなかなか受け入れられないかもしれません。でもわたしは、中立の立場で考えられるから、役に立つ資料を探して、あわせて中立な意見を述べようと思います。ラファエル様はわたしと違って聡明な方なので、情報があれば、一番いい方法を導き出してくれると思うんです」

「ローズ王女はラファエル殿下の婚約者なのに、中立な立場で考えるっていうの?」


 真顔で問われて、ローズはハッとした。


「お、おかしいでしょうか……? ラファエル様の婚約者だから、ラファエル様の立場になって考えるのが正しい……ですよね?」

「あ、いや、そうじゃない。間違っていると言いたかったわけじゃなくて、ただ驚いただけなんだ」


 レオンスは苦笑して、ローズが積み上げている本を一冊手に取った。読むでもなく、ぱらぱらとめくりながら言う。


「八年前、ブランディーヌは私に、ブロンデル国の身勝手な主張を何とかしろと言った。彼女はマルタン大国の王女だから、そう言われるのも仕方がないと思ったんだけど……、私の国の主張がすべて間違っているように言われて、正直傷ついた。ブランディーヌの立場もわかるから、味方してほしいとまでは言わないけど、せめてローズ王女のように中立な立場で考えてほしかったな。まあ、これは私の我儘なんだろうけどね」


 ぱらぱらとレオンスが無意味に本のページをめくる音を聞きながら、ローズは「うーん」と考え込む。


「わたしが思うに、それはちょっと、難しいかもしれませんね。だって、レオンス殿下が中立な立場で考えていないのなら、ブランディーヌ様も中立な立場に立てませんよ。逆もしかり、でしょうけど」

「え?」

「わたしが中立な立場で考えようと思ったのは、ラファエル様がブロンデル国側にも歩み寄ろうとしているのがわかったからです。完全に中立にはなれないでしょうけれど、可能な限り公平な目で見ようとされています。もし、ラファエル様がマルタン大国側の主張をすべて押し通そうと動いていたら、わたしもその考えに沿うように協力したかもしれません」


 マルタン大国の王太子であるラファエルが、自国の主張を押し通すのではなく、なんとか妥協案を探そうとしていたから、ローズもそのように動こうと思ったのだ。


「当時、ブランディーヌ様はレオンス殿下の婚約者でしたが、当然のことながらマルタン大国の王女殿下でもありました。嫁いでいるならばいざ知らず、マルタン大国の王女としては、マルタン大国側の主張を通すか、それともラファエル様のように妥協案を探すかの二択しかなかったと思います。そして、バランスを考えると、レオンス殿下がブロンデル国の主張を通そうとすれば、ブランディーヌ様はマルタン大国の主張をぶつけるしかありません。八年前に、もしレオンス殿下がブランディーヌ様に、お互いの国が納得する妥協案を模索したいと相談すれば、きっと協力してくださったのではないでしょうか? ……もちろん、当時を知らないわたしの勝手な推測かもしれませんけど」


 だから原因はレオンス殿下にもあるかもしれませんよ、と言外に言うと、レオンスが茫然とした顔つきになった。


「ローズ王女って……おっとりしているようで、意外と言うときははっきり言うんだな」

「あ!」


 ローズは慌てて顔の前で手を振った。


「す、すみません! 当事者ではない身で偉そうなことを……!」


 レオンスを不快にさせたらどうしようと焦るローズに、レオンスはくすくすと笑い出した。


「いや、いいよ。そう言われて、ああそうかもしれないなと思ったし。私も結局、ブランディーヌの立場になって考えていなかったってことか。彼女にも悪いことをしてしまったかもしれないね」


 レオンスは本を閉じると、「お邪魔したね」と言って立ち上がった。


「そろそろ休憩も終わるだろうから私は失礼するよ。あと、差し出口かもしれないけど、その本の量だと、図書室を閉めるまでには読み終わらないと思うよ?」


 図書室は夕方に施錠される。言われて柱時計を確認すれば、図書室が閉められるまであと二時間を切っていた。


「貸出許可を得て、部屋に持ち帰ったらどうかな?」

「ありがとうございます。そうします」


 ローズが五冊の本を抱えて立ち上がろうとすると、レオンスがローズの腕から本を奪い取る。


「部屋まで運ぼう。時間がなくなったのは、私が話しかけたせいでもあるだろうからね」

「でも……」


 他国の王太子に荷物持ちをさせていいものだろうか。

 ローズがおろおろすると、レオンスが茶目っ気たっぷりに片目をつむった。


「気にしないで。それに君が重たいものを持っているのに私が手を貸さなかったのをラファエル殿下が知ったら、文句を言われるだろうからね」

「そんなことはないと思いますけど。……でも、それじゃあお言葉に甘えて」


 レオンスが図書室の入口にいる司書の元に本を運んでいく。司書がタイトルを確認してローズが持ち出したことをメモすると、レオンスは再び本を抱えて歩き出した。


「君とはもっとゆっくり話がしてみたいね。もっとも、ヒルカ島の問題を片づけないことには、私もあまり時間が取れそうもないけど……時間が取れたらおしゃべりにつき合ってくれる?」

「はい。わたしも、ブロンデル国のことをいろいろお伺いしたいです」

「それはよかった」


 にこにこと微笑み合いながらローズはレオンスとともに廊下を歩いて行く。

 そんな二人をじっと見つめる人影があることに、ローズは気が付きもしなかった。





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