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【書籍化】未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…  作者: 狭山ひびき
第二部 ラファエル王太子の最愛

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プロローグ 1

コミカライズがノベル2巻の内容に入ったため、集英社さんの許可を得てノベル2巻の内容の連載を開始します!

ノベルは1~2巻、コミックスは1~3巻が発売中です(#^^#)

どうぞよろしくお願いいたします!

 ローズはそのタンザナイト色の瞳で、ゆっくりと遠ざかっていくグリドール国ローアン港を見つめながら、妙な感傷を覚えていた。

 埠頭に見送りに来てくれていた人たちも大勢いたが、もうローズの視力では判別できないほど離れてしまった。

 塩を含んだ心地のいい風が、ローズの藍色の髪をもてあそぶ。

 プールのある、船主側の一等客室専用デッキには、船がローアン港を出航してまだ三十分も経っていないからか、人の姿は非常に少なかった。


(きっと……、もう戻ってくることはないんでしょうね)


 小さくなるローアン港を見ながら思う。

 綺麗に晴れた空も、日差しが反射してキラキラと輝く海面も、ローズの門出を祝福してくれているかのように美しいのに、小さな寂しさがローズの胸に影を落とすのは、今日をもって、遠ざかっていくグリドール国と永遠の別れになるだろうことがわかっているからだろうか。

 後悔は微塵もないけれど、だから何も感じないわけではないのだ。


 グリドール国第二王女ローズが、生まれ育ったその国に戻ることは、おそらく一生ない。それはただの予感ではなく、ラファエルの口から事実として聞かされたことだから、間違いはないだろう。

 生まれたときの容姿が父に似ていなかったから不義の子だと言われ、ローズは十七年間、城の中でほぼ幽閉に近い扱いを受けていた。両親はもとより、兄弟たちもローズには関心を示さず、家族の一員として扱われたことは一度もない。

 きっと一生日陰者として生きていくのだと諦観を持って受け入れていたローズの運命が変わったのは、一か月と少し前に乗船したこの船、プリンセス・レア号――いや、今はもう名を変え、プリンセス・ローズ号というローズには恥ずかしくて仕方のない名前を冠した、この豪華客船での出来事がきっかけだった。


 ローズは十七歳の誕生日の日に、不思議な夢を見た。

 それは十七歳から十年先までのローズの身に起こる未来の記憶だ。

 プリンセス・レア号の中で失踪した姉王女レアの身代わりで、姉の婚約者だったラファエルと結婚し、その後等に幽閉されて、冷遇妃として生きていく――夢で見たのはそんな未来だった。


 ただの夢なのか、本当の予知夢なのか――、正直なところ、ローズはいまだによくわからない。

 けれども、その夢で見たことは実際の現実として起こり、ローズはプリンセス・レア号に乗船した。そして実際にレアは海上を優雅に進む豪華客船の中で失踪したわけだが、そこから先が夢の内容と変わっていたのだ。


 未来を変えようと必死だったローズの行動の結果なのかどうかはわからない。

 ローズを疎み結婚後塔に幽閉する未来の夫ラファエルが、ローズに興味を示したのだ。それどころか、今ではすっかりローズのことを溺愛していて、超がつくほど過保護になっている。

 ローズもいつの間にかラファエルに恋をしていて、彼の求婚を受け入れた。

 そして今、ローズは、ラファエルがレアの身勝手な行動の慰謝料の一つとして奪い取ったプリンセス・レア号改めプリンセス・ローズ号で、マルタン大国へ向かっている途中なのだが、やはり、育った場所を離れるのは、多少なりとも心に揺らぎをもたらすものだ。


 もちろん、両親や兄弟たちと会えなくなることが淋しいとは思わない。彼らの中でローズが家族でなかったのと同様に、十七年間疎まれ続けて幾度となく絶望したローズもまた、彼らのことを家族だとは思えなくなっていたからだ。

 でも、疎まれ続けてろくな思い出もないローズにも、大切な人はいる。

 グリドール国には、生まれてからずっとローズを導き、大切に育ててくれた、乳母のアリソン・グローブ子爵夫人がいるのだ。


 ローズの唯一にしてかけがえのない侍女ミラの母でもあるアリソンは、ローズの乳母ではあったが王妃の侍女でもあった。

 夫であるグローブ子爵もいるので、当然、ローズと一緒にマルタン大国へ移動できるはずはない。

 ローズがそのことに淋しいと感じるのは、ローズの我儘でしかないから決して口にはできなかった。出航前に見送りに来てくれたアリソンは「お元気で」と言ってローズを抱きしめてくれた。そして、大切な彼女の娘であるミラを、ローズの侍女としてマルタン大国に送り出してくれたのだ。その上アリソンと離れたくないなどと、そんな我儘を口にできるはずがない。


「ローズ、ここにいたのか」


 ぼんやりと離れていくローアン港を眺めていたローズの元に、ローズの婚約者にしてマルタン大国王太子のラファエルがやや速足で近づいて来た。少し息が乱れている。

 柘榴のように赤い切れ長の瞳。鼻筋はすっと通っていて、シャープな顎のラインには、日差しを反射して輝くシトリン色の美しい髪が少しだけ張り付いている。整った顔が焦りを浮かべているのを見て、ローズはきょとんとした。


「何かあったんですか?」


 ラファエルが慌てるのは珍しいなと首をひねると、ラファエルが額に手を当てて盛大に息を吐きだした。


「何かって、ローズが急にいなくなるから探していたんだ! ミラに訊いても知らないというし、一人でふらふら歩き回ったら危ないだろう?」


 ローズはぱちくりと目をしばたたいた。


(ミラには散歩に行くって言っておいたんだけど……)


 乗船して、荷物の片付けに忙しそうにしていたミラを思い出す。散歩に行くと言ったローズに、クローゼットにドレスを片づけていたミラは「遠くに行かないでくださいね」とだけ釘を刺した。だから遠くへ行かず、デッキへ向かったのだが。

 ローズの部屋は、船主側の一等客室の一室だ。ちなみに隣はラファエルで、散歩に行くときに誘おうと思ったのだが、何やら忙しそうにしていたから声をかけなかったのである。


(セドックさんと何か話し込んでいたみたいだし)


 ラファエルの従兄弟のチャールストン公爵家の跡取り息子セドック・チャールストン・モルト伯爵は、ラファエルの側近でもあるらしい。真剣な顔をして話し込んでいたから、込み入った話をしているのだと思ったのだが違ったのだろうか。

 ローズとしては気を利かせたつもりだったのだが、ラファエルにしてはそうではなかったようだ。


「君の姿が見えなくて、心臓が止まりそうになったよ。頼むから俺の心臓のためにも俺の目の届く範囲にいてくれないか? ローズに何かあったら生きていけない」


 大げさだなと思いつつも、ローズは自分の頬に熱がたまっていくのを感じた。


(ラファエル様は、すぐこういうことを言うんだもの)


 ラファエルに愛されているのは知っている。彼が態度と言葉でそれを示してくれるから。もちろんそれは嬉しいのだが、恥ずかしくて照れてしまうので、ほどほどでお願いしたかった。

 探したというラファエルの言葉は本当だったようで、腕を広げてローズを抱きしめた彼の体温がいつもより高い。


「君はぽやんとしていて迂闊なところがあるから、誰かに騙されて攫われたりしないかと不安で仕方がないよ」

「いくら何でも、見ず知らずの人について行ったり――」

「しただろう?」


 めっ、と叱るような目をされて、ローズははたと以前のクルーズを思い出した。

 アート・ギャラリーで見ず知らずの人に声をかけられて、ついて行こうとしたことがある。そしてそのあとローズを助けてくれたラファエル――あの時は変装してモルト伯爵の名前を名乗っていたが――にも、うかうかとくっついて行って、ケーキまでごちそうになった。


(…………否定できる要素がないわ)


 実際ラファエルの目の前でやらかしているのだから、何を言ったところで信用されないだろう。


(ラファエル様の言う通りだわ。もっとしっかりしないと。今度からマルタン大国で暮らすことになるんだもの、迷惑はかけられないわ)


 と、心の中で決意するローズだが、真剣な表情を浮かべたローズが、ラファエルはさらに心配になってきたようで、よりいっそうローズを抱きしめる腕に力を込めた。


「一人でふらふら歩き回らない。どこかに行きたいなら俺に声をかけるか、最低でもミラを連れて行くように。いいね?」

「はい」


 しょんぼりと肩を落としてローズが頷けば、突然、くすくすという知らない笑い声が聞こえてきた。

 驚いてラファエルの腕の中で振り返った拍子に、日差し避けでかぶっていた白い帽子がふわりと風に飛ばされる。


「あ!」


 ローズはひらりと蝶のように宙に舞った帽子に、慌てて手を伸ばした。





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コミカライズはニコニコ静画内「水曜日はまったりダッシュエックスコミック(https://manga.nicovideo.jp/comic/64639)」にて連載中です!

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