歓迎されない婚約者 3
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「ああ、可愛い」
「殿下、愛が駄々洩れになって顔がにやけてるから、表情を引き締めた方がいい。そろそろ城に到着するから」
ラファエルとセドックが対面でそんな会話をしているのにも気づかずに、ローズは馬車の窓からの景色に目を奪われていた。
馬車が、石畳のなだらかで長い坂道を上って行ったかと思えば、王都を取り囲む真っ白な外壁が見えてきた。跳ね橋をくぐると、そこに広がっていたのは驚くほど綺麗な街並みだったのだ。
王都は小高い丘に建てられていて、奥にそびえ立つ巨大な城が一番高いところにある。
城を起点に扇状に広がる街並みは、どれも白い外壁で、とにかく美しい。
ラファエルによると、王都は百年ほど前に作られた自然を利用した要塞都市でもあるらしい。
表からは見えないが、城の裏手は崖になっていて、崖の下にはなかなか川幅の広い川が流れているという。王都を取り囲む高い外壁に、裏手の崖と川。そのほかにも戦時に役立つ仕掛けがたくさんあるそうで、攻め落とすのが困難な作りなのだという。
(そう言えば、マルタン大国は過去に何度か内乱が起きているのよね。他国から攻め込まれることはほとんどなかったみたいだけど、大きな国だから、国政の目が行き届かないところで不穏分子が生まれやすかったとアリソンが言っていた気がするわ。もっとも、ここ最近は平和な時代が続いているみたいだけど)
不穏分子を生ませない方法の一つとして、レアが留学していた学園があるという。レアが通った学園は貴族や王族専用のものだったが、貴族や平民に問わず、自由に教育が受けられる環境を整えているのだそうだ。身分にかかわらず、基礎教育が義務化されている。
(教育が行き届けば就職に自由が生まれる。生活が安定すれば不穏分子は生まれにくい。また、教育課程で国王への尊敬の念を植え付けることで、王族に刃を向けようとする人は格段に減る)
上から押さえつけると軋轢が生まれるものだが、自由すぎてもいけない。大国になればなるほど、国をまとめるのは容易ではないのだとアリソンは言った。
――ローズ様。マルタン大国の王太子殿下をお選びになったということは、あなたはゆくゆく上に立つ人間になるということです。マルタン大国の歴史を学び、国民性を学び、そして周囲の言葉に耳を傾け、国王となるラファエル様を支えられるようにならなければなりません。ローズ様を取り巻く環境は百八十度変わり、その細い肩には重圧がのしかかることでしょう。あなたはその一挙手一投足を常に見られ、周囲から評価を受ける立場となるのです。相応の覚悟は、必要となりますよ。
見送りに来てくれたアリソンに別れ際に言われた言葉。アリソンが言いたかったことを、ローズはまだ、半分も理解できていない。ローズは自分にラファエルを支えられるほどの技量があるとは思っていないし、疎まれ無視され続けてきたローズが注目を集めることは想像できない。
でも、一つだけ。
ローズを愛してくれて、グリドール国から解き放ってくれたラファエルのために、できる限りのことをしたい。その気持ちだけは、覚悟だけは、持っている。
(ゴミが落ちていない、すごく綺麗な道。人々の顔も明るいし、人通りも多いわ)
マルタン大国がどんな国か、ローズは下船してからこの十日間、目に焼き付けるようにしてその様子を記憶した。早く国の様子に慣れなくては。戸惑ってばかりではいけないのだ。
そして思う。ゴミの少ない道。人々の笑顔。少なくとも見て回った場所はどこも治安がよく人々が平和に暮らしているのだと。
物乞いをする路上生活者がいない。子供が平然と子供たちだけで遊んでいる。犯罪抑止のため町の警備兵たちが定期的に巡回していて、人々は楽しそうに彼らと語らいあう。当たり前に思えて、どれも当たり前でない光景。昔は内乱が多かったというマルタン大国だ。ここまでの平和を築き上げるのに、一体どれだけの努力と時間を要したことだろう。
ラファエルの手を取った瞬間、ローズもこの平和を守る立場になったのだと、窓の外を眺めながら改めて思った。
「ローズ、もうすぐ城につくよ」
ラファエルに言われて、ローズは緊張で震えた。
これからローズはラファエルの父、国王アルベリクに謁見するのだ。
マルタン大国は、城の隣に王宮を構えている。城は国政の場所、王族の住居は王宮と分けられているそうだ。ラファエル曰く、アルベリク国王に謁見した後は王宮に部屋が用意されるはずだから、王宮の管理をしている王妃――ラファエルの母ジゼルに会うことになるらしい。
(ラファエル様のご両親……!)
緊張で手に変な汗をかいて来た。
(嫌われたらどうしよう)
好きな人の家族には好かれたいと思う。けれど、実の両親にすら愛されなかったローズだ。不安の方が大きい。
「ローズ、そんなに顔を強張らせなくても、父にも母にも事前に知らせてあるから大丈夫だ。たとえ何かあったとしても、俺が全力で守るからね。ミラもいるし」
「そうですよ、ローズ様! わたくしが身を挺してでもお守りいたしますからご安心ください!」
「……君たち、あきれるくらい過保護だね」
ラファエルとミラを見やりながら、セドックがやれやれと肩を落とす。
「当り前だろう。父上はともかく、母上は厄介だ。文句は言わせないが、余計なちょっかいを出してこないとも限らない」
「叔母上か。だがあの人は無茶な要求をするような人じゃないだろう?」
「それが無茶かそうじゃないかは関係ない。余計な口を挟まれるのが嫌なんだ。……それにもう一人、面倒な人間がいるからな。心配だからいっそローズは俺と同じ部屋――」
「結婚前に同じ部屋を使うなんて無理に決まってるだろ。それこそ叔母上が許すものか。それに、いくらブランディーヌ王女でも、他国の王女相手にちょっかいを出すようなことはしないだろう」
「だといいがな」
ラファエルは腕を伸ばしてローズの手を取ると、きゅっと握りしめた。
「ローズ、少しでも嫌な思いをしたらすぐに言うんだ。いいね?」
心配そうなラファエルを見て、ローズはセドックが言った通り、少々過保護すぎやしないかと苦笑したのだった。
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