レアの捜索 4
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オペラが上演される劇場は、二階の船尾側にあった。
扇状に席が置かれている劇場は、二階部分も設けられていて、そこは個室になっている。
ラファエルはその個室の一つをすでに予約済みで、ローズはラファエルとその個室に入った。
モルト伯爵たちはオペラを見ないというので、四人が座れる個室の中に、ラファエルと二人きりだ。
オペラグラスを渡されたが、はじめて使うものなので戸惑っていると、苦笑したラファエルが使い方を教えてくれる。
「君は本当に何も知らないな」
「すみません……」
「責めているんじゃない。ただ、危なっかしいなと思うだけだよ」
そんなことははじめて言われた。ローズは城の一室に閉じこもるようにして生きてきたので世間知らずだ。そのことを責められることはあっても「危なっかしい」と言われたことは一度もない。
「まったく、君のように目を離せない存在にあったのははじめてだよ」
そのセリフは実に不思議だった。ローズの持つ未来の記憶では、ラファエルはローズを一顧だにしないのに。
(そもそも、こうして殿下と一緒にいること自体がおかしいんだけど……)
どうして彼はローズに親切で、ローズの世話を焼いてくれるのだろう。
レアは記憶の通り失踪した。だが、未来は同じ道をたどる用で違ってきているのだろうか。ならば、この先、レアは無事に見つけることができて、ローズは――
(わたしは、どうなるのかしら?)
ふと、思った。
頭の中にある未来の記憶では、予定通り時間が進めば、ローズはラファエルの冷遇妃として塔に閉じ込められて生活することになっている。
だが、そのローズとラファエルが結婚する未来がなくなった場合、ローズにはどのような運命が待ち受けているのだろう。
よく考えてみると、冷遇妃の未来が消えても、ローズの生活が改善するわけではない。結局、両親や兄弟たちから疎まれて、城の中に閉じ込められるようにして生きていくのだろうか。それとも、どこかで適当な誰かに嫁がされるのだろうか。さっぱりわからないが、何故だろう、幸せな未来の想像がまったくできない。
(そっか……、結局どうあっても、わたしは同じような運命をたどるのかも)
それが、ラファエルの妃かそうでないかの違いだけで、大差はないのかもしれない。
ならば、ローズがしようとしていることは無駄なことではないのか。どこに行こうと冷遇されるだけの未来が待っているのならば、別にラファエルのそばでもいい。そんな風に考えてしまった自分にローズ自身が驚いた。
だって今のラファエルは優しいから、もしかしたら冷遇妃にも月に一度……半年に一度は会いに来てくれるかもしれない。
「ん? どうかした?」
ラファエルがローズの目元に触れながら訊ねてきたから、ローズは小さく首を振った。ラファエルの手が離れて、代わりに一本の睫毛を見せてくれた。目尻についていたらしい。
「目に入らなくてよかったね」
そんな風に笑ってくれるからだろうか、ローズの胸が痛くなった。
レアを見つけて未来を変えたいと思っているのに、一瞬でもレアは見つからなくてもいいのではないかと考えた自分が優柔不断すぎてあきれる。
レアが見つかれば、ラファエルは離れていく。
もう彼が、ローズの世話を焼くことはないだろう。
それを淋しいと思うのは、彼のそばが居心地がよすぎるかもしれなかった。
ミラとその母以外、誰もローズに興味を示さなかったのに、彼はローズを見て、優しくしてくれるから。
「ああ、ほら。オペラがはじまるみたいだ」
ラファエルに促されてステージに視線を向けると、少しずつ照明が落とされていくところだった。上演がはじまると、ステージだけが照明に照らされて、観客席の照明は落とされるのだ。
「このオペラは身分違いの恋のストーリーなんだ。平民の男が王女に恋をして、いくつもの難関を乗り越えて王女と駆け落ちをするんだよ」
「ロマンチックですね」
「そうかな。ああ、オペラではそうかもしれないけど、現実はそうはいかない」
「どうしてですか?」
「よく考えてみるといい。王女と駆け落ちをして、その男は幸せになれるだろうか? 一生逃げ続け、人の目を気にして、捕えられて斬首台に登らされる恐怖と戦い続けるんだ。ひとところにいつまでもいられないだろうから、まともな仕事に就くこともできない。王女は苦労知らずの贅沢三昧の日々を送っていたような人間で、貧乏生活には慣れていない。そのうち破綻するに決まっている。そして、もしかしたら王女は国に帰ることが許されるかもしれないけれど、男は斬首刑になりたくなければ、一生逃げ続けなくてはならない。死ぬまでね」
「……それは、悲しすぎます」
「ふふ。夢を潰してしまったかな? でもそんなものだ。現実なんてね。だから、この物語は物語だから美しいんだよ。だから、憧れるのかな。……さあ、上演の時間だ」
ラファエルが薄い笑みを浮かべてオペラグラスを目元にあてる。
ローズもラファエルにならってオペラグラスを覗き込むと、ステージ上では主役の男優と王女役の女優が知り合うシーンからはじまった。
主役の男優の名前はポール・ローゾンというらしい。事前にミラにラファエルから買ってもらったオペラのパンフレットを見せたところ、グリドール国出身のなかなか有名な俳優らしかった。
お忍びで城下に降りていた王女は、ポール演じる平民の男と恋に落ちる。けれどもそれは身分違いの恋で、王女にはすでに婚約者がいた。しかし王女の恋煩いは日に日に大きくなり、こっそりと平民の男と逢瀬をくり返すようになる。そしてある時、男は王女に駆け落ちをして幸せに暮らそうと告げるのだ。
有名な俳優というだけあって、ポールの演技は作品にのめり込ませるパワーがあり、ストーリーも演出もとてもロマンチックなのに、先ほどのラファエルの言葉が脳裏をかすめるからか、どうにもローズはこの先の二人の未来が気になって仕方がない。
先ほどのどこか皮肉めいたラファエルの言葉を思い出すたびに、彼はこのオペラが嫌いなのではないかと思えてきた。
もしそうならば、ローズを楽しませるために無理をしてくれたのだろうか。
ローズがオペラグラスを外してラファエルを見れば、彼はステージではないどこか別の場所にオペラグラスを向けていた。
やはり、オペラが楽しくなかったのだろう。
ローズはしょんぼりしたが、上演途中で帰るわけにもいかない。
再びステージを見れば、ポールが両手を広げて王女を抱きしめていた。
「ああ、僕は一生君を離さない!」
オペラ俳優のよく通る声が響き渡る。
ローズは幼いころ、彼のような、いつかローズを城から連れ出してくれる素敵な男性と恋に落ちることを夢見ていた時期があった。城で働く誰もが……それこそ、国中の誰もが、出来損ないの王女であるローズに冷淡なのだと理解したあとは、そんな夢も抱かなくなったが、そんな希望を抱いていた時期もあったのだ。
(世の中って……、残酷なのね)
未来さえ変えればもしかしたら幸せになれるかもしれないと考えたローズは、もしかしなくとも、ものすごく愚かだったのかもしれなかった。
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