第4話 迷子のもふもふと仲良くなって、もふもふ村へいざ行かん!
本日四話目! 多分今日はラストです。
「ふう、ここまで来ればひと安心かな? 大丈夫?」
「あ、ああ」
「大丈夫……です」
熊の魔物から逃れるべく、全力ダッシュで森の中を駆けずり回った私は、適当なところで女の子を降ろして一息吐く。
男の子の方も、歩幅の違う私の走りにしっかりとついてこれたようで、息が乱れた様子もない。さすが獣人、中々体力あるね。
そんな男の子は、私が手を離すとすぐに女の子の元へ急ぎ、私を警戒するように背中に庇う。
「人間が俺達を助けて、どうする気だよ。人の町に連れてって売り飛ばす気か?」
おおう、警戒されちゃってるねえ。しかも、奴隷商か何かと勘違いされてるっぽい。
失敬な、あんなクソみたいな連中と一緒にされちゃ困るよ!
でも、獣人達からすれば奴隷商も私も同じ人間だし、これくらいは仕方ないのかな。私としては仲良くしたいし、何とか警戒を解いて貰いたいんだけど。
「どうもしないよ、私はただあなた達が困ってたみたいだから助けただけ。ほら、そこに実ってたリンゴだよ、食べる?」
出来るだけ無害さをアピールするように両手を見せつつ、さっき採ったばかりのリンゴを差し出す。古典的だけど、まずはご飯で釣ってみる作戦だ。
「え? う、うん……」
「こらシリル! 人間の出すもの食べちゃダメってお父さんに言われただろ!」
女の子が手を伸ばしてくれたけど、男の子に叱られてしまった。
むむむ、手強いね。
「でもお兄ちゃん、この人私達を助けてくれたんだよ? それに、精霊達も警戒してないし……悪い人じゃないよ」
「そう、なのか?」
でも女の子がそう反論すると、男の子の警戒が少し弱まった。
精霊? それって確か、大気中の魔力が自我を持って纏まった存在だっけ。人の感情に合わせて騒ぎ出すとかなんとか、色々と逸話があるんだよね。
結構高位の魔法使いじゃないとその姿は見れないって言われてるけど、この子は見れるんだ。ほえー、獣人って種族的に魔法が苦手だって聞いてたのに……すごい!
「わ、悪かったな。さっきの魔物に襲われて、少し気が立ってたんだ」
「ううん、私は気にしてないよ。妹をちゃんと守ろうとしたんだよね? えらいえらい」
「なっ、おまっ、頭撫でるな!」
申し訳なさそうにしゅんと垂れる狼耳を撫でてあげると、すぐにピンッと立って元気になった。
また少し警戒させちゃったけど、最初みたいな敵意は感じないし、これくらいがちょうどいいかな?
「さて、それじゃあ紹介が遅れたけど、私はファミア。見ての通りの人間で、ちょっとお腹空いたからこの森に入ってきたの。あなた達は?」
「俺の名前はコルド、こっちも見ての通り狼族の獣人だ。で、こいつは妹の……」
「シリルです。その、改めて、助けて貰ってありがとうございます」
元気いっぱいなお兄ちゃんとは対照的に、ペコリと礼儀正しく頭を下げるシリル。
んー、可愛いなぁ、なでなでしたいなぁ!
「え、えと……私が何か?」
「あ、ごめんごめん、あんまり可愛いからちょっと撫で回したい欲求が出ちゃって」
「可愛い、ですか……えへへ」
褒められて嬉しかったのか、シリルは少し照れたように頬を染める。
ああ、可愛い、尊い……この顔だけでご飯三杯くらい食べれそう。
「それより、早く村に戻らないと、また魔物に襲われちまう。早く行くぞ、シリル」
「でもお兄ちゃん、帰り道がどっちか分からないし……」
「うっ、そ、それは……」
私がシリルちゃんの可愛さに癒されていると、二人して困ったように目を伏せた。
え? それってもしや……。
「二人とも、迷子なの?」
「はい、お恥ずかしながら……」
「獣人なのに森で迷子になるんだね……」
「し、仕方ないだろ! 魔物に襲われて縄張りから出ちまったんだから、いくらなんでも初めて来る場所で帰り道なんてわかんねえよ!」
「ああ、なるほど」
私達人間にとっては、森なんてどこまで行っても全部同じにしか見えないけど、この子達獣人にとっては違うんだろう。そして、行き慣れた場所ならともかく、見知らぬ場所じゃ迷子くらいなると。
そういう意味では、人も獣人も同じなのかもね。
「分かった、それじゃあ私が二人を村の場所まで案内してあげるよ」
「え?」
「いや、何言ってんだよ。お前俺達の村に来たこともないだろ? どうやって案内するんだよ」
「正確には、あなた達の記憶に案内させる術があるというか……まあ、ちょっと待っててね」
そう言って、魔法鞄から取り出したのは小さなネックレス型の魔道具。
それをコルドの首にかけて上げながら、軽く機能の説明をする。
「これはね、使用者が思い浮かべた物の場所を教えてくれる魔道具なんだ。あくまで、使用者のイメージから魔力の痕跡を辿るだけだから、普段から使うような身近な物にしか効果はないけど……家なら十分適用範囲だし、絶対辿り着けるよ」
「魔道具って、人間が使う魔法の道具だろ? 俺、魔法使えないんだけど」
「そこは問題ないから、さあ思い浮かべて」
シリルじゃなくてコルドに持たせたのは、まだこの子に信用されきっていない今、妹に私の道具を使わせるのは嫌がるだろうと思ったから。
あとは私の魔道具を見て、あわよくばこの技術の凄さを実感して貰えないかなーという下心もある。
だって、このもふ耳少年に尊敬されたいもん!! そして仲良くなりたい!!
「おわっ、なんか出た!?」
そんな欲望を漲らせながら眺めていると、魔道具からふわりと光の玉が出現する。
さながら気紛れな妖精のようにコルドの周りをぐるりと一周した光球は、そのまま森の奥へと飛んでいき、私達の目に見える範囲で停止した。
「あれを追っていけば帰れるよ」
「分かった。行くぞシリル」
「うん」
兄妹仲良く手を繋いで、魔道具が導く先へ歩いていくもふ耳達。
そんな二人と並んで私もついていくと、やがてシリルの表情がぱぁっと輝いた。
「見てお兄ちゃん、あの木! 村の東口の方にあるやつだよ!」
「ほ、本当に帰って来れたのか……俺にも魔法が使えるなんて、すげえなこれ……!」
ようやく私の魔道具がちゃんと作動していることに気付いたのか、魔法が使えない身で魔法が使えたことに喜びを隠しきれないコルドが目を輝かせる。
それを見るや、私はここぞとばかりにドヤッと胸を張った。
「ふふん、でしょう? これぞ私の作った探し物探知魔道具、その名も『ふわふわサガッシー君四号』だよ!!」
「「…………」」
あれ、なんでそこで二人揃ってすっごい冷めた目で私を見るの? おかしくない?
「お前、人間の癖にすげーんだな、見直したよ。……名前はともかく」
「ちょっとコルド君や? 認めてくれたのは嬉しいけど、最後なんて言ったのかな?」
「何も言ってないぞー」
フーフーと、コルドは音の鳴っていない口笛で誤魔化そうとする。くっ、可愛いじゃないか、許しちゃう。
「助けていただいた上に村まで送って貰っちゃって、ありがとうございます。お礼がしたいので、よかったら家に寄っていきませんか?」
「いいの!? やったぁ!」
この子達に限らず、獣人って警戒心が強いから、普通の人は行きたくてもあまり近付けない。
でも、この子達がついててくれるなら私でも獣人達と仲良くなれるかもしれない。
ぐふふ、楽しみだなぁ……どんなところなんだろう。
「見えて来たぞ、あそこが俺達の村だ」
「おおー! ……お?」
テンションアゲアゲで声を上げたものの、伸ばした首はすぐにこてりと横に倒れる。
えっ、村? これが?
「あはは……えっと、小さいところで、あまりおもてなしも出来ないですけど、ゆっくりしていってください」
私の考えていることを察したのか、シリルがそう控えめに言うけれど、そんな言葉が無くてもそれほど豪勢なおもてなしなんて出来ないだろうことは容易に想像がついた。
村を覆うのは、木で出来た頑丈な柵。これはいい。
でもその奥に立ち並ぶ建物は今にも崩れ落ちそうなくらいボロボロで、外を歩く獣人の人達もみんな元気がなく、村全体をどんよりした空気が覆っている。
「ここが俺達獣人の村……"パヤック"だ」
半ば森に呑まれかかった廃村スレスレのオンボロ集落。
それが、コルド達の暮らす村の姿だったのだ。
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