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レアの捜索 5

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 翌朝、ローズはミラと二人きりでレストランで朝食を取っていた。

 ラファエルは用事があるらしくて、朝は早々にどこかへ出かけてしまった。

 もしかして昨日、好きでもないオペラにつき合わせてしまったから嫌われたのかと思ってショックを受けたが、朝食を一緒にできないおわびにと、朝方手紙と一本の薔薇が届いたのでひとまずほっとした。嫌われたわけではなかったようだ。


「船の上の薔薇はとても高価ですのに、殿下はよほどローズ様が気になられるのですね」


 ミラがくすくすと笑いながら言った言葉が、まだ耳に残っている。

 プリンセス・レア号には小さな温室があり、人々の心を和ませるために花を育てているらしい。その花の一部を販売しているそうだが、数が少ないためか非常に高価で、陸地で購入する十倍以上もの値段がするそうだ。特に薔薇は、桁が二つくらい違うらしい。


 せっかくだからと、ミラがその薔薇をドレスの胸もとにつけてくれようとしたが、できるだけ長く楽しみたいので丁重にお断りして、サービス係から一輪挿しを借りてテーブルの上に生けている。

 だって、高かろうと安かろうと関係なく、誰かに花をもらったのははじめてなのだ。花なら城の廊下にいくらでも飾られていたし、ミラがどこかから入手して来た花を城の部屋に飾ってくれることもあったのだが、誰かからもらうだけでこんなに嬉しいものだとは知らなかった。


「レストランははじめて入りましたが、なかなかよいものですね」


 ローズが船室で食事を取るので、ミラもローズに合わせて部屋で食事を取っていた。ラファエルがいないのにレストランに来たのは、ミラにもレストランの食事を堪能してほしかったからだ。ルームサービスとはメニューが違うし、なにより、華やかな感じがして、部屋で取る食事とは違った高揚感がある。

 朝食のメニューは一つだけで、席に着くと飲み物だけ聞かれて、すぐに食事が運ばれてきた。


 トマトソースのかかったスクランブルエッグとスープとパン、それからマッシュポテトが運ばれてくる。パンは三種類から好きなだけ選べるスタイルで、ミラは全部食べると言って三種類とも皿に乗せてもらっていた。ローズはさすがに三個は食べられそうになかったので、二種類ほど皿に乗せてもらう。

 ミラが念のために毒見をするというから、一口ずつ食事を食べてもらって、ローズはスープに口をつけた。城ではいつも冷めた食事ばかりだったから、あたたかいものが食べられるのが嬉しい。


 ミラとのんびりと朝食を楽しんでいると、離れた席に昨日のオペラ俳優が座っていることに気がついた。

 確か、ポール・ローゾンという名前の俳優だ。レストランでも、一等客室と二等客室で席を分けられていて、ポールがいるのは二等客室側だったから距離は離れているのだが、すらりと高い身長の黒髪のオペラ俳優はそれなりに目立つ。たぶん間違いではないだろう。


「ねえ、ミラ。あそこにポール・ローゾンがいるわ」

「え⁉ どこですか⁉」


 ミラががばっと勢いよく振り返った。ミラはこれでなかなかミーハーなので、有名なオペラ俳優を一目見ようと必死だ。


「ほら、あの奥の席」

「まあ、本当! お願いしたらサインをいただけるでしょうか……?」

「うーん……、お連れ様がいるから、遠慮した方がいいんじゃないかしら?」


 ポールの席には、彼と同じ黒髪の女性が座っていた。ミラが残念そうに肩をすくませる。


「本当ですわね……。恋人がいるなんて知らなかったですわ」

「そうがっかりしないで。でも……、彼の席にいる女性。どこかで見たことがある気がするわね。彼女も女優さんなのかしら」


 昨日のオペラに出ていただろうかと思い出そうとするも、思い出せない。

 ミラが笑った。


「まさか。違うと思いますよ。だって美人じゃありませんもの」

「ミラ、失礼よ」

「そうはおっしゃいますが、オペラ俳優も女優も、顔が資本ですから。遠くからですが、肌もあまりお綺麗ではありませんし、ぱっとしない顔というか……。髪はとてもお美しいとは思いますけど」


 ミラの言う通り、ポールの席にいる女性の髪は艶々と輝くように美しかった。だが、それ以外は確かに、平凡な顔立ちをしている。


(でもやっぱり、どこかで見た気がするんだけど……どこだったかしら?)


 思い出せないのだから気のせいなのかもしれないが、妙に気になるのは何故だろう。

 人の顔をいつまでもじろじろ見ているのは失礼なので、視線をはずすも、脳の隅っこに引っかかって離れない。

 ローズがうーんと首をひねっていると、レストランにラファエルの友人であるローパー公爵とエンドラン侯爵がやってきた。二人はこれから朝食だそうだ。


「おはようレディたち。隣いいかな? 今日の朝食はどう?」


 ローパー公爵がにこやかに訊ねてきたので、「おいしいです」と笑みを返す。


「ふふふ、君は本当に純粋に笑うね」

「殿下がレッドリストというだけのことはある」


 エンドラン侯爵も笑って、給仕に朝食とあわせてコーヒーを二つ頼む。そして、食事が運ばれてくると、思い出したように言った。


「そう言えば殿下が、昼から予定が開くから、食後は部屋で待っていてほしいと言っていたよ。どうやら君が一人で出歩くのが心配で心配で仕方ないみたいだね」

「あのラファエルがねえ」


 ローパー公爵が喉の奥でくつくつと笑う。


「いやいや、これは一生揶揄えそうだな」

「まったくだね」


 ローズはどうして二人がそんなに楽しそうなのかがわからず、きょとんと目をしばたたいた。


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