第11話 男の子は胃袋さえ掴んでおけば大体どうにでもなるって偉い人が言ってた!
コルドやシリルをたっぷりお世話することでリフレッシュした翌朝。私は早速、約束通り病気の獣人達の治療に入った。
とはいえ、私は怪我の治療はそこそこ学んでるけど、病気の治療はほとんど門外漢。
そうなるとサーナさん達の治療なんて無理じゃないかと言いたくなるところだけど、そんな私でもやれることはある。なぜなら、ここは王都じゃないんだから。
「皆さん、ちゃんと体を洗って清潔にねー、体の芯まで暖まってくださいよー」
まず第一に、王都の街中とこんな森の中じゃ衛生環境が違いすぎる。
倒壊寸前で隙間風も雨もガンガン入ってくるボロ家で生活してたんだから、それを改善して夜に体を暖かくして眠るだけで、治る人は簡単に治る。
というわけで、私は昨日子供達二人と試したお風呂を他の家々にも増設して回り、お湯を沸かしてあげた。
私の魔道具だと稼働限界があるから全員分のお湯を用意するのは難しかったんだけど、そこで活躍したのがシリルだ。
この村で唯一魔法の素養があり、魔力を潤沢に持つシリルに補充して貰うことで、どうにかお風呂の準備をすることが出来たのだ。
もちろん、お風呂に入れない状態の人もいたけれど、そういう人はお湯に浸けたタオルで体を拭いてあげることに。
「痒いところないですかー? ほら、ここもちゃんと拭かないとダメですからねー?」
「あっ、まって、そこは、自分で、やるっ……ふあぁぁぁ!?」
なぜか、終わった後はもうお嫁に行けないだとか、婿に行けないだとか言う人が多かったから、途中からは家族の人にやって貰ったけど。
そんなに恥ずかしいのかな? いやまあ、恥ずかしくはあるかもしれないけど、治療の一環だから我慢して貰わないと困るんだよね。
決して、私が合法的にもふもふするための言い訳に使ってるわけじゃないから。そこのところ勘違いしないように。
「ファミアの触り方はなんかこう、やらしーんだよ! 少しは手加減しろよ!」
「でも昨夜は気持ちよかった……またして貰いたい」
「シリル!?」
どこかぽやーっとした様子で呟くシリルに、コルドは目を丸くする。
うふふ、シリルは素直で可愛いなぁ、よーし今晩も張り切っちゃうぞー♪
「そんなことより! 飯の方はちゃんと作れてるのか!?」
「うん、それはもうばっちり」
心配性はコルドにそう答えながら、私は大きな鍋の中身をぐるぐるとかき混ぜる、
獣人達の改善すべき生活環境、二つ目は食事事情だ。
これまでは奴隷商から逃れるための逃亡の日々に、狩りも満足に出来ない極悪な生態系のせいで木の実や野草くらいしか食べられるものがなかった。
この森で採れる食料はどれも美味しいんだけど、肉が一切食べられないとなるとどうしたって栄養は偏っちゃう。
バランスの採れた食事は、健康への第一歩。というわけで現在私は、シリルやコルドに手伝って貰いながら、村のみんなのご飯を作っている真っ最中。
昨日狩ってきたライオベアの骨を出汁に、肉や野草をぐつぐつと煮込んだ熊鍋だ。
「こんな感じかな? シリル、一緒に味見してくれる?」
「うん」
これも例によって、私と獣人さん達で好みの差があったら困るから、シリルにも一口。
美味しいけどちょっと辛い、と言われてしまったので水を足して……これでどうよ?
「……美味しい……!」
キラキラとした瞳で呟くシリルを見て嬉しくなった私は、その頭を撫で回す。
気持ちいいのか、目を細めて顔ごと擦り付けてくる姿がめちゃくちゃ愛らしい。抱きしめたい。
いや、今は火の傍だからやらないけど。
「な、なあ、俺も味見していいか?」
「いいよ、一口だけねー。はい、あーん」
「いや、自分で食えるから!?」
木製のスプーンで掬って口元に持っていってあげると、ズザザっと後ずさっていった。
そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに……よしっ。
「シリル、あーん」
「あー」
「!?」
シリルに食べさせてあげると、途端にその表情が華やいでいく。
目の前で美味しそうに食べる妹を見せ付けられ、コルドがごくりと生唾を飲み込む。
「ふふふ、どうしたのかなコルド君? そんなに物欲しそうな目をしちゃって」
「べ、別にそんな目なんてしてねーし」
そうは言いつつも、コルドの目はチラチラと鍋の方を見ていて、世話しなくバタつく尻尾は今すぐにでも食べたいと必死に主張している。
そんな姿をにこにこと眺めていたら、コルドは大慌てで自らの尻尾を隠した。可愛い。
「ほら、我慢は体によくないよー? さあ、味見したくば大人しく私に食べさせられるがいい」
「なんでそうなるんだよ!?」
「私がそうしたいから!!」
「全く隠す気がない欲望塗れの回答ありがとうな!!」
堂々と胸を張る私に、コルドは呆れ顔。
そんな彼の目の前に、私は再びスプーンで掬った鍋を差し出す。
「ほら……美味しそうでしょ……? もう楽になっちゃいなよ……」
「ま、待て、もうちょっと心の準備をだな……!」
「そんなこと言ってると、またシリルに食べられちゃうよー? いいのかなー?」
「ぐ、う、うぅ……!」
シリルもまだ食べたいのか、私の隣でじっとコルドを見つめている。「食べないならちょうだい?」と、その目にはハッキリと書いてあった。
「……きょ、今日だけだからな!!」
「ふふ、分かった、今日だけ、今回だけねー?」
ついに食欲に負けたコルドを見て、私はしめしめとほくそ笑む。
一度欲望に屈した心が、二度と立ち直れるだなんて思わないことだね。
ふははは! もはやコルドの胃袋は私が掴んだ、これでいくらでももふれるぞー!!
私に食べさせられたことで、羞恥と天上の美味との間で葛藤しながらも悦びを抑えきれない様子のコルドを見て、私は悪魔のように微笑むのだった。




