9話 街に愛の歌流れ始めたら人々は困惑する。
「おいっ!! まどか殿!! 起きるのじゃ!! もうこんな時間じゃぞ?? このままじゃ遅刻してしまうぞ??」
「……遅刻って一体どこに行くんだよ。 学校がある訳でも無いし」
「いや、あるじゃろうがっ!! 今日は終業式とやらなのじゃろ?? あかね殿と結衣殿はもう行ってしまったぞ??」
終業式?? 一体何の話だ?? 別にこの世界にはそんなものはっ……。
「はっ!!」
そうだ!! 俺、今日本に帰って来てるんだったわ!!
寝ぼけた頭を無理やり起こす様にベットから急いで立ち上がると、俺の目の前にはエプロン姿のおっさんが立っていた。
……何やってんだこのおっさん??
「ふぅー、やっと起きたか。 ほれ、早く準備をすると良い、制服は出しといてやったからな。 あっ、朝ご飯も作っとるぞ、急いで食べるのじゃ」
俺が起きた事に安心したのか、おっさんは溜息を吐きながら台所へ向かった。
……クソ、ツッコミどころが多すぎて何から言えば良いのかわかんねぇー。
もう良いや、今は考えるのは辞めよう。 いちいち気にしてたら俺の頭がもたないわ。
寝起きだった事もあり、俺は流れに身を任せて立ち上がり、学校へ行く準備を進めた。
「ご、ごちそうさま!! じゃあ行ってくるわ!!」
「うむ。 気をつけるんじゃぞ!!」
エプロン姿のままのおっさんに見送られて、俺は急いで家を出た。
……おっさんが作ってくれた朝飯は意外にも美味かった。
「はぁはぁ、何とか間に合いそうだな」
手に持っていたスマホで時間を確認し、走りから歩きへとシフトチェンジする。
それにしても、青蜜も結衣ちゃんは大丈夫かな?? 昨日はかなり体調悪そうにしてたし……それにリアが言ってた影達の事も気になる。
まぁあの二人に限っていじめられるなんて事にはならないだろうから、心配すべきは俺の方なんだろうけど……はぁー、憂鬱だな。
俺の代わりに学校に行ってた円人がこの4ヶ月を静かに過ごしていて欲しいと願いながら俺は学校へと向かった。
通学路も終わりに近付き、同じ制服姿の生徒が見え始めたと同時に俺は奇妙な感覚に囚われていた。
「な、なんか凄い視線を感じるんだけど」
き、気のせいかな?? どの女子生徒も俺の方を見てる気がするんだけど。
しかも、異世界転移前と比べると冷たい視線と言うよりはなんか熱さを感じる様なっ……。
「え、円人様!! お、おはようございます!!」
俺が戸惑う中、全く面識の無い女の子二人組が俺に声をかけてきた。
「えっ?? あっ……お、おはよう、ございます??」
「きゃー!!」
俺が返事とすると、女の子達は顔を真っ赤にしてその場から走り去って行った。
……えっ何?? どう言う状況??
「いいなぁー、あの子達円人様から挨拶してもらってるわよ」
「わ、私も挨拶したら返してくれるかな?? あー、でも恥ずかしいっ!!」
「私は昨日して貰ったからもう満足よ!! この夏はもう思い残す事ないわ」
周囲の女子達は俺に聞こえる声で、そう呟き始めた。
……あいつ、マジで何したの?? 変な魔法でも使ったんじゃないだろうな??
あまりの変化ぶりに怖くなった俺は、その場から逃げる様に駆け足で学校へと急いだ。
は、早く青蜜と結衣ちゃんと合流しよう。
学校へついた俺はそのまま急いで青蜜達の居る教室へと向かい、その扉を開いた。
……な、何これ??
教室の中は更に大勢の女の子達で溢れ、その中心には青蜜と結衣ちゃんが顔を真っ赤にして佇んでいた。
「あかね様は本当に美しいわ。 まさに純白の輝きよ」
「結衣様も負けてないわよ……あの慎ましい胸に、強靭な筋力。 格好良すぎですもの」
青蜜達を囲う女子達は皆一様に羨望の眼差しを向けていた。
えぇ……確かに元々人気あった二人だけど、これもう神格化されてるレベルなんじゃ。
「み、見て!! 円人様も来たわ!!」
「きゃー!! これで学園3Fの完成よ!!」
俺に気付いた女子が小声でそう言うと、辺りはどんどん騒然さを増していった。
俺は、思わず青蜜と結衣ちゃんの近くへと逃げる。
……純粋に恥ずかしい時って少しでも知ってる奴の近くに行きたくなるもんなんだな。
「いつ見ても神々しいわ。 奇跡の3人よ」
「そうね、まさに奇跡だわ。 3Fは神様が産んだ人の理想形なんだもの」
「えぇ、Fayのあかね様、Fistの結衣様、それにFellowの円人様。 まさに最高で最強の御三方ですわ」
……この学校ってこんな変な子ばっかりだったの?? 絶対何かしただろ、あの影達。
ってかFellowの円人様って可笑しくない?? 青蜜の妖精と結衣ちゃんの拳はまだわかるよ?? 俺だけ男って!!
そのままじゃん!! いや、同級生か?? だとしてもそのままだけどな!!
「ま、まどかちゃん。 どうにか出来ないかしら??」
「む、無理だろ。 そもそも何があったのかもさえ知らないだぞ??」
「やっぱりまどかさんも知りませんか……終業式が終わるまでは我慢するしかないみたいですね」
結局俺達はそこから何もする事は出来ず、ただひたすらに夏休みが早く訪れる事を祈っていた。




