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エピローグ

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 確かにレアは子供のころは可愛らしい顔立ちをしていたらしい。

 だが、子供のころの顔が成長するにつれて変化するのは、それほど珍しいことでもない。レアは成長とともに自分の顔が気に入らなくなり、徐々に自身の顔を化粧で誤魔化すようになった。人前どころか家族の前ですら化粧を落とした素顔は見せず、分厚い仮面の下に隠していたらしい。


 この話はラファエルがレアの侍女だったスーリンから吐かせた真実だそうだが、この話には続きがあった。

 なんと、レアの素顔は王妃の素顔と瓜二つだというのだ。


「王妃が君をひどく疎んじるのが不思議だったんだ。生まれたてのローズの顔があまり整っていなかったという理由で遠ざけられたのだろう? だが、自分の子供ではないと疑ったグリドール国王はともかくとして、王妃が自分の娘をそこまで疎むだろうか? これには何か理由があるのではないかと思って探ったところ、王妃の素顔にたどり着いたってわけだよ」


 プリンセス・レア号がローアン港に到着する前、ラファエルはそう言って肩をすくめた。

 おかしいと踏んだラファエルは、母親が王妃の侍女を務めているミラに訊ねたそうだ。王妃の素顔を知っているか、と。ミラは最初は迷うようなそぶりを見せたが、やがて王妃は美人ではないと教えてくれたと言う。


 ――わたくしも王妃様の素顔は見たことはありませんが、母が言うには、まあ、何と言いますか、十人並み以下と言いますか、そんな感じだそうです。あ、母が言ったというのは内緒にしてくださいね。不敬罪で投獄されますから。


 ミラによれば、王妃は国王と婚約する前から素顔を偽っていたらしい。そして、国王が王妃の顔を女神に例えはじめるとあとに引けなくなり、今までずっと隠し通してきたと言うのだからある意味すごい。


「君の母上は、自分の素顔がばれるのを何より恐れていたんだよ。だから、生まれた君の顔立ちを見て、君のせいでもしかしたら自分の隠し通してきた秘密が暴かれるのではないかと恐れた。だからひどく君を疎んじて、とにかく顔を隠すように命じたのだろう。何とも馬鹿馬鹿しく身勝手な理由だ」


 ラファエルはローズの頬を撫でながら笑う。


「君が不義の子なんてもってのほかだろう。だって君は、グリドール国王の顔立ちによく似ている」


 ラファエルが言ったその言葉を聞いた瞬間、ローズは涙が溢れるのを止められなかった。ローズはずっと、自分は父王の子供ではないと思っていた。父王の子供でないから嫌われていて、ローズの存在が夫婦仲を悪くしたから疎まれている。どうして自分は生まれたのだろう。そんな風に思いながら生きてきた。ラファエルの言うことが本当ならば、母は身勝手だったかもしれないけれど、なにより、ローズは、父の子供だとわかったことが何よりもホッとした。ローズは不義の子ではなかったのだ。


 もちろん、父の子だとわかったところで、ローズが受け入れられるとは思っていない。ローズはこれまで疎まれていて、ローズ自身も、今更温かく迎えられるとは思っていないし、そうされても戸惑うだけだ。でも、事実がわかっただけで、長年重く肩にのしかかっていた何かが外れた気がする。


「さて、ここからが本題だが、船がグリドール国に到着したあと、君は俺がマルタン大国に帰るときに連れ帰るつもりなんだが、嫌だとは言わないだろう?」


 嫌だと言っても攫って帰るけどねと片目をつむって笑うラファエルに、ローズは思わず吹き出して、それから大きくうなずいた。



     ☆



 ローズははじめて降りることを許されたグリドール城の中庭で、ラファエルとともに空を眺めていた。

 今まさに、空は夜の闇に変わろうというところだ。

 ローズの瞳の色と同じタンザナイト色に染まる空を美しいと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。


「帰国は三日後。慌ただしくてすまないが、それまでに荷物をまとめていてほしい。……長引くとなんだかややこしいことになりそうな予感がしているんだ」


 そういうラファエルは疲れた顔をしている。それもそのはずだ。なぜならラファエルは、ローズに変わって、グリドール国王と兄王子二人を撃退してくれていたからだ。


 どういうわけか、ローズが帰国してすぐに、父王がローズの部屋にやってきたのだ。ローズの部屋は、ラファエルがどうやって交渉したのかはわからないが、戻った直後に、日当たりのいい別の部屋に移された。

 今までの部屋の三倍以上はある広い部屋に戸惑っていたローズのもとへ訪れたグリドール国王は、ローズに話をしないかと持ち掛けた。けれどもそのときたまたまローズの部屋にいたラファエルがにこりと笑って国王を追い返し、その後も同じように延々とローズから王を遠ざけている。


 なぜか途中からそこに兄王子たちも加わりはじめたが、ラファエルはこちらも有無を言わさず追い返して、ローズには一目たりとも合わせようとしない。

 ローズも、数えるほどにしか会ったことのない父や兄たちとどう接していいのかもわからないので、正直言ってラファエルが三人を撃退してくれて非常に助かっていた。


「本当はすぐにでも帰りたいんだが、まだまとまっていない項目があってね」


 ラファエルはレアの駆け落ち未遂の責任問題について、急ピッチで話し合いを進めているが、さすがに一朝一夕でまとまるものでもないらしい。

 今のところ、これまで滞っていた貿易関連の条件をすべてマルタン大国側の言い分で通させて、婚約破棄の慰謝料の代わりにプリンセス・レア号を奪い取ったらしい。だが、どういうわけか、レアの代わりにローズと婚約するという条件だけがなかなか進んでいないと言う。父王と兄たちが渋っているというのだ。ローズなどいないものとして扱われていたのだから、これが一番すんなり決まると思っていたローズは、どうして三人がラファエルとローズの婚約を渋るのかがわからない。


「何とか婚約の話まではこぎつけたんだが、今度は婚約期間中だから連れて帰るのは許さないとかふざけたことを言い出したんだ。長引かせるとあれこれ条件を並べ立てて来そうだから、三日後までにまとまらないなら強引に連れて帰るけど、いいかな?」


 なるほど、そう言われれば国王の言い分もわかる気がする。レアだって、マルタン大国に移るのは結婚後だと言う話だった。これからラファエルと婚約しようかというローズが、このままマルタン大国に移り住むのはおかしいのかもしれない。


(でも……、もうここにはいたくない……)


 なによりローズはラファエルと一緒にいたい。駄目だと言われるなら、ラファエルの言う通り、強引に連れ帰ってほしいと思う。だが、強行すると、国交関係にヒビが入らないだろうか。


「まったく、今頃になってローズとの時間を作ろうだなんて、厚顔も甚だし……おっと、いい時間だな」


 ぶつぶつと口の中で文句を言っていたラファエルは、ふと空を見上げて微笑むと、ベンチから立ち上がった。


「見て、ローズ。今の空が一番君の瞳の色に近いよ」


 ラファエルはそう言うが、手鏡を持っていないので瞳の色と空の色を見比べることはローズにはできない。だが、見上げた空はとてもきれいで、ローズはこれまで前髪で隠し続けてきた自分の瞳の色が好きになれそうだと思った。

 ローズがぼんやりと空を見上げていると、ラファエルがそっとローズの足元に片膝をついたのがわかって目を丸くする。


「まだ、言っていなかったから」


 ラファエルは照れたように笑って、彼の胸元を飾っていた赤い薔薇を抜き取ると、ローズに向かって差し出した。


「ローズ。君のことが好きなんだ。俺と、結婚してくれますか?」


 ローズは両手で口元を覆って息を呑んだ。

 ザクロ色の瞳が優しくローズを見つめている。

 こんな未来も、こんなシーンも、もちろん船旅中の出来事も、ローズの記憶にあった未来とは異なっている。


 ローズが夢に見た未来が本当のことなのかどうなのかはわからないけれど、きっとこの瞬間、ローズの未来は変わったのだと、確信が持てた。

 なぜなら記憶の中の冷たい目をしたラファエルは、どこにもいない。


(でも、……そんなのどうだっていいわ)


 冷遇妃だろうとなんだろうと、どうだっていいのだ。

 ローズはラファエルと一緒にいたい。ただそれだけなのだから。

 ローズはラファエルの差し出す薔薇を受け取ると、そのまま彼に抱きついた。

 ラファエルが力強く抱きしめ返してくれる。


「ローズ、返事がまだだよ。返事は?」


 ラファエルがくすくすと耳元で笑うからくすぐったくて、ローズは首をすくめながら答える。


「もちろん、『はい』です!」


 ああ、幸せだと、ローズはラファエルの腕の中で笑った。


お読みいただきありがとうございました。

これにて完結です!

少しでも面白かったと思っていただけたなら下の☆☆☆☆☆にて評価いただけるととても嬉しいです(*^^*)

どうぞよろしくお願いいたします!

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