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レアの捜索 3

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 ローズは船のレストランで食事をしたことがない。

 部屋の外へ出るなと父王から厳命されていたため、食事はすべて部屋に運んでもらっていた。レストランは二階の船首側にあるが、そのレストランは一等客室と二等客室用で、レアたちも姿を現す可能性が高かったため、遭遇しては危険だからだ。


 ローズがレストランで食事をしたことがないと言えば、ラファエルは夕食をレストランで取ることに決めた。

 ラファエルのかつての学友たちも何人かこの船に乗っているそうだが、基本的にそれぞれが自由行動をしていて固まって行動をすることは少ない。だが、ローズがレストランに行くと聞くと、モルト伯爵をはじめ、エンドラン侯爵子息、ファーブニール伯爵令息、レドンド子爵、ローパー公爵と、船に乗っているラファエルの同窓すべてが同席すると言い出した。


 ちなみに、モルト伯爵はチャールストン公爵令息で公爵家の跡取り息子であり、家督を継ぐまでチャールストン公爵家が持っている爵位のモルト伯爵を名乗っているそうだ。レドンド子爵も同様にコックバール公爵家の子息らしいが、こちらは三男で、早々にコックバール公爵家が持っている爵位を譲り受けて独立したという。ローパー公爵とあわせて、この三人はいずれもラファエルの従兄だったり、はとこだったりと血縁関係があるらしい。


「へえ、セドックの言うことは本当だったんだな」


 レドンド子爵がローズの顔をまじまじと見つめながら驚いたように言った。セドックというのはモルト伯爵のことだ。セドック・チャールストン・モルト伯爵というらしい。


 モルト伯爵の希望でローズとラファエルを含め、全員が同じテーブルについている。この全員が座れる大きなテーブルはなかったのだが、さすがは王太子とそのご一行というところか、ローパー公爵がレストラン側に一言いえば、あっという間に四人掛けのテーブルを三つ連結させて、窓際の一角に特別スペースを作ってしまった。

 みながみなじろじろと見つめてくるのでローズは少し居心地悪くて、黙って給仕から受け取ったメニューに視線を落とす。


 ラファエルは機嫌が悪そうだ。憮然とした面持ちで、頬杖をついていた。

 窓の外は水平線上に濃い夕日が浮かび上がっており、空のてっぺんに行くにしたがって、ローズの瞳のようなタンザナイト色に変わっていっている。

 ラファエルに誘われたオペラは、あと一時間半後にはじまる予定だ。


「メインは決まった?」


 ローパー公爵がにこやかに訊ねてきた。ローパー公爵はラファエルの従兄で、王弟の息子だという。

 夕食はメインだけが選択制で、あとはすべて同一だ。メインは牛と鹿、ロブスターの三択である。ローズがロブスターと答えると、ほかの全員はすでに決まっていたようで、ローパー公爵が給仕を呼んだ。


 メインを告げたあと、給仕はすぐに前菜を運んできた。食前酒の、細いグラスに注がれたアイスワインも一緒である。

 真っ白なテーブルクロスの上に人数分の前菜とワインが並ぶと、エンドラン侯爵子息が立ち上がった。


「それでは、我が旧友の新たなる門出を祝して」

(新たなる門出?)


 何のことだろうと首を傾げている間に、全員がグラスを持ち上げたので、ローズも慌ててグラスを手に持つ。カチンと小さな音を立ててグラス同士が合わさった。誰かとこうしてグラスの口元をあわせるのははじめてで、ローズはどきどきしながら、このあとどうすればいいのだろうかとラファエルを見ると、彼がローズを見ながらグラスに口をつけたので、飲めばいいのかと一気に飲み干す。


(甘い……!)


 こってりとした甘さが口いっぱいに広がった。度数もなかなか強かったようで喉の奥が熱くなったが、それよりもはじめて飲んだアイスワインの美味しさにふにゃりと頬を緩ませる。

 ローズがグラスをおくと、全員の視線がこちらに集まっているのがわかった。

 きょとんと首をひねると、隣に座っているラファエルが苦笑する。


「ローズ、飲み干さなくてもよかったんだよ」


 見れば、ラファエルのグラスにはまだ半分ほどワインが残っていた。


「これ、それなりに強いからね。ほら、水を飲んでおいた方がいい」


 そう言って、グラスに入った水を差し出してくれる。

 ローズが素直に水を飲んでいると、ファーブニール伯爵令息が声を出して笑った。


「なるほど。セドックの言う通りだ。殿下の機嫌がよくなるわけだな」

「ラファエルは女に夢を見すぎだからな」


 ローパー公爵がくつくつと笑いながら、前菜の温野菜サラダを口に入れた。


「まあ、夢を見たくもなるだろう。強烈な姉上がいるからな」


 これはモルト伯爵。


「婚約者もあれだったし」


 レドンド子爵が肩をすくめる。

 何の話をしているのかわからずにローズが首をひねっていると、ラファエルが気にしなくていいと言って、友人五人を睨みつけた。


「ローズに余計なことを吹き込むなよ」

「わかってるって」


 エンドラン侯爵が笑って頷いた。

 前菜を食べ終わると、次の料理と一緒に飲み物をどうするか訊かれたので、ローズはオレンジジュースを頼む。ラファエルが先ほどのアイスワインは度数が高いと言っていたから、これ以上はアルコールを口にしない方がいいと思ったからだ。ローズが酒を飲んだことと言えば、たまにミラが差し入れてくれるあんず酒を飲むくらいで、量を飲んだことはない。酒の失態は無様だと乳母からも聞いたことがあるので、失態を犯す前にやめておいた方がいいだろう。


「それで、例の件はどうなっている?」


 ラファエルがモルト伯爵に訊ねた。

 例の件とはなんだろうと疑問を持っていると、モルト伯爵がちらりとローズを見て答える。


「もうちょっとかな。さすがに薬の用意がなくてね。船医から明日わけてもらうことにしている」

「そうか、フイグ港に寄る前に終わらせろよ」

「それはもちろん。で、殿下はどうするつもりなんだ?」


 ラファエルが運ばれてきた口直しのシャーベットをローズの口元に近づけながら笑った。


「そうだな……。見逃してやろうかと思ったこともあったが、状況によってはそれなりに報復させてもらおうと思っている」


 ラファエルの差し出したスプーンをぱくりとくわえたローズは、何の会話をしているのかはよくわからないがラファエルの機嫌が直ったらしいと、少しほっとしたのだった。


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