第6話 とあるギルドマスターの野望
今回はギルドマスターリベイクの視点です。
「ふはははは! 笑いが止まらんなぁ!」
ワシの名前は、リベイク・ボンビーノ。由緒正しき伯爵家に連なる者であり、王都魔工師ギルドのギルドマスターを勤めている男じゃ。
そんなワシは、元より慈愛と博愛の精神溢れる人格者として評判の男だったのだが、今は更に機嫌が良い。それこそ、ここ数年は下げるばかりだったボーナスを久方ぶりに上げてやってもいいと思えるほどに。
「ファミア・キャンベル……いちいちワシに口答えする気に入らん奴じゃったが、最後にいい置き土産をしてくれたもんじゃ」
それもそのはず、ワシがあれこれと理由をつけて追い出したファミア・キャンベルの家から回収された様々な魔道具やその設計図を元に新たな魔法武器の開発を急がせたところ、騎士団……特にその上役に大層興味を持っていただけた。
この国の第二王子、オウザ・トル・セントフィリア。王位継承権第二位であり、名目上とはいえ王立騎士団の団長を務めるお方じゃ。
現王が年老いた今、次の王が誰になるかというところで、第一王子と政闘を繰り広げている真っ最中のあの御方は、切実に手柄を欲しておる。手駒である騎士団を使い、民へとアピール出来る華々しい戦果をな。
その功名心をくすぐる新装備となれば、飛び付かんはずがない。くくく、まさに読み通りじゃ。
「戦果を求めてオウザ殿下が戦いに出れば、当然消耗していく装備品の補充でワシら魔工師ギルドを頼るじゃろう。そうなれば、戦争特需でワシはウッハウハ! ボロ儲け間違いなしじゃ!!」
「その通り、流れは完全にワタクシ達にありますわ、リベイク様!!」
そんなワシの叫びに追従するのは、長年のビジネスパートナーでもある商家の女、ホリシィ・マネープリ。近年王国で急速に勢力を拡大している、マネープリ商会の実質的な支配者じゃ。
魔工師の仕事は多くの資材を使う以上、こうした商会との繋がりは不可欠。故に、まだマネープリ商会が小さな商店だった時から繋がりを持ち、今の関係を保っている。
「ふはは、お前も嬉しいか、ホリシィよ」
「ええもちろん。戦争が起きれば、多くの難民が溢れるのは間違いなし……そいつらを適当に丸め込んで奴隷として売り捌けば、莫大な利益が約束されたも同然! これが笑わずにいられませんわ!」
そう、マネープリ商会が急速に発展した裏には、そうした奴隷商としての悪どい稼ぎが大きな役割を占めておる。ワシも一枚噛んでおるので、立派な共犯者じゃ。
マネープリ商会の奴隷商売を黙認しつつ隠蔽に手を貸す見返りに、ワシの横領を誤魔化すための協力をホリシィが担う。そうして、互いに互いの弱みを握り、守り合っているのじゃよ。
「最近は、主力商品だった獣人共が"魔狼の森"に逃げ込んだとかで手に入りづらくなっていましたから、本当に助かりますわぁ」
「ああ、あの魔物だらけの危険地帯か。ふん、ロクな装備もなく、魔法も使えない野蛮人でありながらあんなところへ行くとは、やはり頭が足らん愚かな連中よ」
「全くですわ。あんなところで野垂れ死ぬくらいなら、素直に奴隷になった方が世のためだと分からないのでしょう」
嘆かわしいと頭を抱えるホリシィの言葉に、ワシはうんうんと何度も同意の頷きを返す。
ああいう頭の弱い連中は、ワシらのような力ある者に使われてこそ価値があるというのに、全く手間のかかることよ。
「いっそ、最初の進軍先を魔狼の森にするよう殿下に進言するのも悪くないかもしれんの。獣人共は愚かじゃが、体は丈夫で奴隷としての価値が高い。全滅する前に回収した方が良いじゃろう」
「ふふふ、獣人共を助ける正義の戦いというわけね?」
「おう、それじゃ、流石ホリシィは賢いのぉ!」
長年開拓が進んで来なかった魔狼の森の平定、魔物の脅威に怯えながら暮らす獣人族の救済。なんともバカな民衆が好みそうなフレーズじゃ、殿下も気に入ってくださるじゃろう。
「ふふふ、ありがとう。でも大丈夫なの? これだけお膳立てしておいて、魔物に負けましたなんてことになれば大変よ?」
「くくく、心配するな。そのための新装備じゃ」
ファミアが残した魔道具の多くは、ただのガラクタじゃった。
しかし、大気中の魔力を溜め込んで魔法を発動するというその機能は素晴らしい。色々と使い道がある。
「装備自体に魔力を溜め込み、着用者本人の魔力と合わせて解き放つことで、理論上は既存の魔法装備の二倍近い出力が出せるのじゃよ!!」
「二倍!? それは凄いわね。確かにそれなら、魔物なんて目じゃないかも」
「ああ。それもこれも、ファミアの奴が残した魔道具のお陰……全く、ファミア様々といったところじゃ」
「そんなに凄い子なら、追い出さずに飼い殺せば良かったのに。何か理由でも?」
「決まっておる。奴が頑なにこの技術で新装備を作ることに反対しておったからよ」
色々と理由はあるが、一番はそこじゃ。
口を開けばやれ装備の耐久性がどうの、溜め込まれた魔力による熱暴走がどうのと、わけのわからんことばかり。
技術的課題なぞ、ワシにかかればどうとでも越えられる。あれこれ理由をつけていたが、結局のところワシに手柄を奪われるのが面白くなかったんじゃろう。
「拾ってやった恩も忘れて手柄に固執するなど、いくら発想が良くても所詮は愚かな平民ということよ。素直にワシのために働いておれば追い出されることもなかったというのに、バカな奴だ」
「全くだわ。ほんと、世の中バカばっかりで嫌になっちゃう」
「然り、然り」
くくく、やはりホリシィは話が分かる。
世の中皆こやつほど賢ければ……いや、バカがいるからこそ稼げておるとも言えるし、痛し痒しか。
まあ、良い。
「とにかく、目障りで反抗的だったファミアは消え、その技術さえも今やワシの物。後は第二王子に取り入って王宮に食い込みさえすれば、ゆっくりとこの国を裏から支配していくだけ。ワシらの悲願は近いぞ!」
「ふふふ、楽しみだわぁ! ワタクシ、王宮の玉座で男共を侍らせて優雅にお茶を嗜むのが夢でしたの」
「ははは! それくらいいくらでも叶えてやる。権力も金も男も女も、全てはワシらの手の中じゃ!!」
「約束ですわよ? ふふふ、あはははは!」
「くはははは!」
さあ、後は新装備の完成を待つばかり。
現場の連中に設計図の作成を指示しておいたが、まだかのぉ?
今から楽しみで仕方ないわい!
「…………」
「あれ? お前マスタールームの前でどうしたんだ?」
「いや、頼まれてた設計図が出来たから届けに来たんだけどさ、ギルドマスター、また変な野望語りしてるみたいで入りづらいんだ」
「あー、またあの変なアレね、了解した。で、その野望とやらは実現しそうなの?」
「するわけないじゃん、見てみろよこれ」
「どれどれ……ってうわ、なんだこの無理のある設計。しかも想定出力高過ぎだろ、いきなり爆発しても知らないぞ。お前これマスターに言うのか?」
「言ったらファミアみたいに追い出されるだろ、言えるわけねえよ。どうせ俺達が使うわけじゃないし、このまま行くさ」
「あー、まあそうなるよな。ていうかさ、ファミアいなくなって仕事死ぬほどキツいのに、この上まだ入れるわけ? どうせ給料も上がらないのに、勘弁して欲しいんだけど……」
「言うな……まあ、さすがにマスターだってこんな酷い設計無理があるって自分で気付いてくれるだろ……多分」
「気付くと思うのか? あのマスターだぞ?」
「……無理だろうな」
「分かってるじゃねえか」
「「……はぁ」」
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
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