歓迎されない婚約者 1
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来年もどうぞよろしくお願いいたします(*^^*)
プリンセス・ローズ号が優雅なクルーズを終えてマルタン大国のレレイバ港に到着するころには、やわらかく吹く風に微かな秋の気配が漂いはじめていた。
マルタン大国はグリドール国よりもずっと南に位置しており、一年で一番夏が長いが、四季は存在している。
ラファエルによると、長い夏のあとで短い秋が来て、そこから一気に冷え込むのだそうだ。と言っても、標高の高い山のあたり以外、雪はほぼ降らないらしい。たまに山の方から風花が飛んでくることがあるだけだという。
「王都は少し標高の高いところにあるから、他と比べると夏も涼しく過ごしやすいんだけど……それでもグリドール国で育ったローズには、慣れるまで夏はつらく感じるかもしれないね」
レレイバ港から王都まで馬車で移動しながら、ラファエルが心配そうに言う。レレイバ港に着いてすぐ、ローズが日差しの強さに眩暈を覚えてしまったことを気にしているみたいだった。
ちなみに馬車にはローズとラファエルのほかにミラとセドックが同乗している。ほかのラファエルの友人たちは後続の別の馬車の中だ。
(ちょっとくらっとしただけだから、たいしたことはないのに)
ラファエルのみならず、隣に座っているミラも心配そうな顔をして、必死に扇で扇いではローズに風を送っている。閉じ込められて育ったローズは体力がないので、ちょっとした変化に体調を崩しやすい。それを知っているミラは、ローズがいくら大丈夫だと言っても納得してくれなかった。
「ミラも暑いでしょう? もう扇がなくて大丈夫よ」
「わたくしは頑丈なのでお気になさらず。冷たい飲み物がご用意出来ればいいんですけど」
「もう少し先に町があるから、カフェにでも入って涼もう」
馬車の中は日差しが遮られているし、開けている窓から風も入ってくるので外と比べるとずいぶん涼しいのに、過保護な二人はそんなことを言う。
ローズは申し訳なくなってきて、大丈夫だとくり返すのに、この二人はローズの「大丈夫」は信用していないようだった。
ラファエルの隣に座っているセドックは、ミラとラファエルの過保護っぷりにあきれ顔をしている。
「ローズ王女の症状は軽い眩暈だって言ったろう? いくら何でも心配しすぎだ」
セドックは幅広い知識を持っていて、いろいろな薬品を扱うことから多少の医学の心得もある。眩暈を起したローズに慌てふためいたラファエルの横で的確に症状を見極めて、日陰に移動させれば大丈夫だと判断を下したのは彼だった。実際、少し休めばローズの眩暈の症状も収まって、今は何事もない。ただ暑いだけなのだ。
それなのに、そんなことを言ったセドックを、ラファエルがキッと睨みつけた。
「ローズはこの国の気候に慣れていないんだ」
「……はあ。今の殿下の様子を王妃様が見たら、びっくりするだろうな。人間、こんなに変わるもんかね」
「俺は何も変わっていないぞ」
「そうだな。ローズ王女限定だから、確かに変わってはいないだろうが」
いつもはニヤニヤ笑いながらラファエルを冷やかすセドックも、同じ馬車の中で過剰なまでにローズの体調を気にして落ち着かないラファエルに辟易としているようだ。
「あの、ラファエル様、本当に大丈夫ですから。ミラももう心配しないで」
寄り道をしていたら王都に到着するのが遅くなる。それなのに、ラファエルは気にした様子もなく平然と言った。
「ローズにこの国の様子を見せてあげたいと思っていたから、そんなに急いで王都に向かう必要はないよ。ゆっくり休み休み向かおう。セドック、問題ないだろう?」
「そんなことを言い出すだろうと思って、事前に陛下には遣いを送っておいたよ。十日後に王都に到着するって伝えさせたから余裕はあるけど、十日後までには必ず王都へ戻ってくれよ。俺が陛下に怒られるから」
(十日後って……)
ローズはびっくりした。
確か、レレイバ港から王都まで、馬車で二日ほどの距離のはずだ。それが十日。どれだけ寄り道するつもりだろう。
「助かったセドック。王都に帰ったら、長い間遊んでいたんだから仕事しろと、面倒ごとを押し付けられるのは目に見えているからな。そんなことになれば、いつローズに国を案内してやれるかわかったものじゃない」
「そしてそんなことになったら殿下の機嫌が悪くなって俺が苦労するからな。俺は危機管理ができている男だから」
「嫌味か」
「事実だろ? ま、そういうことだから、ローズ王女も気にしなくていいよ。フェリックスたちも、どうせそんなことになるだろうって、ここからは別行動をとるらしいから」
フェリックスとは別の馬車で移動中のラファエルの残り四人の友人の一人で、ラファエルの従兄弟の一人でもある。彼らはあとの面倒ごとをセドック一人に押し付けて、一足先に王都へ戻るのだそうだ。この国の住人である四人は、わざわざ遠回りして観光する意味がないのである。
「よし。十日でのんびり観光できるルートを考えるか」
「そう言うと思って、いくつかピックアップしておいた。この先の町に行くならそこで計画を立てればいいだろ」
こうして、ローズが口を挟む間もなく、マルタン大国に到着早々、王都周辺の観光が決まったのだった。









