第2話 辞める時はちゃんと退職金を回収しないとダメだよね
セントフィリア王国、王都セフィア。
魔道具の力で大きく発展したこの町の片隅に、私の家はある。
まあ、家と言ってもギルドから貰える安月給でどうにか暮らせる程度のボロ借家だし、それも今日引き払うんだけど。
でも、そんな家でも私の城であることに違いはない。
コツコツと貯めたお金で買い集めた資材や道具で作った魔道具の試作品に、設計図の数々。どうにか実用段階に至った物からボツになったガラクタまで、私の努力が文字通り山となって積み上がっている。
「うーん、何を持って行こうかな……」
そんな中から現在、何を持ち出して何を処分しようか絶賛悩み中だ。
出来ることなら全部持ち出したいんだけど、私が作った空間拡張系の魔法鞄は魔力がなくとも出し入れ出来るように改造したせいで性能が落ちてるんだよね。精々、ポーチサイズの空間を馬車一つ分に広げた程度。
最高級品なら家一つ二つ余裕で入るから、目標にはまだまだ全然及ばない。
「まあ、仕方ない。完成品だけ持って行こう」
日用品だけでも結構な容量食っちゃうし、失敗作は諦めるしかない。さらばガラクタ共、君たちは立派に私の糧になってくれた、いつまでも忘れないよ……!
「とはいえ……完成品だけでも、全部詰めるの大変だなぁ」
魔力を持たない私は、当然ながら魔法が自力では一切使えない。
手持ちサイズの細かな魔道具にしても数があるし、中には一抱えもある大きな魔道具だってあるしで、小さな魔法鞄に詰め込む作業だけで結構な時間が取られちゃう。
「はぁー、やっと終わった……作業道具も詰め終わったし、後足りないものはと……?」
軽く一息吐いて休憩しながら、後足りないものは何だろうと考えている時、ふと家の中にカランカランとベルが鳴った。
これは、家に見知らぬ誰かが近づいて来た時に鳴る警報の音。なまじ新しい魔道具の開発なんてやりまくってる場所だから、用心のために設置した魔力感知用の警報装置がここに来て反応したっぽい。
「このタイミングで? なんか怪しいなぁ」
ついさっきクビにされて、その足で町を出ようとしてるところに都合よく不審人物の出現とか、怪しすぎるでしょ。もしや、ギルドマスターのリベイクがバカにされた腹いせに刺客を送り込んで来たとか?
いやいや、流石にいくらハゲでもそこまではしないか。本物の刺客だったら警報装置になんて引っかからないだろうし。
「おうおう、ファミア・キャンベルってのがいるのはここでいいか!?」
「大人しく金目のもん寄越せやゴラァ!!」
「恨みはねえが、厄介なお人に目を付けられたテメェの不運を呪うんだなぁ!!」
なんて考えてたら、ちょっと強面の男三人がノックもせずに扉を蹴破って家に突入してきた。うわお、まさか本当に危ない人達だったとは。
でも、そんな乱暴な侵入はよろしくないよ?
「ぶあぁ!? な、なんだぁ!?」
「目がっ! 目がいてぇ!!」
「げほっ、げほげほっ!! 何が起こってやがる!?」
扉が破壊されたことで防犯装置が作動して、男達の顔面に霧が噴き掛けられた。
近場で摂れる刺激の強い植物を煎じて作った液体を発射する、簡単な暴漢撃退用魔道具だ。
うっかり誤作動を起こした場合でも笑い話で済むように、精々時間稼ぎが出来ればいいや、くらいのジョークトラップにしたんだけど……思った以上に効果が大きいなあ。意外と使い道多そう?
って、今は検証なんてしてる場合じゃなかったよ。
「さてそれじゃあ、危ない人達には大人しく寝て貰おうかな?」
「えっ? ぎゃっ!?」
「ぐべっ」
悶絶している男達のうち二人に棒状の魔道具を押し付け、そこに込められた《ショックボルト》という軽い電撃を流す魔法を発動、そのままおねんねして貰う。
その代わり、残った一人は床に叩き伏せて拘束した。一応話は聞いておきたいからね。
「ちくしょう、何なんだお前!? 魔力がない癖に金目の物は持ってる女だから美味しい獲物だって聞いたのに、話が違うじゃねーか!!」
「誰に聞かされたのか非常に興味あるけど、残念ながらお金は大してないよ。魔道具は……出すところ出せばお金になる、のかな?」
まあ、完成品の中にはすごく便利でギルドの同僚達にも大層高評価を貰えた物はいくつもある。物によっては、そのままギルドの新製品として売り出されたりもした。
作った私にはボーナスの一つも出なかったけどね!! 結構売れたって聞いたのに……ああもう、思い出したらまた腹が立って来たよ。
「それに、私は魔工師だよ? 本職の魔法使いよりはそりゃあ弱いけど、護身用の魔道具くらい持ってるに決まってるじゃない」
「魔力が無くて魔道具が使えるわけねーだろ!! くそっ、リベイクの野郎騙しやがって!!」
「うわぁ、尋問するまでもなく喋ってるし……まあいいか。それより、魔力がないのは本当だよ、この魔道具は魔力がなくても使えるってだけ」
「そんな魔道具あるわけねーだろ!!」
「そりゃあ、私が自分のために作った魔道具だもん、他では無いだろうね」
仕組みは単純、大気中の魔力を自動で集めて魔道具の核となっている魔石に蓄積し、本来使用者が消費すべき魔力の代用としているだけだ。
魔力の充填に時間がかかるから一日で使える回数に限りがあるのが難点だけど、これなら私だって魔道具を使える。
「というわけでー」
「ひっ!? な、何をするつもりだ!?」
バチバチと放電する棒を近づけると、ならず者の男は面白いくらい怯えて委縮してしまう。
若干可哀そうになって来たけど、私も一応は襲われた立場だし、せめてこれくらいは、ね?
「そのリベイクから、私を襲えって言われたんだよね? ここは見逃してあげるから、代わりにその時握らされたお金ちょーだい?」
にっこりと笑う私に、男は何度も涙目で頷き、有り金全部を渡してくれた。
こんなにいらないからと半分ほど返してあげたら泣いて感謝されたけど……いやうん、本当に予想した額の十倍以上あって驚いたんだよ。
とりあえず、これは退職金代わりと思ってありがたく頂いておこう。引っ越し先で使うかもしれないしね。
そんなことを考えながらも、身の危険を覚えた私は荷造りを程々で切り上げ、さっさと町を後にするのだった。
チンピラや盗賊は主人公のお財布(待て)