レアの侍女と冷徹な未来の国王
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「本当にその格好で行くと?」
ラファエルは、ミラに頼んで用意させたウィッグをかぶったローズを見て、ものすごく嫌そうな顔をした。
ローズがかぶったのは、船に乗って前髪を切ったことを隠すためにミラが用意したウィッグだ。これをかぶって前髪を元の長さに偽装すれば、誰もローズが髪を切ったことに気づかない。
「お姉様の部屋に行くんですよね。だったら、これがないとだめなんです」
ラファエルの提案を受け入れ、レアの部屋に移ることにしたけれど、前髪を切った姿でレアの連れてきた使用人の目に出ることはできない。
部屋を移ったのみならず、前髪を切って顔をさらしたことが知られれば、ラファエルがかばってくれたとしても父王は怒り狂うに違いなかった。父は、自分に似ていないローズの顔を、人生の最大の汚点のように憎んでいる。
「せっかく綺麗な瞳なのに、隠すなんてもったいないだろう?」
ラファエルが心底不満そうに言うから、ローズはびっくりした。
「……綺麗な瞳?」
彼は何を言っているのだろう。綺麗なのはラファエルのようなザクロ色の瞳や、レアのような翡翠色の瞳で、ローズのタンザナイト色の瞳は違う。母である王妃もローズの瞳を見るたびに嫌な顔をしてローズの頬をぶち、その汚らしい夕闇の色を見せるなと怒鳴る。
「綺麗じゃないか。青みの強い紫というのだろうか。見ていると吸い込まれそうになる。君の藍色の髪も綺麗だが、その瞳の色は本当に美しいと思うけど」
真顔でそんなことを言われたからか、ローズの顔が真っ赤に染まった。瞳を綺麗だと言われたのははじめてだ。隠さなければならないほどに汚い色だと言われ続けてきた瞳が綺麗だと――、信じられない気持ちの方が大きいが、純粋に嬉しいとも思ってしまう。
ローズが照れて俯けば、ローズの支度をしていたミラが顔をあげて勢いづいた。
「殿下! その通りでございます! ローズ様の瞳の色はとっても綺麗なんです! もっと言ってやってください!」
「おや、君とは仲良くなれそうだな。ミラだったっけ」
「はい。ミラ・グローブと申します」
「そうか。覚えておこう」
ラファエルは機嫌よく頷き、ローズがかぶったウィッグの前髪に触れた。
「だからこんなもの取ってしまいなよ」
「だ、だめです!」
絶対に奪われてなるものかと頭を押さえるローズに、ラファエルがやれやれと肩をすくめた。
「わかった。では、部屋に移動するまでは認めよう。だが、そのあとは外してもらうからね」
「……でも」
「要するに、君が髪を切ったことをグリドール国王に知られなければいいんだろう?」
「そう、ですけど……」
「ならば何も問題ない」
何が問題ないのだろう。レアの部屋にはレアの使用人たちもいるのに。
ローズは首を傾げつつ、荷物をまとめ終わったミラとともに、ラファエルに連れられて選手側のレアの部屋へと向かった。
ラファエルがローズをつれてレアの使っていた部屋へ向かうと、部屋にいた使用人たちは一様に嫌な顔をした。
「ラファエル王太子殿下、これはいったいどういうことでしょう」
使用人の中から代表してレアの侍女頭を務めているスーリンが眉を顰めつつ口を開く。
スーリンは、大臣も務めているアドルグ伯爵の娘だ。レアが十五歳で成人した時からそばにいて、ローズをひどく嫌っているらしい。ミラから「スーリンには近づかないでくださいませ、何をされるかわかったものではありません」と言われているので、よほど嫌われているのだろう。
「そのようなものを、レア様のお部屋に入れられては困ります」
「なるほど、『そのようなもの』ね」
ラファエルの顔から表情が消えた。
ローズがびくりと肩を揺らすと、ラファエルがそっとローズの肩を引き寄せる。
「ローズはグリドール国の第二王女で、レアの妹のはずだが、ただの侍女が王女に向かって言っていい言葉ではないな」
するとスーリンはにこやかに答えた。
「陛下が娘と認めない方に払う敬意を、わたくしどもは持ち合わせておりませんので。殿下はご存じないかもしれませんが……」
「なるほど、君たちはレアは王女と認め、ローズは王女と認めない。レアには忠誠を誓うけれど、ローズに誓うものはなにもない、そういうことでいいかい?」
「もちろんでございます。わたくしどもはレア様にお仕えしております。すべてはレア様とともに。それですので、そちらの方を連れてこられては困ります」
「言い分はわかった。ではレアの使用人である君たちに訊くが、今朝方、レアはこの手紙を残して失踪した。すべてレアとともにという心根で働く君たちだ、レアの行動を知らないはずはないね。つまり君たちは知っていてレアを逃した重罪人であるということで間違いないかな?」
さっとスーリンの表情が変わる。
スーリンのみならず真っ青になる使用人たちを見渡して、ラファエルはにっこりと隙のない笑みを浮かべた。
「もし君たちが知らないにしても、レアの使用人である君たちはそれを『知らない』だけで罪になるわけだが……、ああ、優秀な君たちならばもちろん知っているだろうね。ということで、重罪人である君たちをこの部屋に置くことはできないから、これで君たちは『そのようなもの』であるローズに仕える必要もない。よかったね」
ローズは思わず、半歩うしろで控えているミラを振り返った。ラファエルが何を言っているのかわからなかったのだ。
振り返った先にいるミラはにっこりと口端を持ち上げて、すごく機嫌がよさそうだった。何かいいことがあったらしい。
ローズが首をひねっていと、ラファエルが背後を振り返り、自身の護衛兵士に告げた。
「連れていけ。ここにいないレアの護衛兵士をふくめ、全員だ。船長にはすでに話はつけてある」
「は」
護衛兵士たちに捕えられたスーリンはキッとローズを睨みつけながら怒鳴った。
「後悔なさいますわよ、殿下!」
ラファエルは微笑んで答えた。
「そうだろうか。もしこのままレアが見つからなかったら、ローズはマルタン大国の王妃で、君たちはレアが消えた罪でおそらく斬首台だ。事の重大さを、少しは理解したまえ」
どうしてだろう。ラファエルは微笑んでいるのに、その表情や口調に、未来の彼を重ねてしまって、ローズはぞくりとした。
笑っているのに、ちっとも機嫌がよさそうに見えない。
スーリンたちが連行されていくと、ラファエルがミラを振り返って言った。
「これでうるさいのがいなくなったわけだが、ローズの身の回りの世話は君一人でも大丈夫かな?」
必要ならばこちらで用意しようというラファエルに、ミラが満面の笑みで答える。
「もちろんです。ローズ様はレア様と違ってつつましやかなお方でございますので、今までわたくし一人で何ら問題ございませんでしたから」
ミラが胸を張って答えると、ラファエルはその答えに満足したようで、サービス係にティーセットを頼むとローズをソファに誘った。
「疲れただろう? 休憩しよう」
ラファエルはそう言うが、ローズは部屋を移動して来ただけで、何も疲れていない。
ついさっきの部屋と同じようにテーブルの上に紅茶が用意されてお菓子が並べられるのを見て、ローズはどうして彼はローズにお菓子を与えたがるのだろうかと思ったが、余ればミラも食べられるのでよしとしよう。
ローズは当然のように隣に腰を下ろしたラファエルを見上げた。
「あの、殿下」
「ラファエル」
「……ラファエル様。スーリンたちはいったいどこへ……?」
部屋から追い出されて、彼女たちはどこに宿泊するのだろう。気になって訊ねると、ラファエルはローズの口にショコラケーキを押しつけながらさわやかに答えた。
「そうだな。この船の中の牢屋かな?」
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