第7話 雑用係の別名は何でもやってくれる便利な人だよ? 知ってた?
「でーきた! こんな感じでどうかな?」
「「「…………」」」
獣人達の村、パヤックにやって来た私は、どうにか今後もこの村に置いて貰うべく自己アピールを始めた。
すなわち、これまで必死に磨き上げて来た雑用スキルをフル活用し、コルド達の住む村長宅をリフォームしてみたのだ。
「雑用係の一環でやってたことだから、本職の大工には及ばないかもしれないけど」
「いやいや、雑用ってかこれ……」
「もう、ほとんど建て替えちゃってる……」
「まだそう何時間も経ってないはずよねえ……というかこれ、家というよりもはや豪邸じゃないかしら……?」
コルド、シリル、サーナさんが、それぞれ呆然と私の成果物を見上げながら呟く。
まあ、確かに結構作り替えた部分は多い。壁や柱、家根なんてほとんど腐りかけだったから総取り替えだったし。
……確かにほぼ建て替えだね、うん。
でも、豪邸はちょっと言い過ぎだよ。まだ即席だから、精々豪商のお屋敷レベルだし。
「本当にすごいなお前、これが魔法か……」
「ううん、私は魔法を使えないから、全部魔道具と自前の技術の賜物だよ」
そう、当然ながら家一件の建て替えなんて作業、生身の人間が一人でやるには限界がある。
そこで活躍するのが、自分で作った魔道具の数々。《切断》、《浮遊》、《接着》みたいな簡単な魔法を大気中の少ない魔力で使えるよう、徹底的に燃費を向上させた品々を活用することで、このスピードを生み出しているのだ。
後は、ひたすらに慣れかな? ギルドにいた頃は、「市街戦を想定した魔法装備がうんたら~」って喚くギルド長の思い付き魔道具の試験をするために、少ない期間でちょっとした町を作らなきゃならないことが何度もあったから。
挙句、経費節減だなんだと本職の応援を最低限にして私にやらせてくるし……本当にアホかと思ったね。
「魔法が使えないのにこんなこと出来るのか!? すっげーなファミア……!」
でもそのお陰で、今こうしてもふ耳少年に尊敬の眼差しを向けられてるわけだし、まあ許してあげようじゃない!!
ふふ、やっぱり人間、こんな風に真っ直ぐ褒められたら嬉しいもんだね。もっと頑張ろうって気になってくるよ!
「俺にも出来るかな?」
「うん、私にも出来たからね、慣れればコルドだって出来るようになるよ」
「ほんとか!? じゃあ教えてくれ!」
「あの、私もいいですか? 私も、みんなの役に立ちたいです!」
「オッケー。でも、この家はひとまず作業も終わってるし……」
そう思いながら辺りを見渡すと、いつの間にやら村長邸の周りには人集りが出来ていた。
まあ、この村では珍しい……どころかきっと恨まれてすらいるだろう人間が、ボロボロだった家をあっという間に立派な一軒家に建て替えていったんだから、注目されて当然だよね。
「あのー、良かったら皆さんの家も直しますよ! 誰かやって欲しいって人はいますか?」
試しに問い掛けてみるも、返ってきたのは無言。どうやら、頼んでいいものかどうかみんな決めかねているらしい。
でも、即決で否定されずに迷っているってことは、みんなの心が揺らいでいる証拠。もうひと押しだ。
「すまないが……家根の修理など、して貰えるかの? 最近雨漏りが酷くてな」
すると、そんな集団の中から一人、狸獣人のお婆さんが真っ先にそう切り出した。
それを皮切りに、他の人達も次々に要望を口にしていく。
「実は、最近扉が上手く閉まらなくて困ってたんだ」
「狩りに使う槍が折れちまったんだが……直せたりしないか?」
「この前魔物の襲撃で柵の一部が壊されちまって……早く直さないとみんなが危ないんだ」
「オーケーオーケー、全部私にお任せあれ! その代わり……」
私がそう言うと、喧騒が一斉にピタリと止む。
何を要求する気なのかと警戒している獣人達に向け、私は精一杯人好きのする笑顔で要求を告げた。
「皆さんの名前、教えてください。私はファミア、今日からこの村の一員になる女です!!」
まだ正式決定じゃないけど、この際だからそう断言する。
反対されたらどうしようかと思ったけど、どうやらその心配は杞憂だったらしい。「そんなことでいいのか?」と首を傾げる獣人達に、私は大きく頷いた。
「まずは何より、皆さんと仲良くなりたいので!! 一人ずつ、順番に回らせて貰いますね!!」
そう、私の目的はここにいる獣人達の仲間に入れて貰い、もふもふに囲まれた理想のスローライフを実現すること。
そのためなら、これくらいの労働わけないよ!!
「じゃあ、よろしく頼もうかねえ」
「はい!!」
こうして、私は獣人達の仲間になるための、最初の一歩を踏み出すのだった。