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【書籍化】未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…  作者: 狭山ひびき
第二部 ラファエル王太子の最愛

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婚約者は試される 1

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「こちらが、ローズ王女殿下のお部屋になります。それから……」

「俺の部屋はローズの隣に用意してくれ」


 ローズを部屋まで案内してくれた女官が続いて何かを言いかけたが、ラファエルに遮られて女官は驚いたように目を見張った。


「殿下も、ですか?」

「陛下からは許可を得ている。ローズの部屋が王宮に整えられるまで、俺もここで生活することにした」

「か、かしこまりました」


 女官は戸惑った表情で一礼すると、急いで隣の部屋の準備へ向かう。

 女官が部屋を去ると、部屋の中で荷物の整理をしていたミラが待っていましたとばかりに口を開いた。


「ラファエル殿下、これはどういうことですか? ローズ様のお部屋は王宮に用意してくださるのではなかったのでしょうか?」

「ミラ、落ち着いて」


 不満そうな顔でミラがラファエルに食ってかかるのを、ローズは慌てて止めた。


「すごく素敵なお部屋よ。こんな素敵なお部屋を用意してくださったんだもの、文句を言うのはおかしいわ」

「確かにお部屋は素敵ですけど……」


 客室の中でも上等な部屋を用意してくれたのか、部屋は広くて調度品も豪華だ。女性が泊まることを想定して作られた部屋なのだろう、淡いクリーム色の天蓋付きのベッドは大きくて、可愛らしいクッションがたくさん置かれている。カーテンも明るい桃色で、白い絨毯はふかふかしていた。

 バスルームのほかにも続き部屋があって、そこはミラの控室として使用するようだが、その部屋も広くて可愛らしい作りである。

 花柄のカバーがかけられた猫足のソファが可愛くて、ローズがふにゃりと顔を微笑ませると、ミラは「まあ、ローズ様がお気に召したのならいいですけど」とぶつぶつ言いながら荷物の片づけを再会した。


「悪いな、ミラ。王妃が口を出したみたいなんだ。出来るだけ早く王宮に部屋を準備させるから、しばらくここで我慢してくれ。ローズ、たりないものはあるかな? 必要なものがあれば何でも用意させるから遠慮なく言ってくれ」


 自分のことのように怒るミラに苦笑してから、ラファエルはローズに訊ねる。

 ローズは部屋の中を見渡して、軽く首を傾げた。


「充分すぎるものをご用意くださっていますし、特には……」

「先ほどバスルームを確認いたしましたところ、ソープはございましたが入浴剤がございませんでした。ご準備いただけるのであればいただきたいです。それから、お茶やお菓子がほしいときはメイドの方に頼めばいいのでしょうか? メイドをあまり呼びつけない方がよろしいのでしたら、わたくしが準備いたしますので茶葉などをいただけますと幸いです」


 ローズが「なにもない」と言い切る前に、ミラが口を挟んだ。ミラはすでに部屋の中を確認ずみで、追加で必要そうなものをピックアップしていたらしい。


「入浴剤か。それならばあとからいくつか持ってこさせるから好みのものを選んでくれ。それから、お茶やお菓子は好きな時にいつでもメイドに頼んでくれていい。部屋でお茶の準備をするなら火がいるだろうが、この国は暑いし乾燥しているから、冬の時期を除いてあまり部屋では火を焚かないのが決まりなんだ。昔よくボヤ騒ぎを起こしていたことが原因なんだが」

「なるほど、そういうとならば了解いたしました」

「ボヤ?」


 ボヤとは何だろうかとローズが首をひねると、ラファエルが「小さな火事のことだよ」と教えてくれる。


「小さな火事のことをマルタン大国ではボヤと言うんですね」

「いや、たぶんグリドール国でもそう言うと思うよ」

「そうなんですか?」


 知らなかったと目を丸くするローズに、ラファエルがくすくすと笑う。


「ローズは意外と物知りなのかと思ったけれど、こういうことには詳しくないんだね」


 揶揄い口調で言われて、ローズは恥ずかしくなって両手で頬を押さえた。


「そ、そうかもしれません。本で読んだり乳母から教えられたことは頭に残っているんですけど……それ以外はあまり」

「ローズ様は世間のことに疎いですからね」


 ミラの言う通り、閉じ込められて育ったローズは、普通に生きてきたら耳にしたり目にしたりすることがよくわからないときがある。早く覚えなくてはと思うものの、こういうものはすべて経験がものを言うので、一朝一夕で手に入る知識ではないのが困りものだ。

 ラファエルがなるほどと頷いて、ローズをすっぽりと抱きしめた。

 ミラがいる前で、とローズは顔を赤くしたが、ミラは心得たもので、特に気にした様子もなく黙々と作業を再開する。


「ローズは今のままでも充分に可愛いんだけど、そういうことなら君自身が困るだろうね。何かあればすぐに言ってくれ。何でも教えてあげるよ。でも、俺以外に訊くのは禁止。君はぽやぽやしすぎていて、すぐに誰かに攫われてしまいそうだからね」

「ぽやぽや……」

「おや、その単語の説明が必要かな?」

「いえ、大丈夫です、わかります!」


 ただ、ラファエルに「ぽやぽや」と言われるほどぼんやりしているだろうかと疑問を持っただけだ。


(しっかりするように気を付けていたのに、まだまだ及第点じゃないみたい)


 ローズはがっくりと肩を落とした。


(ラファエル様に「ぽやぽや」と言われないように、しっかりしなきゃね)


 そう決意したところで、これは知識に起因するのではなく性格に起因するものなので、どれだけ頑張ろうとも無駄な努力なのだが、ローズがそれに気づくのは、もっとずっと先のことになるのだった。





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