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プロローグ

 いつも姉と比べられていた。

 それこそ、物心つくときにはすでに城で働く使用人の陰口のみならず、両親からも冷遇されていた確信がある。


 顔立ちも十人並みで、何をやらせても平凡な第二王女ローズ。

 美しく気品があり、多彩な才能に溢れる第一王女レア。


 グリドール国の二人の王女の噂は、下町の子供ですら知っている。

 グリドール国の国王と王妃は、ともに優れた容姿をしている。王は賢君と言われ、王妃は才能豊かで何事においても挫折知らず。その、人生において一度も失敗したことのない王妃にとって、唯一の失敗が、ローズを産んだことだとまことしやかに噂されているのだ。


 そしてその噂は、あながち嘘でもない。

 王子二人に王女二人。その末の子供であるローズが生まれたとき、王妃は国王に不義を疑われた。

 ローズがあまりにも平凡な容姿をしていて、父と母のどちらにも似ていなかったからだ。


 王妃は全力で否定したが、以来、王と王妃の間には隙間風が吹く結果となり、それをもたらしたローズのことを、王妃はひどく疎んじている。

 当然、自分の子だと頑なに認めようとしない国王も、ローズの存在を頭から否定し、顔を合わせても挨拶一つ交わそうとはしない。


 両親がそんなだからか、兄や姉たちもローズのことを兄妹だとは思っておらず、ローズは幼いころから肩身の狭い思いをして育った。

 さすがに諸外国への外聞があるのか、ローズは城に一室賜っていたが、その部屋も城の端っこで、食事の席ですら両親たちと同じ席で取ることは許されなかった。


「姫様。お荷物はこれでよろしいでしょうか?」


 ローズの唯一の侍女であるミラが旅行カバンに詰められた衣服を見せながら訊ねた。

 ミラと彼女の母は、ローズのたった二人の理解者だ。


 ミラの母はローズの乳母で、生まれてすぐにローズを視界にも入れたがらなかった王妃に変わり、ローズを育て上げた女性だ。そのため、ほとんど実の娘と変わらないだけの時間を共に過ごしたからか、ローズのことを実の娘と同じように可愛がってくれた。ミラもそんなローズと姉妹同然で育ったから、周囲が何を言おうとローズの味方でいてくれる。

 ローズはぎっちり荷物の詰められた旅行カバンを見て、憂鬱なため息をついた。


(……ついに来てしまったわ)


 ローズは三日前に十七歳になった。両親が誕生日を祝うはずもないので、ミラと乳母の三人で、ミラの手作りケーキを食べただけの誕生日。

 ミラと乳母の「おめでとうございます」という言葉を胸に、その日、幸せな眠りについたローズは、不思議な夢を見た。


 それは、今から十年先の未来の夢だった。

 そして、次の日の朝飛び起きたローズは、真っ青になったのだ。

 どうしてなのかはわからない。

 誕生日から一夜明けたローズの記憶には、この先十年の記憶があった。

 まるで、未来から過去に戻って来たかのような感覚に混乱し、ミラ相手に訳もなく、現在の年号を何度も訊ねた。


(信じられない……、ここは過去の世界なのかしら。それとも変な夢を見ただけなのかしら。でも……夢にしてはおかしいわ)


 夢を見たのは僅か数時間のことだ。それなのに十年分の記憶があるのは、やはりおかしい。

 混乱し、やはり夢だったと片付けようとしたローズだったが、ローズの「この先十年の記憶」が確かであることを示す事件がその日の昼に起こった。


 そう、国王の遣いが部屋にやってきたのだ。

 同じ城に暮しながら頑なにローズを娘を認めようとしない国王は、用があっても会いに来ることはない。用があるときは国王の側近が伝言を持ってくるだけで、決まってそれはローズに逆らうことを許さない命令だった。

 王の遣いは、ローズに向かって淡々とこう告げた。


 ――二日後、第一王女レア様とともに、プリンセス・レア号に乗っていただきます。


 それを聞いた瞬間、ローズは全身に震えが走るのを感じた。

 プリンセス・レア号とは、姉のレアと、内海エベーレ海を挟んで南に位置するマルタン大国のラファエル王太子との婚約を祝い造船された、豪華客船である。

 それは、三等客室から一等客室まで、船室百五十を有する最新式の蒸気船で、つい先日処女航海を終えたばかりだ。


(……ああっ)


 ローズは王の遣いが帰ったのち、両手で顔を覆って膝をついた。

 プリンセス・レア号は、レア王女とラファエル王太子を乗せて、一か月のクルーズに出ることになっている。

 それは、今後のローズの未来に大きくかかわる出来事であり、ローズが夢だと信じ込ませようとした未来の記憶がまさしく本当だということの裏付けだった。


 そう。このプリンセス・レア号の航海を終えた頃、ローズは姉の婚約者であるラファエルと婚約することになる。

 そしてその先の未来、ローズを待っているのは、マルタン大国の冷遇妃として、たった一人ぼっちの絶望の毎日なのだ。


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