レアの捜索 1
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レアが消えたと言っても、船は海上にある。そのため、常識的に考えれば、彼女が船の中のどこかに隠れていることは明白だった。
スーリンたちがいなくなって、ラファエルからウィッグをはぎ取られたローズは、船の見取り図と睨めっこをしていた。
「三階から二階に降りる階段にはすべて警備員が立っているんですよね?」
「そうみたいだね」
「ということは、簡単には二等客室以下にはいくことはできない、ということでしょうか」
「どうだろう」
「二等客室に行けないのであれば、お姉様はまだ三階にいると考えていいのでしょうか?」
「そうなのかな」
「……殿下」
「ラファエル」
「……ラファエル様。やる気あります?」
ローズが船の見取り図から顔をあげてラファエルを睨めば、彼はにっこりと答えた。
「どう思う?」
ローズはちょっとだけムッとした。ローズは必死にレアを探そうとしているのに、ラファエルにはまったくやる気が見られない。
ローズがむっつり黙り込むと、ラファエルもさすがに悪かったと思ったのか、ローズの顔を覗き込みつつ謝罪してきた。
「ごめんごめん。そんなにむくれないで。そうだなあ、ローズの推理は悪くないけれど、何点か見落としがあるかな」
「……見落とし?」
「まずここ。三階から二階のレストラン降りる階段。ここに警備員が立つのはレストランを解放しているときだけで、夜……そうだな、少なくとも昨日の仮面舞踏会の時間帯はレストランは解放されていなかったから警備員はいなかっただろう。それから、ここの非常階段。ここにも警備員は立っていないね。もっと言えば、一等客室に泊まっている人間が二等客室以下に降りる場合、警備員に見られても咎められることはない。逆なら止められるがね。つまりは、一等客室に宿泊しているレアは、少なくとも、その身分を偽らない限りは自由に船内を歩き放題というわけだ」
「…………」
知らなかった。ローズはがっくりとうなだれる。
しょんぼりするローズの頭をよしよしと撫でながら、ラファエルは続けた。
「ではここから問題だ。レアは確かに船内を自由に歩き回ることができる。だが、一等客室のレアがあちこち歩き回っていれば非常に目立つし、警備員の記憶にも残る」
「つまり、警備員に訊けば教えてもらえるってことですか?」
「うーん。残念。ちょっと違うが……ふふ、もし君がレアと同じことをしても、すぐに捕まえることができそうだな」
「え?」
どうしてここでローズの話が出てくるのだろう。不思議な顔をすると、ラファエルはにこにこしながら続けた。
「あいにくとレアはあれでかなりずる賢いから、警備員の証言を利用して目くらましをすることはしても、自分につながるような証拠は残さないと思われる。すると、そこから考えられるのは、一等客室から二等客室以下に降りる際にはレアはそのままの姿で降りたかもしれないが、目的の場所に移動した後には、絶対に彼女は自身の姿を偽っているということかな。だから警備員に訊ねてもレアの足取りは追えないし、彼らの証言をすべて鵜呑みにして探せば、いいようにレアに利用されて、絶対に彼女のもとにはたどり着かない」
「……」
そこまでわかっているくせに、どうして教えてくれなかったのだろうか。
ローズがやっぱりむくれると、ラファエルは膨らんだローズの頬を指先でつつきながら苦笑した。
「助言してあげたのに、どうして拗ねるのだろう」
「……やる気が感じられません」
ローズが非難したが、ラファエルは飄々としたものだった。
「それはそうだ。なぜなら俺は別にレアが見つからなくてもそれでいいから」
「どうしてですか⁉」
「何故って? それは、レアがいなくても君がいるからだよ。むしろ俺的には、今の状況の方が多分に都合がいい」
ローズは全然よくない。
これでは話が違うとむーっと眉を寄せると、ラファエルがやれやれと嘆息した。
「怒らないでくれ。やる気は起きないが、もちろんレアの捜索はするよ? そうしないと君に嫌われそうだから、もちろんレアを見つける気ではいる。……そのあとのことはどうにでもなるからね」
「はい?」
「いやいや、こちらの話。さて、レディ、これからどうやって行動しますか?」
ローズは船内の見取り図と、それから航海の予定表を睨めっこしつつ答えた。
「三日後、セルド国のフイグ港に寄港します。姉が本気で逃げるつもりなら、ここから港に降りるかもしれません。その前に、船内をくまなく探します!」
フイグ港には四日間停泊する。その間の乗船下船は自由で、出港時にわざわざ乗客の点呼は行わない。もしレアが本気で逃げるつもりならば、港から降りてそのままどこかに逃げてしまうだろう。そうなっては捜索が困難になる。
ローズが言えば、ラファエルはローズの口元にフロランタンを押しつけながら頷いた。
「うん。まあ、一応は合格点かな」









