罠 3
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本日二回目の投稿です。
ラファエルとともに三階の彼の部屋に戻ったローズは、おろおろしていた。
部屋に戻るなりソファに腰を下ろしたラファエルの隣に座らされて、彼の右腕がまるで逃亡を防ぐかのようにがっちりとローズの肩に腕を回されている。そして、ラファエルの左手には、ローズがポケットに忍ばせていた手紙が握られていた。レストランで受け取った、レアからの手紙だ。
ラファエルは短いレアの手紙に目を走らせると、眉間に皺を寄せて、はーっと大きく息を吐きだした。
「この手紙の字はレアの字じゃない」
「え?」
ローズは目を丸くした。
驚くローズの額をこつんと指先で小突いて、ラファエルが言う。
「君はレアの字を見慣れていないからわからなかったのかもしれないが、震えていてもこれはレアの手によるものじゃない。まあ、今あの部屋にいた男たちを取り調べているだろうから、そのうち犯人の報告があるだろうがな。……だが、問題はそんなことじゃない」
ラファエルはずいっと顔を近づけると、至近距離でローズを睨みつけた。
「君は、向こう見ずにもほどがある!」
「ごめんなさい!」
怒られてローズが反射的に謝ると、ラファエルがまたため息をついた。
「君を一人にしておいた俺が間違っていた。これからはもっとしっかり見ておく必要があるようだ。少なくともこの船に乗っている間、一人で部屋の外へ出歩くことを禁ずる。俺か侍女か、もしくは俺の護衛の誰かに声をかけて、一緒に行動するように。いいね」
「……はい」
しゅん、とうつむくと、ぐしゃりと手紙を握りつぶしたラファエルが、それを背後に放り投げて、ぎゅっとローズを抱きしめた。
「はあ。君が一人で三等客室へ向かったと報告を受けたとき、どれだけ心配したかわかるか?」
「……ごめんなさい」
まさかラファエルがこんなに心配するとは思わなかった。
苦しいくらいに力のこもった彼の上の中で、ローズはそろそろと顔をあげる。
ラファエルは怒っている。だが、どうしてだろう、怒られているのに少しだけ嬉しいと思う自分がいる。
そーっとラファエルの肩口に頭を預けてみる。ラファエルはまだ腕を離さない。誰かにこんな風に抱きしめられたのははじめてだ。でも、ドキドキと胸がうるさいのは、はじめて抱きしめられたからではなく、きっと相手がラファエルだから。
聞こえてくる少し早い鼓動は、ローズのものだろうか、ラファエルのものだろうか。
なんだか永遠にこのままでいたいような気持になって、ローズが目を閉じたそのときだった。
コンコンと扉を叩く音が聞こえて、ローズはハッと顔をあげる。
ラファエルは小さく舌打ちしてローズを解放すると、肩越しに扉を振り返った。
ラファエルの誰何に、無言で部屋の扉を開けたのは、モルト伯爵だった。
「取り込み中だった?」
「見ればわかるだろう」
「それは失礼。だけどこっちも終わったから、その報告に来たんだよ」
モルト伯爵がローズを見てにやにやしながら言えば、ラファエルは額を押さえて息をついた。
「……すっかり忘れてた」
「おい。一応まだ婚約者なんだから、どうでもいいことみたいに言うな」
モルト伯爵が苦笑して、くるりと踵を返した。
「部屋はローズ王女が使っていたところだ。泣きわめいてうるさかったんで、睡眠剤で眠らせ、見張りをつけているから、落ち着いたら来いよ」
何の話だろう。ローズが首を傾げていると、モルト伯爵に気のない返事をしたラファエルが、嘆息しながら言った。
「レアを捕えた。どうする? 会いたい?」
ローズは大きく瞠目した。