罠 1
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「ふふ、ふふふふふ……」
彼女は、虚ろな目をして笑っていた。
「あの女のせい、あの女の……、あいつさえいなければ……」
笑いながら、うわごとのように呪いの言葉をくり返す。
壊れたように笑い続ける彼女は、ことり、と近くで音がしたのを聞いて、顔だけをそちらへ向けた。
鉄格子のはまった扉の奥には、一人の男が立っている。
どうやら罠にかかったらしい。
女はドレスに縫い付けられていた飾りの小粒のルビーをちぎり取って、鉄格子に向かって放り投げた。
「壊して。徹底的に。わたくしをこんな目にあわせた報いを、受けさせてちょうだい」
そうすれば、この特大のブローチをあげるわ。
女は胸元に光る金のブローチを外し、男に向かって見せびらかしながら、また笑った。
☆
監視対象が動いたと報告を受けたのは、昼すぎのことだった。
レドンド子爵から報告を受けたラファエルはすぐに船を降りて見張りをつけていた宿へ向かおうとしたが、彼はその前にサービス係に呼び止められた。
そのサービス係の顔には見覚えがあった。レアの足取りを追う際に、二階に降りる姿を見たと報告してきた男だ。
急いでいるからあとにしてくれと言いかけたラファエルだったが、サービス係の表情を見て考えを改めた。
なんだか不安そうな顔をしているが、何かあったのだろうか。
胸騒ぎを覚えて眉を寄せたラファエルは、サービス係の報告を聞いて息を呑んだ。
「ローズが⁉」
ローズが、三等客室に泊っている知り合いを訪ねて行ったという。だが、城でほとんど軟禁状態にあったローズに知り合いがいるとは思えない。
「三〇七七号室に行くと言われていたのですが、調べたところその部屋に泊っているのは男性客ばかりでして……それもその、あまり品のよさそうな方ではなかったもので」
部屋を訪ねるのは気が引けたのでラファエルに確認しに来たという。
ラファエルはさっと表情を強張らせると、そばにいたセドックを振り返った。
「俺はローズのところに行く! あとは任せていいか?」
「了解。大丈夫だろう。お姫様一人を捕まえるだけだからな」
セドックの答えを聞いた、ラファエルはひとつ頷くと、セドックとともにラファエルのそばにいたローパー公爵に護衛を連れて合流するように告げ、サービス係の案内で走り出す。
ローズが自ら三等客室の部屋を訊ねるとは考え難い。何かある。だが、それを考えるより先に、ローズの無事を確認しなければ。
ラファエルは不安と焦りで軋む心臓の上を押さえて、長い廊下を駆け抜けた。









