表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…  作者: 狭山ひびき
第二部 ラファエル王太子の最愛

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/44

ローズの実力 1

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

「え? スケジュールの変更ですか?」


 ダリエ夫人が用意したテストを受けた翌日、ローズはきょとんと首をひねった。

 朝食後、ラファエルが執務室へ向かって少ししてやってきたダリエ夫人が、困惑顔でローズの教育スケジュールを変更すると言ったのだ。

 その横で、ローズに先立って新しい教育スケジュールを確認していたミラが満面の笑みを浮かべている。ミラ曰く、朝から晩までびっちりと組まれていたスケジュールは、午前中の二時間だけに減っているという。


(は! もしかして、ラファエル様が何か言ったのかしら?)


 その可能性に行きついたローズは慌てた。ローズの教育スケジュールに怒っていたミラを思えば、そのことを知ったラファエルが同じように怒っても不思議ではないのだ。この二人の怒るポイントは、妙に似ているところがあるのである。


「あの! もしラファエル様が何かおっしゃられたのでしたら、わたしの方から説明しますから、無理にスケジュールの変更は必要ありません」


 しかしダリエ夫人は、ゆっくりと首を横に振った。


「そうではありません。スケジュールを変更したのは、昨日のテストの結果から再検討した結果、予定していた教育課程の大半が不要であるとわかったからです」

「不要、ですか?」

「ええ。昨日のテストですが、ローズ王女はほぼ満点だったのですよ。はっきり申し上げて、わたくしの予想の範疇を大きく超える結果でございました。語学だけでも、マルソール語以外に他国の言語を五つも用意していたのに信じられません。この国の歴史問題にも触れていたのにそれもすべて回答されていましたし、わたくし、夢でも見ているのかと思いましたわ」

「は、はあ、そうなんですか……?」


 ローズはますますわけがわからなくなって首を傾げた。

 正直に言えば、昨日のテストはローズにとって簡単すぎたのだ。実力を推し量るものだと言われていたから基礎的な問題なのだろうと勝手に解釈していたが、本当に実力試しのものだったらしい。


(困らせてしまったみたい……)


 こんなことなら、わざといくつか空欄で出した方がよかったのだろうか。

 ローズがそんなことを思っていると、ミラが勝ち誇った顔をして胸を張った。


「当然です! ローズ王女は勤勉な方ですから!」


 我がことのように自慢するミラに、ダリエ夫人が不思議そうな顔をした。


「勤勉ということは、グリドール国でどなたかに師事を受けられていたのですか? わたくしは、どなたからも正式な教育を受けていないと聞いていたのですが……」


 ダリエ夫人は、ローズが本当に何も知らない無知な人間だと思って、ラファエルと結婚するまでの限られた時間の中でできる限りのことを詰め込もうと考えくれていたようだ。


「あの、正式な教育を受けていないという意味では、間違いではありません」


 グリドール国では、ローズに教育係はつかなかった。だから、その情報が間違っているわけではない。


「教育を受けていないのにあの回答率はおかしいですよ」


 怪訝そうに眉を寄せるダリエ夫人に、ローズは困ったように笑う。


「ええっと、確かに教育係はつけられませんでしたが、わたしの乳母が聡明な人で、彼女からいろいろ教わっていたんです。ただ、マルタン大国に向かうことが決まってからこの国のことを教わりましたが時間がなく、本当に基本的なことしか学んでいないので、乳母からはそのあたりのことはしっかりとこの国の方に師事して学ぶようにと言われています」

「……その、乳母の方のお名前をうかがっても構いませんか?」

「ええ。アリソン・グローブ子爵夫人です。ミラのお母様でもあります」

「アリソン・グローブ……アリソン?」


 ダリエ夫人は難しい表情で顎に手を当て、それからハッとしたように顔をあげた。


「その方の旧姓はジラールではありませんか? ジラール伯爵令嬢……」

「あ、そうです。そうよね、ミラ?」

「はい、そうです。それが何か?」


 急に母親の旧姓の話題が出て、ミラが訝しそうな顔をする。


「何か、ではありませんよ!」


 ダリエ夫人は拳を握りしめて大きな声を出した。心なしか頬が紅潮している。


「アリソン・ジラール伯爵令嬢ですよ⁉ ニーナ、あなたも知っていますね⁉」


 話を振られたニーナが、戸惑いつつも頷く。


「え、ええ。もちろん存じ上げています。アリソン・ジラール伯爵令嬢のお名前は有名ですから」

「有名、なのですか?」

「お母さんが?」


 ローズとミラは顔を見合わせた。


「あの、どうして母がこの国で有名なのでしょうか? マルタン大国には遠戚もおりませんし、母とこの国は関りがないように思うのですが」


 ミラが訊ねれば、ダリエ夫人がもどかしそうに「ああ!」と叫んだ。


「まさか実の娘であるあなたがジラール伯爵令嬢の功績をご存じないなんて!」

「功績? お母さんがこの国で何かしでかしたんですか?」


 ミラの顔が「やばい」と言うように顔をしかめた。

 ローズはよく知らないが、ミラによるとアリソンは結婚し、王妃の侍女に抜擢されてからはおとなしくなったけれど、それ以前はあちこちでいろいろ「やらかして」いたらしい。


 アリソンは伯爵令嬢でありながら、大学へ進学した才女だ。良家の令嬢が大学に通うことは、グリドール国ではすごく珍しい。そのため当時は周囲に嘲笑されたようだが、当の本人は周囲の評価などはねつけて、知的好奇心を満たすべくがむしゃらに学び続けた。

 アリソンは、とにかく知的好奇心に抗えない性格をしているのだ。自分が興味を持ったものにすぐに頭を突っ込む癖があり、そして興味を持つ事柄は多岐にわたる。グリドール国でも彼女の知的好奇心のおかげで、医学や薬学が発展したという話を聞いたことがあった。知識欲に忠実なアリソンが、周囲の反対を押し切って医学が発展している国へ留学し、その国の知識をそっくりそのまま持ち帰ったからだ。

 ほかにも文学や考古学、とにかくあらゆる分野でその名を残している。


 ちなみに、王妃の侍女になったきっかけは、一般公開されていないグリドール城に保管されている貴重な蔵書を、王妃の許可を得て読み漁るためだったらしい。その後ローズの乳母に抜擢されて、なんだかんだとずるずる今日まで続けているそうだ。


(そう言えばミラが十歳くらいのころに、誕生日プレゼントが化石だったと言って渋い顔をしていたわね……)


 ミラもアリソンに似て聡明だが、趣味は遺伝しなかったようで、母と話してもちっとも楽しくないという愚痴を聞いたことがある。

 アリソンが独身時代にあちこちでやらかしたおかげで、ミラは「アリソンの娘」として周囲から過剰なまでに期待され、嫌な思いを味わって来た。

 ここでもアリソンが何からやらかしたようだと、ミラが嫌な顔をしたけれど、興奮状態にあるダリエ夫人はそんなミラに気づかずにまくしたてるように続けた。


「ジラール伯爵令嬢は本当に素晴らしい女性です! 有名なのは、マルタン大国の古代遺跡の解明でしょうか? ジラール伯爵令嬢は、今から二十五年ほど前、それまで誰にも解読できなかった古代遺跡の壁画の解読を行ったのです! その後、短い間でしたが、王立学園でも臨時教師として教鞭をとられ……そのときわたくしは、ジラール伯爵令嬢から学んだことがございます! 本当に夢のような時間でした。豊富な知識はもとより、学問に対する姿勢。あとにも先にも、わたくしはジラール伯爵令嬢より素晴らしい女性を知りません!」

「……はあ、お母さんってほんと、罪作り……」


 こういうことは珍しくないのか、ミラが頭を抱えている。

 ローズはダリエ夫人の熱弁に押されてたじたじだ。

 そして何かを悟ったような目で、ダリエ夫人がふう、吐息を吐き出す。


「ジラール伯爵令嬢から教えを受けていたなんて……どうやらわたくしでは、ローズ王女殿下にお教えできることは少なそうです」


(え……)


 それは困る。少なくともローズは、マルソール語を喋ることができない。最低限このあたりは早いうちから習得しておかなければのちのち困ることになるだろう。


(ほかにもいろいろ教えてほしいのだけど……)


 すっかり、「わたくしの仕事はなくなった」と言わんばかりの顔をしているダリエ夫人に、ローズは途方に暮れてしまった。





ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ